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第3章-20 ポテンシャルを見せてやる!

第三章


二十 ポテンシャルを見せてやる!




 皆で作った扁平アーチ橋を渡って一時間ほどで、タシャとトマスの村へ着いた。

 もうすっかり夜だったが、橋が直った途端に早馬が出たらしく、村長の家はすっかり出迎えムードだった。


 とは言え、一応婚約の儀式のための旅だと言うことは内密なので、ささやかな宴会を用意してくれたようだ。

 騎士団のメンバーも橋造りで疲れているというのに、交代で見張りをするらしく、何名かは宴会場に顔を出していない。

 大変だなぁ……。


 宴会に参加している者たちは、一杯始めて実に楽しそうである。

 ……つっても、オレは呑めないんだけどね。

 このお姫様、あんまりお酒、強くないみたいだし。

 元の世界では未成年に当たる年齢だけど、こっちでは成人扱いらしいんだけどさ。


 料理は決して豪華では無いけれど、家庭料理って感じで美味かった。

 最初はお姫様と食事を共にするのは滅相も無いと遠慮されたが、一緒に食べたり話したりする方が落ち着くので、どうにか説得して、村長達とも一緒に食べることになった。


この世界では珍しく、床に座っての食事で、村長の隣を時計回りにロッソ、オレ、ルーカ、エミリィちゃんと並んでいる。

 あとはバラバラに騎士団のメンバーが座って、タシャとトマスや、村の女性陣と談笑している。


 元々家庭料理で育ってるし、こういう方が落ちついて食べられる。


 周りを見ると、タシャとトマスの言う通り、働き盛りの男はおらず、村長もおじいさんと言って差し支えない年齢に見えた。

 タシャとトマスの祖父だけあって、顔はどことなく似ている。

 白いひげは少しサンタクロースチックである。


「男衆は皆、出稼ぎに行っているのですか?」


 程よく酒が回った様子で、ロッソが村長に問いかける。

 ベージュが居れば、ベージュが村長と歓談しただろうが、寝不足がキツかったらしく、到着するなり、ソッコーで眠りに行ってしまったのだ。


 それにしても、こいつが敬語を使う度に違和感で背中がムズムズする。

 一応、大人としてちゃんと出来るんだな。


「はい。お恥ずかしい限りですが、ご覧の通り貧しい村故、出稼ぎ頼みなのです。女達にも苦労や心細い思いをさせているので、心苦しいところです」


 言われてみれば、村長の家だからか広いけれど、随分簡素な作りだ。


「確かに。大きな街道沿いでは無いですし、現状では観光客も望めませんしね。……何か名産とかは無いのですか?」


 少し暗い話題になってしまったので、話題を変えるのかと思いきや、ロッソはそのまま質問を続ける。

 チラッと隣のルーカを見ると、気にした様子も無く食事をしていたので、この位はセーフなのだろう。

 オレが学生とお姫様しかやったことがないからなのか、こういう話はどこまでが失礼じゃ無いのか、イマイチ分からない。


 まぁ、オレも食べながら聞くことにしよう。

 お腹減ってるし。

 この村のリゾット、めっちゃ美味いし。


「名産……でございますか。そうですなぁ、米は良く取れるのですが……」


「え? 米が取れるなら万々歳じゃ無いっすか?」


「ヴィオーラ、どういう意味だ?」


 咄嗟に言葉が口を吐いてしまい、ロッソが驚いた顔を向けてくる。

 よく見ると、村長やルーカにエミリィちゃんも驚きの表情。


 うっ、やってしまったか……。


「えっとー、お米が収穫できるのならとても喜ばしい事じゃありませんか?」


「いや、お前の言葉遣いに今更細かいことは言わん。米が取れると万々歳と言ったな? 確かにこの村のリゾットは美味かったが、他にも活用方法があるというのか?」


 えー?

 もう、オレの言葉遣いってロッソの中で若干諦められてるわけ?

 これでも頑張って丁寧に喋っているつもりなのに。


 っつーか、お米の国で育ったものとしては聞き捨てならないな。

 そりゃあ、リゾットも美味しい料理だし、オレも好きだけど、米はそれだけじゃ無いだろう!

 お米のポテンシャルってそんなもんじゃ無いだろう!


「先程休憩で食べたおにぎりも、リゾットよりも硬めに炊いたお米に塩をつけて中に具を入れて握ったものです」


「ああ、そうだったな。あれは美味かった。硬めで米を炊くという発想が無かったな。オニギリは持ち運びには便利そうだが、日持ちはするのか?」


「う~ん、冷凍できれば良いんだけど、常温だと日持ちはしませんね。レオーネ様はどうして日持ちを気にするんです?」


 村長も同じ疑問を持っていたらしく、オレの質問に小さく頷いている。

 ロッソはそんな様子に少しだけゆっくりとした口調で説明する。


「日持ちするなら、行商に乗せられるだろ? そうしたら、村の中で仕事が増えて男衆が総出で出稼ぎに行く必要も減るだろう」


 あー、そう言うことかぁ。

 お土産みやげみたいな名産品が欲しい訳ね。


 パッと思いつく、ポピュラーなお土産と言えば饅頭まんじゅうだけど、餡子あんことか色々大変だし、多分、普通に作ると日持ちは良くないよな。

 現代の技術で日持ちさせている気がする。


 もっと昔から日持ちするもの……干し芋……は芋だし。


 米を使うもので……日持ちのする……お土産になりそうな……


煎餅せんべいだ」


「「「「センベイ?」」」」


 ロッソだけじゃなく、村長やルーカ、エミリィちゃんまで同時に聞き返してきた。


「本当は餅米の方がメジャーなんだけど、普通のお米でも出来る筈なんだよな。あー、さっきのおにぎり残しておけば良かったな」


「ヴィオ様、休憩の時にヴィオ様が食べなかった分が残っていますよ」


「エミリィ、取っておいてくれたの?」


「ええ、持って行きそびれてしまいましたけれど……」


 ちょっとムスッとしながら、エミリィちゃんがポケットからおにぎりを二つ出す。


 ああ、オレがロッソとおにぎりを半分こしてしまったから、出せなかったのか。


 ん?

