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第3章-19 もしかして、お姫様らしくない?

第三章


十九 もしかして、お姫様らしくない?




「あのぅ」


「そろそろ休憩時間終わりだってさ」


 おにぎりを頬張っていると、双子の少年タシャとトマスが声をかけてきた。

 少し離れたところで焚き火が爆ぜる音が聞こえる。


「そうなの? わざわざありがとう……って、どうしたの?」


 休憩時間終了を知らせてくれたお礼を言っても、その場を動こうとしない二人。

 双子はお互いを見つめて頷き合う。


「「新婚旅行のお邪魔をしてしまって、すみませんでした!!」」


「「はっ?」」


 双子につられてオレとロッソまでシンクロしてしまう。

 いやいや、オレたちはシンクロしなくて良いんだってば。


「ってか、新婚旅行じゃ無いんだけど」


「え? そうなんですか?」


「お前達にはどんな風に見えてたんだ?」


 ロッソが興味深そうに双子を覗き込む。


「えーっと」


「あのぅ」


「別に怒ったりはしないぞ」


 言いづらそうな双子に、ロッソが口元だけ微笑む。

 一応、子供には優しいんだな。

 怒らないという言葉が効いたのか、おずおずと口を開く。


「貴族様が紫の申し子(アメジスト・レイン)の女の子を捕まえて」


「新婚旅行したのかなぁって思いました」


「フッ。正直な感想だな」


 ロッソは面白そうに笑っている。

 あれ?

 でも、貴族様と女の子(・・・)って事は、オレってばお姫様はおろか、貴族のお嬢様にも見えないって事じゃ無いのか?

 あれれ?

 結構立ち振る舞いとか練習したんだけどな。

 オレ自身は別にお姫様にもお嬢様にも見えなくて良いと言えば良いんだけど、鏡の中に居るお姫様の魂にはちょっと申し訳ない。


「あのさ、私って、あんまりお嬢様っぽく見えない?」


 一応、後学のためにどのように見えたのかはちゃんと確認しておこう。


「だって……」


「なぁ……」


「怒らないから!」


「ヴィオーラ、もう怒っているぞ」


「くっ」


 ロッソに突っ込まれたらおしまいな気がする。


「ほら、怒らないから、ねっ!」


 気を取り直して、どうにかこうにか少年達に微笑みを向ける。

 無理に微笑むから、頬の筋肉がピクピクするじゃないか。


「だって、貴族様と一緒に馬車じゃなくて馬に乗っていたし、びしょ濡れになりながら魚釣ったり、ご飯作ったりしてたし、それに大声で騒いでるしなぁ」


「姉ちゃん、折角見初められたんだから、これからちゃんと修行した方が良いぞ」


 ガーン。

 だからオレ、割と頑張って修行したんだよ?

 頑張った結果がこれなんだけど。


 っつーか、横でロッソがめっちゃ笑っているじゃないか!

 くそっ!


「ははは、普通の娘に見えたから紫の申し子(アメジスト・レイン)でも緊張した様子が無かったのか」


「そうですね」


「あと、この北部地域では割と紫の申し子(アメジスト・レイン)っているんですよ。もう大分前に嫁いじゃったけど、家の遠縁でも一人いましたよ」


「そうなのか?」


 ロッソの言葉に双子が頷く。


「でも、姉ちゃんほどしっかりした紫色は見たこと無いけどさ。北部だと紫と言っても青紫色が多いみたいだよ」


「ってか、姉ちゃん目も紫って事はあれ? もしかして――」


 双子が言いかけたところでロッソが二人の肩をガシッと掴む。


「この娘はお転婆な普通の紫の申し子(アメジスト・レイン)だ、良いな?」


 良いな?

