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第3章-16 お姫様は釣れるのか?

第三章


十六 お姫様は釣れるのか?




「ヴィオ様の得意なこと……。ああ! お勉強ですね! ベージュ様の計算のお手伝いをされるのですか?」


 ロッソに岩運びは向いていないと言われて落ち込みかけたが、やることを閃いたので、エミリィちゃんに手伝いを頼んだところ、何やら勘違いをされてしまったようだ。


「違うよ~。確かに勉強は割と好きだけど、あの計算は完全に専門外だもん」


「じゃあ……一体……」


「え~、オレ……じゃなかった私ってそんなに得意なこと無い?」


 ちょっとションボリした素振りを見せると、エミリィちゃんが困惑の表情を浮かべる。


「もぅ、意地悪を言わないでくださいよ。後はいつも元気で面白いアイディアを出しているところとかでしょうか?」


「まぁ、半分正解で良いよ。これ以上この問題を引っ張ると、折角少し取り戻した自信を失いそうだし」


「うぅ、申し訳ありません……」


「エミリィが悪いんじゃ無いから、大丈夫だよ」


 エミリィちゃんの表情が可愛くて、ちょっと困った構い方をしてしまったオレが悪い。

 でも、女の子の困った表情って可愛いよなぁ。

 ロッソや第一王子ネーロ(兄貴)がオレを構い倒す気持ちも分からなくは無いな。

 ……いや、分かって堪るものか。

 こっちは男子高校生なんだっつーの。


「左様ですか……」


 何かロッソ達にムカついて一瞬思考が飛んでしまったが、オレの言葉にエミリィちゃんがあからさまに安堵していた。


 何か申し訳ないし、サッサと本題に入るとしよう。


「えっとー、料理をしようと思っているんだ」


「料理ですか?」


「ああ、この旅は基本的に街を小まめに拠点にしているから、保存食は最低限だって言ってただろ?」


 実際、王都を発って数日、味見代わりに一度保存食を口にしたが、必要に迫られたことはまだ一度も無い。

 味は……まぁ、食べられるけど、顎に来るって感じだ。


「はい、確かに最低限とは申しましたが、丸二日分くらいは問題なくありますよ。あの双子の子供達にも分けられるでしょうし」


「まぁ、そうだろうけどさ、保存食ってあの干し肉と固パンだろ?」


「ええ。直ぐに食べられるものはそれ位ですね。あと、材料だけなら元々持ってきた物や、今朝発った街で買った物が少しはあるようですが……」


「それそれ! 馬車まで戻るよ!」




「えーっと、小麦粉に塩こしょう等の基本的な調味料に、ピクルス……。あと、これはライスですかね?」


「え? お米があるの?」


 エミリィちゃんが探してくれている馬車の荷台を覗き込む。

 確かに茶色い布袋の中にお米が入っている。

 手に取ってみると、元の世界でよく食べていたお米より長細いが、細かいことは気にしないでおこう。


「ヴィオ様、ライスで料理されるのですか? リゾットなどでしょうか?」


 そう言えば、アメジスト王国では小麦粉料理が基本だ。

 ごく稀に米料理を食べるとしても、リゾットくらいだったかも知れない。


 リゾットも確かに美味しいんだけど、力仕事の合間には食べづらいだろう。

 それに、元々用意されている保存食も固いパンや干し肉。

 肉体労働や頭脳労働に勤しんでいる皆に、せめて温かくてパワーの出る物を食べて貰いたいのだ。


「おにぎりを作るんだ」


「オニ……ギリ……ですか? それは一体……?」


「ご飯の中に具を入れて三角やボール状に握る、とある地域のソウルフードだよ」


「そうなんですか? 初耳です」


「確かに、王都では聞かないかもね」


 っつーか、この世界には無いのかも知れないんだけどさ。


「ヴィオ様だって王都育ちじゃありませんか」


「そっ、そうだけど、何かの本で読んだんだよ」


「確かに、沢山お読みになっていましたもんね。それで、どのように作るのですか? そろそろ夕方になりそうですし、急ぎましょう」


 エミリィちゃんの言うとおり、ちょっとずつ空が紅くなってきている。


「ああ、まず川辺でお米を炊こう」


「承知しました。直ぐに準備します。持って行くのは調理器具とライスだけで大丈夫ですか?」


「あっ、私も持つよ。後は塩とピクルスも持って行こうかな」




 川辺に着くと、エミリィちゃんが橋では使わなさそうな石でテキパキと簡易かまどを作る。

 オレも何度かキャンプはしたことがあるけど、自分でかまどを作った事は無かったな。

 マジで器用なんだなぁ。


 そのままテキパキとお米も研いでくれる。

 もしかして、オレまた出る幕が無いんじゃないの? って思っていたら、エミリィちゃんが困った顔をしてこちらを見つめてきた。


「ヴィオ様、水加減はこの位で宜しいのでしょうか?」


 鍋を見ると、かなり水が多い。

 あっ、そうか。

 この国では基本的に米料理と言ったらリゾットだから、お米は柔らかく炊くのか!


