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第2章-21 ずっと味方だった

第二章


二一 ずっと味方だった




「ヴィオ、泣いているの?」


 子供の声がして我に返る。


 あれ?

 オレ、宙に浮いてる?


 これは転生前にバカ天使(アンジー)と会ったときの状況にそっくりだ。

 もしかして、もう一回転生のチャンスが来たのか?

 今度こそイケメンになれちゃうのか?


 でも、何かこのままだと中途半端だけど良いのかな?


 などと考えて下を見ると、王宮の中庭を見下ろす形で浮かんでいた。


 ああ、まだ再転生はさせてくれないよね。

 そりゃあそうか。

 でも、これはどういう状況なんだ?


 地上には子供が二人。

 周りを見渡すと何回か通った第四王妃(イザベラ様)第五王妃(ローザ様)のサロンが無い。

 それに、中庭で咲いている花や城の様子が見慣れた景色と少し違う気がする。


「ヴィオ」


『はいはーい』


 ん?

 子供に呼ばれたので、返事をするけど、完全に無視される。

 宙に浮かぶオレの事はまるで見えていないようだ。


 ……というか、『ようだ』じゃなくて、見えてないんだ。

 眼下の子供はしゃがみ込んでいる幼児に声を掛けている。


 塞ぎ込んでいるので、幼児の顔は見えないけど、見覚えのある真っ直ぐな紫苑色の髪。

 更に、『ヴィオ』と呼ばれた事から、この幼児がヴィオなのだろう。


 もしかすると、これは過去の景色なのか?


 という事は、小さなヴィオーラ姫の横で頭を撫でる子供は……


『ベージュなのか?』


 まだ幼いながらもベージュの面影がある。

 それに、髪の色も砂色だし、間違いないだろう。


 二人の背格好からして、ざっと十年ちょっとくらい昔って所だろうか。


「泣いているだけじゃ分からないよ。話してごらん」


「うぅ、ひっくひっく……お姉様たちが……、ヴィオにはお母様が居ないから、おしゃれとか教えてもらえないし、だからきれいになれないって……」


「またあの四つ子か!」


 ああ、確か第一王子ネーロや、第二王子ベージュより一歳年下の四つ子姫が居たんだったな。

 オレが転生した時点で既に嫁いでいたから会った事もないんだけどさ。

 しかし、ネーロやベージュの一個下って事は、ヴィオーラ姫から見たら四歳年上って事だろう?

 意地悪を言うのは大人げない気がする。

 しかも、四対一だし。


「ボクからもあの四人には改めて注意しておくよ。でも、お母様が居なくてもお洒落は教えてもらえるから大丈夫だよ。ファッションの家庭教師を雇ったって良いしね。それに、ヴィオは元々とっても可愛いんだから」


「……でも、ヴィオは先生じゃ無くてお母様に教えてもらいたかったです……」


 ヴィオーラ姫と第一王子ネーロ様の母である第一王妃は、産後の肥立ちが悪かったらしく、姫を産んで割と直ぐに亡くなったらしい。


「じゃあ、ボクのお母様に教えてもらえば良いよ! お母様はヴィオの事を自分の娘のように可愛いっていつも言ってるじゃないか!」


「良いの?」


「勿論だよ」


 ベージュが先に立ち上がり、幼いお姫様に手を差し出す。

 お姫様は膝に付いた草を軽く払うとベージュの手を取り立ち上がる。

 そして、やっと笑顔を見せた。


 小さくてもやっぱり可愛いな。


「ボクはいつだってヴィオの味方だよ」


「お兄様、ありがとう」


「でもね、あの四人も本当は悪い子たちじゃないんだよ」


「はい。ちょっと前までは優しかったです」


「うん。ヴィオが現国王陛下の子供の中で唯一の『紫の申し子(アメジスト・レイン)』だからね。しかも、その中でも希少な髪も瞳も共に紫の『真の紫の申し子(ヴェラ・アメジスト)』。将来の待遇も違うって分かってくると、どうしても意地悪したくなる時があるんだろうね」


 四つ子の姫は誰も『紫の申し子(アメジスト・レイン)』では無かったのか。


 なら、暫く間を空けて産まれた第五王女ヴィオーラが『真の紫の申し子(ヴェラ・アメジスト)』でさぞかし皆が喜んだ事だろう。

 しかし、それを面白くないと思う者が出てくる事は、想像に難くない。

 成人になって早々に嫁いでいる事から考えても、この時期に四つ子姫は将来の待遇が決まって荒れてしまったのかも知れない。


「そんな……。髪や目の色なんて自分で決めたものじゃないのに……」


「当然、それを理由に意地悪する四人がいけないんだよ。だけど、皆が持っていない者を持ってしまうと羨ましがられたりするんだよ」


「ヴィオはもっと普通が良かった。お兄様やお姉様達と同じが良かった」


「それはどうしようも無いんだよ。ボク達がどんなに願っても『紫の申し子(アメジスト・レイン)』になれないように、ヴィオがどんなに願っても一般(コモン)にはなれないんだ」


