第3章-21 紫の出現頻度
第三章
二十一 紫の出現頻度
タシャとトマスの村で楽しく一夜を明かし、翌朝一番に出発する予定だったが、男手の無い村で色んな手伝いをしていたら、あっという間にお昼過ぎになってしまった。
それだけでは無く、仕事が立て込んでいて疲労のピークだったベージュが中々起きなかったというのも大きな理由の一つだ。
いつもは鼻血を吹き出しつつ、しつこく絡んでくる変態兄貴だけど、一応第二王子だし、王国でも名高い頭脳の持ち主と言われているだけあって、忙しいんだな。
変態だけど。
「久しぶりにゆっくり寝られた。感謝する」
田舎の親戚の家みたいな居心地の良さが有り、目的地が無ければいつまでものんびりしていたかったが、残念ながらそうも行かない。
出発の時を迎え、ベージュが村長に感謝の意を伝える。
オレは一応お姫様だし、ベージュの隣に控えている。
ロッソ達や他の騎士団達はそれぞれ、村人達と別れの挨拶を交わしているみたいだ。
ベージュが感謝の言葉と同時に執事に目配せをして、恐らく金貨が入っているであろう袋を手渡した。
「ベッ、ベージュ王子! こんなに頂いてしまって宜しいのでしょうか?」
思ったより多い金額だったのか、村長が驚いた顔を向ける。
「多いと思った分は、ヴィオが紹介したセンベイとやらを商品化する費用にでも充ててくれれば良い」
ベージュの言葉に村長は金貨が入った袋をギュッと握り涙ぐむ。
「はい。必ず形にしてみます。……それにしてもあなた方親子様には助けられてばかりです」
「親子? 国王が何かしたのか?」
「いえ、第二王妃様です」
まさか王妃の話だとは思わなかったようで、ベージュが切れ長の目を見開く。
「会ったことがあるのか!?」
「左様でございます。まだベージュ王子がお小さい頃でした。第二王妃様がこの村の米で作ったリゾットを気に入ってくださり、毎年お城に献上することが出来るようになったのです。それが無ければ、出稼ぎだけでは足りずに村はどうなっていたことか……」
「そう……だったのか」
「あの、青紫色の美しい瞳と微笑み、お目にかかれたのは生涯の宝でございます」
「……今度、母に会った際にはこの村のことも伝えておくよ」
確かベージュの母親である第二王妃は療養中でもう何年も表には姿を現していない。
一瞬、ベージュが寂しそうな表情を浮かべたが、気のせいかと思うくらい直ぐにいつもの表情に戻ってしまったから、本当に気のせいなのかも知れない。
それにしても、第二王妃様か。
直接お目にかかったことは無いんだけど、肖像画で見たら凄く綺麗な人だったな。
確かに青紫の瞳が印象的だった。
「そうか、第二王妃は瞳が紫なのか」
気付いたことが口から出てしまった。
「ん? ヴィオ、どうしたんだい? 今更?」
ベージュも村長も不思議そうにオレの顔を見る。
「え? あっ、確かに今更なんですけど、瞳が紫って紫の申し子の中でも珍しいですよね?」
そうだ、その筈なんだ。
だって、第四王妃イザベラ様は髪が青紫で、第五王妃ローザ様は髪が赤紫。
その子供達何人かも皆、髪が青紫か赤紫なのだ。
「髪も瞳も紫な真の紫の申し子のヴィオに言われてもなぁ……」
「それはそうかも知れませんけど」
「確かに、しっかり統計を取ったわけじゃ無いけど、珍しいとは思うよ。そもそも紫の申し子自体が珍しいって言うのが大前提だけど、その中でも比較的多いのが、髪が紫の場合だね。次が瞳」
「そして真の紫の申し子が続くんですね」
「いや、その間に一つ入る」
「へ? どこが紫なんですか?」
爪とかはマニキュアで直ぐに出来ちゃいそうだし、他にどこなんだろう?
まさか歯とか?
「いやいや、男性の紫の申し子だよ」
あっ……。
言われてみれば確かに。
お姫様の兄弟達も紫の申し子なのは、第六王女と第八王女。
女の子だ。
「男性の紫の申し子もいるのですか?」
「もの凄く珍しいけどね。確かヴィオの最初の……」
「ベージュ様、ヴィオ様、そろそろ出発しないと次の宿に着くのが遅くなってしまいます」
遠慮がちにエミリィちゃんが声をかけてきた。
振り返ると他の皆はもう出発の準備万端で待っているじゃないか。
「ああそうか。話し込んでしまったな」
ベージュが頭を掻くと、村長が頭を下げる。
「こちらこそ、お引き留めしてしまい、申し訳ありません。……ヴィオーラ姫様」
「はい」
「貴女様の豊かな発想力と美しい瞳と髪も決して忘れません」
「そんな……」
何だよ、ちょっと泣きそうになっちゃうじゃないか。
「ご婚約の暁には必ず、婚約センベイを城へ献上に伺います」
「それは忘れてください」
出そうだった涙が引っ込んだところで、いよいよ出発。
「タシャー! トマスー! みんなー! お元気で~!!」
馬車の窓から落ちそうな勢いで、手を振りまくる。
「ヴィオ様! 危ないですよ!」
エミリィちゃんに怒られつつ、一行はひたすら北上。
北の森へ向かう。
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