「おにぎりの時は、水がもっと少なくて良いんだよ。こうやって、お米を平らにして手を入れるでしょ? そんで、手首の関節部分……シワになっている所くらいまで水を入れると丁度良いんだよ」


 こうやって野外で炊飯するとき以外に、普通に家で炊飯器を使うときでも、自分が何号お米を入れたか忘れちゃったときにこの測り方って便利なんだよね。


 かまどは殆ど作って貰っちゃったし、せめて着火で良いところを見せようと思ったら――


「魔道具があるので、大丈夫ですよ」


――って、魔法陣の描かれたライター的な道具で直ぐに火が付いてしまう。

 はぅぅ。

 まぁ、キャンプに来てるわけじゃ無いんだから、便利な方が良いけどね。

 ってか、キャンプの時だってライター使っていたことの方が多いんだけどね。




 お米を炊き始めて少し落ち着いてきたところで、エミリィちゃんが調味料などを並べ始める。


「炊けたら調理をするって事でしょうか?」


「いや、まだ材料が足りないんだ」


「ですが、後は干し肉くらいしかありませんよ」


「いやいや、ここにあるでしょ」


「?」


「魚だよ。さっき馬車の中から釣り竿とバケツも見つけておいたんだよね」


 多分、非常時の食糧確保のために用意しておいたのだろう。


「いつの間に……」


「エミリィ、魚に詳しい?」


「特別詳しくはありませんが、一般的な知識なら持ち合わせています」


「じゃあ、釣った魚が食べられるものなのか教えて。ここら辺は皆作業していて魚も逃げちゃっているだろうから、ちょっと川上で釣ってくるよ。エミリィはもうちょっとで炊けそうだし、お米を見ておいてね」


「あっ、ヴィオ様~!」


「火を止めた後も直ぐには蓋を開けないでね~!」


 さっき、火加減の説明もしたし、まぁ大丈夫だろう。

 釣りなんて久しぶりだし、楽しみだなぁ。

 たくさん釣れちゃったらどうしようかなぁ。



◆ ◆ ◆



「って、全然釣れないな」


 川上に進むと、割と直ぐに釣りにぴったりな大きな岩を見つけた。

 川の方へ大きくせり出しているので、岩に上れば釣り糸がそんなに長くなくても水深が深い部分まで届きそうなスポットだ。


 魚はチラチラ見えていたし、正直楽勝かなぁなんて思っていたのに、全然釣れない。

 小一時間ほど経ってしまっただろうか、かなり空が夕焼けになってきた。

 少し離れたところから、皆の作業音が聞こえる。


 魚から舐められているのだろうか、さっきからやたら跳ねてきて存在をアピールされている。

 足下は水浸しになるし、腹立たしいし……なんて思っていたら――


「おっ、かかったか!」


 待ちに待った当たり!

 勢いよく引っ張りたい気持ちをグッと抑えて、少しずつ引いていく。


「デカいな」


 少しずつ引く余裕なんて直ぐに無くなり、全力で引っ張る。


「あっ」


 思いっきり足を踏ん張ったタイミングで、水浸しの岩に足を滑らせる。


 ――ヤバい! 川に落ちる!


「ヴィオ様!」


「エミリィ!」


 転んで川の方へ落ちそうになった寸前で、エミリィちゃんがオレの身体を支える。


――ガシャーン!


 川の中へ落ちてしまうことは免れたが、尻餅をついた拍子に二人してバケツの水を被ってしまう。


「…………」


「…………」


 暫く呆然としていたが、頭から水を被った姿が妙に可笑しくてどちらとも無く笑い出す。


「あはは、エミリィありがとう」


「もぅ、ヴィオ様は無茶しすぎですよ。取り敢えず、ここだと危ないですし、岩からは下りましょう」


「賛成~」


 と、立ち上がったオレを見て、エミリィちゃんが血相を変える。


「って、ヴィオ様!」


「何?」


「あのっ、そのっ、お召し物が……」


「ああ、濡れちゃったのはしょうが無いよ。後でかまどの火にでも当たるよ」


 何やら真っ赤になって俯いてしまった。


「そうじゃなくて……透けてます」


「え? あー!」


 白いブラウスを着ていたので、物の見事に透けてしまっている。


「わたしの上着で恐縮ですが、羽織ってください」


 エミリィちゃんの黒いベストを渡される。


「でも、エミリィちゃんは?」


「わたしの服はそこまで濡れていませんし、透けてませんから」


 こっちを見ないようにグイッと渡されるので、勢いに負けて受け取りそのまま袖を通す。

 ちょっと丈は大きいんだけど、胸はかなりキツい。

 でも、着ることは出来た。


 オレがベストを着たのを確認すると、エミリィちゃんと岩から下りて川辺に移動する。




「全然釣れない」


 川辺からだと釣り糸を遠くまで飛ばすのも大変で、ますます釣れる気がしない。


「なぁ、エミリィって釣りは出来る?」


「釣りはあまりしたことが無いですが……魚さえ取れれば良いんですよね」


「? まぁ、そうだけど」


「分かりました」


 そう言うと、おもむろにブーツとニーソックスを脱ぎ捨てて――


――パシッ!


 え?

 何?

 何々、何なの?


 鋭い音が聞こえた方に目を向けると、川辺にはナイフが突き刺さった魚が浮かんでいる。


 エミリィちゃんは川辺に足を入れ、迷い無くその魚を拾い上げる。


「エっエミリィがやったの?」


 驚きを隠せないオレに、エミリィちゃんが微笑む。


「この特技のことは二人だけの秘密にしておいてくださいね」


「ぎょっ御意」


 これからは変に怒らせない様に気をつけよう。

 うん、そうしよう!

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[一言] エミリィちゃん……つおい
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