 今、ロッソの奴、ニヤッとしていなかったか?

 もしかして、オレの分のおにぎりがあるって気付いていたのか!?


 くそっ!

 問い詰めたいが、話の腰を折りすぎてしまうし、出来ないじゃないか!


 ロッソにはムカつくけど、まずはお米の国の人間として、米の魅力を伝えることに専念しよう。

 ……後で問い詰めてやる!


「エミリィ、ありがとう。丁度二つありますし、一つはおにぎりのサンプルとして、村長さん、後で、食べてみてください。もう一つで煎餅というおつまみにもなるお菓子を作りたいと思います。火鉢か何か貸して頂けますか?」


「火鉢ですか? 直ぐに持ってこさせます」


「じいちゃん、おにぎりもすっげー美味いから」


「早く食べた方がいいぞ~」


 慌てて火鉢を準備する村長達にタシャとトマスが声をかける。

 子供の素直な感想で美味いって言われると嬉しいもんだな。



◆ ◆ ◆



「まず、おにぎりを良く潰します。今回は中にシャッケーが入っているので、日持ちしなくなるので抜いちゃいます。あっ、タシャ食べるの? 良いよ。……で、塩を振りつつ平たく伸ばしたら、適当な大きさに切って、じっくり弱火で両面を焼きます」


 全然三分じゃ無いんだけど、いつの間にかクッキング番組みたいに村長だけじゃ無くて村の女性陣にも説明をする事になってしまった。

 よく見ると、タシャはシャッケーを小さな子供達にちぎってあげていた。

 今はオレたちが来ているから、色んなご飯が出ているけど、普段は結構大変なんだろうな。

 少しでも力になれればと、煎餅を焼く手にも力が入る。

 ……とは言え、どちらかと言うと優しい手つきが求められる作業なんだけどさ、気持ちの問題ね。


「まぁ、お米を焼くとこんなに良い匂いがするのね」


「これがお菓子なの?」


 徐々に焼けてくる煎餅に、村の女性陣は目を丸くする。

 皆ちょっとお酒が入っているせいなのか、極端に畏まったりされずに済んで、有り難い。


「お菓子と言っても、しょっぱいお菓子なんですよ。なので、人によってはおつまみの方が合うかも知れませんね。……はい、出来ました! 粗熱が取れたら食べてみてください」


 おにぎりが割と大きかったこともあり、村長とロッソの他に女性陣も何名か味見が出来た。


「何これ? 堅いけど、パリッとしていて美味しい!」


「しょっぱいのに、何枚も食べたくなっちゃう」


「えー、私も食べてみたい! 奥様、明日作ってみて~」


「私も~」


 皆喜んで食べてくれてるみたいで良かった良かった。


「乾燥させるので、日持ちはしますが、どのくらい大丈夫なのかは実験してみてくださいね」


 軽く注意事項は告げておく。


「ヴィオーラ、センベイは何か飾りとかつけられるのか?」


 村人達が盛り上がる中、ロッソがオレに耳打ちする。


「ああ、焼き印とかつけられると思うよ。村の名前とか商品名とか入れても良いと思うよ」


「成程な……村長!」


 ロッソが足早に村長の側に移動する。

 何か、誰彼構わず呼びつけそうなのに、一応お年寄りには優しいところがあるんだな。

 ちょっと感心しようと思ったのに……


「承知しました! お任せくださいませ! ヴィオーラ様とレオーネ様が正式にご婚約の暁にはお二人の焼き印を施したセンベイを記念販売いたします!」


「なっ!」


 前言撤回。

 ホント、油断も隙も無い。


「うわぁ、良いねぇ。記念センベイ。ボクも買うよ」


「ルーカ、面白がってないで止めてよ!」


「どうしてぇ? 地域活性はどこの国でも大きな課題だよ?」


 くっ、急にスケールのでかい話に切り替えられて、返答に困るじゃ無いか!


「ヴィオーラ」


「何すか?」


 もうロッソ相手に敬語を使う気も起きない。

 いつも起きないんだけどさ、特に今はもう無理、ゼロ。


「はしゃぐなら二人きりの時にいくらでも聞いてやるぞ」


「誰がアンタとなんか二人きりになるか!」


 ぜってー、いつかギャフンと言わせてやる。

 普通、ギャフンなんて言わないのは百も承知だけど、言わせてやるからな!


 オレの意気込みとは裏腹に、村の特に女性陣から妙に生暖かい眼差しを向けられる。

 何なんだよ?

 その、そういう時期ってあるよね、分かるわぁ……みたいな目線は!


 分かられて堪るか!!


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