第3章-18 間接○○の方が、逆に恥ずかしい件について
第三章
十八 間接○○の方が、逆に恥ずかしい件について
「そう言えば、どうして帝国側はレオーネ様とルーカだけなの?」
グシャグシャにされた髪の毛を手ぐしで直しながら尋ねる。
別に立ったままでも良かったんだけど、ロッソが自分の隣をポンポンと示したので、そこに腰掛ける。
オレが座ったのを確認してから、ロッソが口を開く。
「どうしてだと思う?」
「え?」
ちょっと質問しただけなのに、逆に質問を返されてしまって少し戸惑う。
「何か仮説があるから訊いているのでは無いのか?」
「仮説って程では無いんだけど……そうだなぁ、帝国がアメジスト王国を信用してるって示すためなのかな?」
ぞろぞろ帝国騎士団を引き連れていたら物々しいしな。
オレの答えを聞くと、ロッソは軽く頷く。
「1/3正解って所だな」
「げっ、それって33点って事だろ? ヤバいじゃん」
これでも一応、元優等生なので、低い点数だと傷つく。
「1/3は正解しているのだし、そこまで落ち込むことは無いがな」
「でも、悔しいなぁ……」
ぐ~~~っ
他の答えも考えようとしたところで、ビックリするくらいハッキリとお腹が鳴ってしまう。
そういや、自分の分のおにぎりを確保するのを忘れていた。
「あっ……」
遠目におにぎりの乗っていた皿を確認するが、すっかり空っぽだ。
そうだよなぁ、皆お腹減ってるもんなぁ……。
ぐ~~~っ
うぅ、仕方が無い。
後でこっそり干し肉でも食べるかな。
久しぶりに和食が食べたかったけど、仕方ないよな。
「ほら、食え」
「へ?」
ロッソに声をかけられて隣を向くと、半分ほど食べたおにぎりを差し出される。
「元々大きかったからな」
「えっ…、でも、レオーネ様もお腹が減ってるでしょ? それに、半分こって言うのも間接……ス……と言うか、なんと言うか……」
間接キスという甘酸っぱい単語を男相手に使うのも抵抗があって、もにょもにょしてしまう。
そんなオレの様子を見て、ロッソが先程までとは打って変わって、意地悪く微笑む。
「あれだけ散々やっておいて、今更間接キスが恥ずかしいのか?」
「肝心な単語を抜くな! もっとすっげー事してるみたいに聞こえるだろうが!」
ベージュや王国騎士団に聞かれたら色々面倒なので、周りを見渡すが、幸い少し距離があるし、皆も喋りながら休憩しているので、有り難いことに注目は集めずに済んだ。
でも、どこで聞かれているか分からないし、油断は出来ない。
「はは、それなりにしているだろう」
「キス以上してな……むぐっ」
反論しようと大口を開けたところにおにぎりを銜えさせられる。
文句を言いたいところ何だけど、口に入れたまま喋るのも行儀が悪いし、これ以上お姫様のイメージを低下させてしまうのも、一応これでも心苦しいので、ちゃんと咀嚼することにする。
モグモグモグモグ
美味いな。
何だこれ?
すっげー美味い。
オレ、天才なんじゃねぇ?
ツヤツヤ炊けた白米と、丁度良い塩気。
そして、鮭……元いシャッケーもふっくら焼けていて申し分なし。
別に和食派では無かったけど、当たり前に毎日食べていたから気付かなかっただけで、好きだったんだな。
普段はあまり元の生活のことを考えないようにしているんだけど、急に懐かしさがこみ上げてきて、涙腺が緩んでしまう。
男女の差なのか、オレとお姫様の個人的な差なのかは分からないけど、お姫様の身体は色々な違いがあるけど、とにかく涙腺が緩い。
でも、こんなところで急に泣かれてもロッソだって困るだろう。
もしオレだったら、隣に居る女の子が急に泣き出したら大パニックだ。
こっちがパニックのあまり泣いちゃうかも知れない。
なんて、下らないこと考えて気を紛らわそうとするけれど、涙を引っ込めるには至らない。
どうしたものか……。
――ガシッ
「うぐっ」
不意にロッソが大きな手でオレの頭を押さえつつ、ガシガシと乱暴に撫でる。
手ぐしで整えた髪が、またグシャグシャになる。
前もよく見えないし、隣に居るロッソの顔もよく見えない。
「ほら、とっとと食え」
言葉こそ乱暴だが、その声は優しさを含んでいる。
あれ?
