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第2章-19 材料は揃った

第二章


十九 材料は揃った




「……別に何とも無さそうだな」


 アルコールが含まれたパウンドケーキ食べて数分。

 特段変化の無い様子を見て、ロッソが呟いた。


「ああ、大丈夫そうだ」


 オレ自身、体調の変化も感じられなかったので、同意する。


 動悸が激しくなったり、顔や身体が熱くなったりといった症状も無い。


 どうやら、このお姫様は特別お酒に弱い体質では無さそうでホッとする。

 とは言え、あの時の姫様の口からアルコールの香りがしたって事は、お酒は口にしているんだろうな……。


「……あのさ、あの時は凄くお酒の臭いがしたわけじゃ無いんだよな?」


「あの時?」


「最初の時だよ!」


「ああ、口移しで水を飲ませた時の事か。ハッキリ言え」


 言いたくないんだよ、分からないかなぁ?

 それとも分かっていて、こっちの反応を楽しんでいるのか?


 どっちみち性質たちが悪い。


 あーあ、弄ばれるなら綺麗なお姉様が良いんだよなぁ。

 いやいや、意外と年下の女の子にからかわれるのも楽しいかも知れない。

 うん、新しい扉を開いちゃうかも。

 つーか、イケメン様に弄ばれるって言う新しい扉は、最近開きっぱなしだよな。

 全然楽しくない。

 速攻全力で閉めて鍵と封印を力の限り施したいけど、何かこじ開けてきそうで怖いんだよなぁ。


 はぁぁ、前途多難ってこういう時に使う言葉なのかな。


「そうだな。ほんの僅かだ。だから、飲んだとしても少量だろうと思ったのだが……」


 オレが運命を嘆いていると、やっとの事、ロッソが質問に答えてくれた。

 本当はもっと早く答えられた気がするけど、突っ込むとまた面倒そうだし、止めておこう。


 ……しかし、こんな量じゃ普通だったら倒れる事はおろか、酔っ払うのも難しいだろう。


「あっ……」


 思わず声が漏れる。


 そう、普通(・・)だったら難しい。

 でも、もし普通じゃなかったら(・・・・・・・・・)


「ヴィオ様、どうかされましたか?」


 心配そうに声を掛けてくれるエミリィちゃんの方を振り向く。


「エミリィ」


「ヴィオ様、本当に大丈夫ですか?」


「あの時はどうだった?」


「最初にレオーネ様とお目にかかった日の事でしょうか?」


 流石にオレがその日に注目している事は、分かってくれているようだ。


「ああ」


「そうですね……。レオーネ様を目の前に言いづらいのですが……」


 と、前置きをしてエミリィちゃんが話し始める。

 何か全然言いづらそうじゃ無いんだけど、一応、国外のお客様相手だから気は遣っているつもりなんだろうな。

 遣いきれてないけど。


「あの時のヴィオ様は、レオーネ様を始め婚約者候補の方々とお目にかかるのを気に病んでおりました。ですので、当時はあまり夜もお休みになれなかったようです」


「ようです?」


 エミリィちゃんにしては珍しい曖昧な言い方に、小声で聞き返す。


「ヴィオ様はハッキリ眠れなかったと仰るタイプではありませんでしたから」


「確かに」


 同じく小声で返すエミリィちゃんの答えに頷く。

 お姫様の性質を過去形で答えさせてしまって、ちょっと罪悪感。

 どうしようも無い事なんだけどさ。


 それにしても、確かにあの控えめなお姫様が、そんな気に病む事を抱えたまま良く眠ったりは出来ないだろうな。

 それに、その事を誰かに面と向かって相談するのも難しかっただろうな。


 オレもデリケートでは無いけど、色々気に病む事は多いから、あんまり眠れないかなって思っていたけど、毎日爆睡している。

 思ったよりも図太くて、自分自身驚いている。

 まぁ、図太さだけじゃ無くて、やっぱり女の子の方が体力無いんだよな。

 まともに寝ないと身体が持たない。


 で、今までの情報を振り返ると、


――何らかの形でのアルコール摂取


――そして、慢性的な寝不足による体調不良



 少しずつ何かが見えてきた気がする。


 だけどなぁ、体質的に受け付けないとかじゃ無いのに、こんな少量のアルコール摂取で倒れるか?