 の部分で、すっげー目力を見せつける。


「「りょっ、リョウカイデス」」




「ほらー、橋の仕上げをするよー!」


 丁度良いタイミングでルーカから声がかかる。

 いつの間にか他の皆は直りかけている橋の前に集まっていた。


「あれ? 疲れていたみたいだし、休憩した方が良いかと思ったけど、もしかしてあのまま一気に完成させちゃった方が良かった?」


「それならそう言う。石を組んだ後に少し置いた方が良さそうだったからな」


 心配になってコソッと聞くと、ロッソは小さい声で答えてから橋の方へ向かう。

 オレも双子達と慌ててそちらへ向かう。


「あのさ……」


「さっきは失礼なこと言っちゃって……」


「気にしなくて良いから。それより橋の完成見ようよ!」


 オレの立場に気付いてしまって、ものすごーく気まずそうにしている双子に敢えて明るく声をかける。

 確かに双子の言う通りだしな。


 オレと双子が橋の前に着いたときには、石を組む土台となった枠組みを木槌きづちで抜いているところだった。

 暫く、規則正しい木槌の音が夜の河原に響く。


「あっ、抜けた」


 ちょっとずつ動いていた枠組みが最後、スポッと抜けた。

 すると、石で組まれた橋はその重みで一瞬、グッと下がったが、直ぐに石同士がかみ合って安定した。


「「うわー、すっげー」」


「ホントだな」


 いっけね。

 双子のフランクな話し方につられて男言葉に戻りそうになる。

 喋り方くらいもっと簡単に安定すると思っていたけど、これがなかなか難しいんだよなぁ。


 そんなことを考えつつも、オレたちが感心していると、ロッソやルーカが試しに乗って安全を確認している。

 細かい話はよく聞こえないが、様子からして大丈夫そうだ。


「ふぅ、どうやら大丈夫そうだから、ボクは馬車に戻るとするよ」


「ベージュお兄様?」


 振り向くと、すっかり疲労困憊のベージュが立っていた。


「ヴィオもお疲れ様だったな」


「ベージュお兄様こそ、構造計算お疲れ様でした」


「なかなか面白い経験だったよ」


「私が扁平アーチ橋と言い出したのに、肝心な計算だけ任せてしまって申し訳ありません」


 オレが落ち込んでいると、いつもなら鼻血を吹き出しながら心配しまくるベージュが意外にもケロッとした顔でオレに微笑みかける。


「それはそうとも言いがたいよ」


「え?」


「確かにヴィオの言う通り、計算が出来なきゃ色々困るけど、まず扁平アーチ橋のアイディアが出なければこのスピードで完成しなかっただろう。だから、ヴィオもお手柄なんだよ」


「ベージュお兄様……」


「おや、あの帝国騎士は止めてボクの方が良くなったかな?」


 色々疲れが溜まっているのだろう、目の下を真っ黒にしながらも悪戯っぽい表情を向けてくる。


「もう、ベージュお兄様ったら。そもそもレオーネ様とは止めるも何も無いですからね」


「ふふ、そうか。じゃあ、ちょっと頭を使いすぎたし、次の村に着くまで仮眠させて貰うよ。……そこの少年達もボクの馬車に乗りなさい」


 急に声をかけられたタシャとトマスは驚いて目をパチクリさせている。


「「え……でも……」」


「早くベッドで寝たいんだから、歩きの子供達が居ると着くのも遅くなっちゃうし、遠慮しなくて良いよ。それに君たち村長の家の子供だろ?」


「確かに祖父ちゃんが村長ですが……」


「どうして分かったんですか?」


「この辺は出稼ぎが多い地域なのに、男の双子を二人とも手元に残しておくって事はそれなりの家なのかなぁと考えただけさ。君たちの村に立ち寄る場合は村長の家に泊まることになっているんだ。ほら、眠いんだから馬車に行くよ。……ヴィオも村まではちゃんと馬車で行くんだよ」


「分かりました」


 ベージュは大きな欠伸あくびをすると、双子達を引き連れて馬車へと入っていった。


「ふあぁぁぁ」


 欠伸がうつったのか、何だかオレも眠くなってきてしまった。


 出来なかったこともあるし、悔しかったこともあるけど、それでも自分なりに今出来ることはやったからだろうか、何だか心地の良い疲れだ。


 今日はよく眠れそう。


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― 新着の感想 ―
[一言] まあ、普通のお姫様は……ね?
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