もしかして、周りから泣いているのを見えないようにしてくれているのか?
「ひゃい……」
ちゃんと返事をしたかったのに、涙声で上手に喋れない。
「頑張ったな」
やめろよ~。
柄にも無く優しくするなよ。
このお姫様の身体、マジで直ぐに涙が出るし、止まりづらいんだから。
喋るとまた泣いてしまいそうなので、おにぎりに齧り付く。
さっきよりしょっぱく感じるけど、やっぱり美味い。
それにしても、普段、城に遊びに来てはオレをからかっている様子からは、とても帝国の第一騎士団長には見えなかったけど、こうやって橋を作るときの様子や、今の気遣いを目の当たりにすると、こいつも本当に騎士団長なんだなぁ……と思い知らされる。
意外と仕事が出来るんだな。
失礼かも知れないけど、正直な感想だ。
だって、普段オレの所に遊びに来てばっかりだったし……。
でも、仕事が出来るって事は、仕事を任されやすいって事で……、今までロッソのこと暇人だと思っていたけど、もしかしたら……
「レオーネ様って忙しいの?」
「ん? まさか暇だと思っていたのか?」
オレの声がさっきより涙を含んでいなかったせいなのか、ちょっとほっとしたような声でロッソがこちらを向く。
「だって、遊びに来てばっかりだったから。そっかぁ、本当は忙しいからルーカだけ側に置いて他の皆は仕事のために帝国に帰したんだね」
「何だ、先程の問題についてずっと考えていたのか」
「だって、分からないままだと気になっちゃうから……」
「悪くない。これで2/3正解。及第点だな。もう少し細かい話をすると、ヴィオーラもその場に居たときの話だが、当初アメジスト王国はもっと大人数のお供を連れていくと言っていたし、こちらもそうなるだろうと予想していたから、帝国の第一騎士団全員で同行予定だったんだ。だが直前で、国内移動な上にまだ正式発表していない婚約と言うこともあってか、あまり目立つのは控えようという流れになったらしい。そこで、王国が人数を絞ったのに合わせて、色々忙しいこともあって、帝国側も人数を減らしたというわけだ」
ロッソがオレの目を覗き込んでくる。
顔が近いんだよ!
このままだと、何をされるか怪しいものなので、慌てて喋る。
「あっ、あと一個が分からないんだよなぁ」
人数を減らすにしても、何も二人にまで減らさなくても良いと思うんだけどなぁ……。
「強いからだ」
「え?」
一瞬、何を言われたのか理解できず、聞き返してしまう。
「縁起でも無いが、ここで戦いが起こってもオレとルーカの方が強いって事だ」
「…………」
それって、今、十人ほど居るアメジスト王国騎士団と戦っても、ロッソ達が勝てるって事だよな。
ビックリして固まってしまうオレに、ロッソが言葉を続ける。
「そうはならないから、安心しろ。そういう事が起こらないようにしたくて、ここに来ているんだしな」
「そうなのか?」
「まぁ、そう単純でも無いんだが、そんな悲しそうな顔をするな……って、お前……フッ」
「え? 何?」
急にロッソが笑うので、理由が分からず戸惑っていると、口元に手が伸びる。
――キスされる!?
覚悟してギュッと目を閉じたが……唇に触れたのは――
――指?
恐る恐る目を開けると、ロッソが米粒を自分の口に放り込んでいた。
「無邪気なところはお前の長所だが、あまり他の奴らが居るところで隙を見せるな」
「!!」
何か言い返してやりたかったんだけど、そもそもオレは無邪気ってタイプじゃ無いし。
だけど、キスされるかもって思ってしまった自分も恥ずかしいし、オレの口元に付いていた米粒を躊躇無く食べてしまうロッソのことも恥ずかしいし……。
何だか分からないけど、とにかく顔も熱いし……。
「うるせー! アンタも見るなよ!」
やっとの思いで言い返したけれど、ロッソは面白がって笑うばかりだった。
あー、腹立つ!
もしかして、仕事できる良い奴なのかと思ったけど、やっぱりこいつムカつく!