 国の宝と言われている『紫の申し子(アメジスト・レイン)』と言うのも、色々難しい立場なのだろう。


 現に、国の宝しかも幸福の象徴でもある『真の紫の申し子(ヴェラ・アメジスト)』が泣いているというのに、駆け寄ってくる家族は異母兄のベージュだけ。


 周りをよく見ると、心配そうに様子を伺う使用人達は居るけど、城の中から誰に見られるとも分からない中庭に大っぴらに駆け寄れる者は居ないのだろう。

 それか、使用人の立場を考えたベージュが制止したのか……。


 どのみち、幼いヴィオーラ姫には中々過酷な環境なのは間違いない。


「嫌だよぉ……」


「大丈夫。ヴィオが悲しい思いをしないように、ボクが守ってあげるから」


「お兄様、ありがとう。 ヴィオ、お兄様が大好きだよ」



◆ ◆ ◆



「ヴィオ! ヴィオ! 目を開けてくれ!」


 幼い王子様とお姫様の様子を見ていたはずだったのに、大声で呼ばれて急に宙に浮いていた身体が重くなる。


 周囲の景色がぼやけてグルグル回る。


「んっ……」


 薄ら目を開けると、光が眩しく感じた。


「ああ、良かった」


 最初に飛び込んできたのはベージュの顔だった。

 さっきまで見ていた子供の顔では無く、しっかり大人だ。


 あっ、そうか。

 オレはベージュの部屋の扉を開けようとしていて、内側から勢いよく開いた扉に後頭部を強打してしまったんだった。


 折角異世界転生したというのに、どうしてこういうイベントばかりなのだろうか。

 ラッキースケベとかそう言うのとも縁遠いし。

 っつーか、そう言うのもある事はあるんだけど、オレがされる側なんだよね。

 違うの、逆なの。

 こっちがしたいんだよ!


 現在の理不尽な状況を振り返るうちに、目も慣れてきた。


 見回すと、初めて見る部屋の中だったが、ベージュの部屋である事は直ぐに分かった。

 まず、部屋の造りが姫様の部屋や第一王子ネーロと似ている。

 それに、色んな実験器具や書籍が散乱しているし、よく見かけるベージュの服が部屋の隅にある木製の椅子に無造作に引っかけられている。


 まぁ、男の部屋なんてこんな感じだよな。

 ネーロの部屋は結構きっちりしてたけど、どちらかというとベージュの部屋の方に親近感がわく。

 と言っても、ここまで雑然としていると、捜し物も大変そうだけど。

 案外本人は分かるものなのかも知れないけどさ。


――ふわっ


 そんな部屋に似つかわしくない甘い匂いが鼻腔をくすぐる。

 デスクに積まれている箱からだろう。

 ロッソと面会する前に受け取っていたチョコレートの香りだ。


 そうだ。

 確かめたい事があってここに来たんだった。


 大分頭がハッキリしてきたので、身体を起こす。

 どうやらオレは気を失ったらしく、黒い革製のソファに寝かされていた。

 近くにはベージュの他に、一緒に部屋まで来ていたエミリィちゃんにロッソとルーカが居て、オレの様子を伺っていた。


 時計を見ると気を失っていたのは数分程度。

 何か、もっと長かった気がする。


「ヴィオ! 目が覚めて良かったよ!」


 起き上がったオレを見て、ベージュが安心したように微笑み、抱きつこうとしてきたが、


「え?」


オレが身構えるよりも早く、反対側へ身体が引っ張られる。


「ロッソ? 何だよ、急に?」


 気がつくと、ロッソの腕の中だった。


「そりゃあ引っ張りもする。だって、こいつが犯人なんだろう?」


「ん? 犯人?」


「だから、お前が最初にあった日に倒れたのは、こいつの責任なんだろう?」


「あっ……」


 ロッソは犯人と思われるベージュから守ろうとしてくれているのか。


 ベージュの方を見ると、真っ青な顔でうつむいている。


「ベージュ様、そんな、まさか……」


 エミリィちゃんも驚いてベージュに詰め寄っている。

 メイド服のスカートが翻るのもお構いなしに、高身長のベージュに掴みかかる。


「エミリィちゃん、君の立場で王族に暴力はマズいって!」


「ルーカ様! 離してください!」


 そんなエミリィちゃんの立場を心配したルーカが二人の間に入り、押さえてくれている。

 けれど、そんなルーカの表情も普段の軽薄なものとは打って変わって冷たい。

 そして、視線はしっかりとベージュに向けられている。


 ベージュはよろめいて後ずさると、机に体重を預ける。

 そうしないと立っていられないといった様子だ。


「全部ボクの責任なんだ! あの日、ヴィオが倒れてしまって、人が変わったようになってしまったのは! あの日ボクは……」


 しかも、当のベージュまであの日の告白を始めているけど――


「ストーップ!!!!」


 思わず転生してから一番大きい声を上げて注目を集める。


 やべぇ、自分でもちょっと耳がキーンとした。


「ヴィオーラ、大声を出すなら宣言しておけ」


「あっ、悪い」


 オレを抱きしめていたロッソが当然一番近くに居たので、空いている手で片耳を押さえつつ不満顔だ。


 他の三人も呆気に取られたようにオレに視線を向ける。


「ヴィオちゃん、どうしたんだい?」


 三人の中で比較的冷静だったルーカが問いかけてくる。


「違うんだよ。全然違うんだ」


「違うって、一体何が?」


 オレは一度深呼吸をして、ゆっくり全員を順番に見つめる。


 ロッソ、ルーカ、エミリィちゃん、そして――


「あの日の犯人なんて、居なかったんだ」


――ベージュの瞳を真っ直ぐに見て宣言した。


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