 いくら寝不足って言ってもなぁ……一応、面会の場には立てる程度だったわけだし。


「レオーネ様、最初の面会の時には、この部屋にアルコールを含むものはありましたか?」


「いや、紅茶と焼き菓子くらいだったな。俺も一口食べたが普通のクッキーだったぞ」


 一応、面会中にアルコールを摂取した可能性もあるかと思ったけど、そうでは無かったらしい。

 だったら、やっぱり普通に考えてアルコールが原因なら、摂取した時に倒れるだろう。


「ん、これは美味いな。紅茶とも合う」


 クッキーの話になったからだろうか、ロッソは今日のお茶請けであるチーズクラッカーを摘まんでいた。


「そうだろ? この濃いめの紅茶にチーズクラッカーは相性が良いんだよ!」


 自分で発見した食べ合わせを褒められて嬉しくなってしまう。


「食べ物の相性な……面白い。ヴィオーラはそういう事を考えるのが好きなのか?」


「好きって言うか、どうせなら組み合わせてより美味しく食べられた方がラッキーだろ?」


「そういうものか……。では、例えば、このパウンドケーキに何か入れたり組み合わせるなら、どうする?」


 オレが難しい顔で悩み始めたからだろうか、ロッソが話題を変えてきた。

 ロッソとしては、取り急ぎあの日の調査結果を教えたかっただけだったようで、その話も終わり、アルコールにも特別弱くないと分かったら、すっかりリラックスモードなのだ。


 オレも取り急ぎはその二つが確認できて良かったけど、何かまだちょっと引っかかるんだよな。

 でも、それがどう引っかかっているのか分からないし、今はロッソの雑談に付き合う事にしよう。

 料理のネタを考えるのは嫌いじゃ無い。


 アルコールを含んだドライフルーツたっぷりな、重めのパウンドケーキ眺める。


「う~ん。飲み物ならちょっと渋めの紅茶も良いし、珈琲も合いそうだよな。それか、パウンドケーキ自体に変化を付けるなら、やっぱりナッツかな?」


 パウンドケーキは凄く美味しかったんだけど、もう少し、歯ごたえのあるものを入れる遊び心があっても良いような気がする。

 そう考えると、ベタだけどナッツ辺りが欲しいところだ。


「ほぅ、ナッツか。やはりお前の好きな胡桃くるみを入れるのか?」


「いや、胡桃くるみとパウンドケーキの相性は良いんだけど、アルコールとは相性が悪いんだよな。それだったら、アーモンドを砕くかスライスして……それかマカダミアナッツもあれば尚のこと……」


 ん?


 今、オレなんて言った?


 その前に、ロッソは何て言った?


「ヴィオーラ?」


「レオーネ様、どうして私が胡桃くるみを好きだと思ったんですか?」


「初めて会った日に美味しそうに食べていたからな。先程見せた調査結果の備考欄にも書いてあったが、クッキーにも不審物は含まれていなかったぞ。第一、俺も同じものを食べたしな」


 備考欄までは正直細かく見ていなかった。

 まぁ、何も出なかったからロッソ達も詳細は説明しなかったんだろう。


 確かクッキーに関しては姫様も急遽面会が決まって、慌てて使用人がお使いに行って買ってきてくれたと聞いている。

 だから、オレも急に買ってきた上に、城外で市販されているものに毒を混入するのは難しいと思って、何か入れたなら紅茶だろうと睨んでいたのだ。


 おもむろに右のポケットに手を入れ、指先に触れたものを取り出す。


「レオーネ様があの日に食べたクッキーはこれですか?」


「全く同じものかは分からないが、確かにこの様な胡桃くるみのクッキーだった」


 オレが取り出したハンカチに包まれた胡桃くるみのクッキーを見つめ、ロッソが頷く。


胡桃くるみとアルコールは相性が良くないんだよ」


「先程も言っていたな、何故なんだ?」


「もの凄く危険な組み合わせとか、禁忌と言われている程では無いんだけど、血圧を上げちゃうらしいんだ」


「血圧……」


「詳しい説明は省くけど、血圧って血管内の血液の圧力の事でさ。あまり乱高下させると危険なんだよ」


 冬場のお風呂は入り方に気をつけろとか、よくワイドショーで見るアレだ。


 姫様は、元々はそんなに血圧に注意する必要も無いんだろうけど、今回は色々重なってしまったんだろう。


 まず、急な婚約というストレスによる慢性的な寝不足。


 予期せぬアルコール摂取。


 そして、アルコールと相性の悪い胡桃くるみの摂取。


「じゃ、ちょっと行ってきます」


「ヴィオ様、どちらへ行かれるのですか?」


 急に立ち上がるオレにエミリィちゃんが驚く。


「やっと分かったんだよ」


「何が分かったのですか?」


「あの、最初の日に何が起こったのか」


「え?」


「材料は全部揃っていたんだ」


「それは……一体?」


 心配そうにオレを見つめるエミリィちゃんに力強く微笑む。


「さて、そろそろ答え合わせと行こうか」


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