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第2章-17 ダージリンとチーズクラッカー

第二章


十七 ダージリンとチーズクラッカー




「ちょっと、ロッソ(レオーネ様)! お戯れが過ぎますよ! ルーカ(ファルコ様)も笑ってないで止めてください」


 三度みたび、人様にブラジャーを披露しそうになったところ、間一髪でエミリィが止めに入ってくれた。


 っつーかさ、何故この世界の奴らは人の服を気軽に脱がせるのだ?

 冷静に考えて、結構な一大事だと思うんだけど。

 それとも、大人の世界ではこう言うのって、そんなに特別なことじゃないのか?


 いやいやいやいや、無いわ~。

 特別に決まっているだろうよ。

 それか、大人の世界じゃ無くてリア充界隈では常識なのか?

 や~、やっぱ無いわ~。


「あはは、ゴメンよ。僕も出来ればヴィオちゃんの脱いだところ見たかったからさ」


 全然悪びれた様子もなく、ルーカが返事をする。


 なんか絵画から抜け出してきたようなイケメンが、キラッキラの笑顔で最低な発言をしている気がするんだけど。


 オレが言えた立場ではない気もするんだけど、顔面詐欺だよな。

 黙っていれば文句ない顔立ちなのに。

 女好きってか、年上好きって言っていたから、熟女好きなのか?

 前に、繁華街を歩いていた様子を見る限り、守備範囲は広そうなんだけどな。


 オレはちょっと年下の後輩に頼られるのが好きかなぁ。

 って、そんなこと言っている場合じゃないよな。

 まず今度こそイケメンに再転生しないと始まらん。


 もともとのオレ自身、女子から褒められた評価だって、少し可愛いという微妙なもの。

 どっちかというと、男子のわりにやや小柄で、やや童顔気味だったからで、別に顔が整っているとかそういう訳ではなかったように思う。


 だけど、今度生まれ変わるなら、男らしい感じのイケメンがいいんだぁ。

 それで、放課後に可愛い後輩の女の子から体育館裏の大きな樹の下に呼ばれるんだ。

 本当は告白されるって分かっているけど、わざと鈍感なふりして、一度激しい聞き間違えとかしちゃうんだ。

 で、告白が勘違いされた恥ずかしさのあまり、背を向けて逃げ出そうとする後輩を背後から優しく抱きしめて、


『大丈夫、本当の気持ちは分かっているよ』


とか、囁いちゃうんだ~!


 良いなぁ~。

 早く転生してぇなぁ!


――な~んて、くだらない妄想を繰り広げていると……


「相変わらず手のかかる奴だな」


 ブラを披露させまいと体をよじるオレを、ロッソが後ろから抱きしめる。


 そして……


「大丈夫だ。お前の本当の気持ちは分かっている。俺にブラジャーとやらを見せたくて付けて来たんだろう」


 うぉーい!

 オレが言われてるじゃね~か!


 逆なんだよー!

 逆って言っても、別にロッソになんか囁きたくないけどさ。

 女の子が良いんだってば!


 あーあ。

 この異世界に転生してからというもの、身近な女の子と言ったら、エミリィちゃんくらいなんだけど、オレのがだいぶ背が低いんだよな。

 だって、このお姫様、どうみても150cmくらいだろ?

 この異世界の女性の中でも小柄な方だ。


 方やエミリィちゃんは、転生前のオレと同じくらいの170cm弱。

 女子としては大きい方だろう。

 しかもスレンダーで、体つきはどちらかというと直線的だ。

 可愛いんだけど、どこか中性的な雰囲気なんだよなぁ。

 キュッとしたツインテールなんだけどね。


 ちょっと身長差がありすぎて、オレから抱きしめても様にはならないよなぁ……。


「……って、人が考え事をしている間に脱がすな! 大体、アンタに見せたくてブラジャーを付けてくるって、意味が分かんねぇよ!」


「ヴィオ様……、流石に言葉遣いが酷すぎますよ」


 エミリィちゃんはオレをエロ騎士(ロッソ)から救出しつつ、軽く窘めてくる。


 まぁ、確かに酷かったか。

 ロッソ達は気にしないだろうけど、何かの拍子に他の者に聞かれると色々不安を煽ってしまいそうだよな。

 ただでさえ、性格急変で心配はかけているだろうし。

 難しいけど、ちょっとはお姫様らしくしよう。


「――コホン。これ以上脱がそうとしたら、マジでぶっ殺しますわよ」


 よし、可愛らしく微笑んで見せたし、言葉遣いも良いし、バッチリだろう。


「ヴィオ様、上出来ですよ」


 エミリィちゃんもオレのボタンをはめながら褒めてくれる。

 ここまでハッキリ褒められるのは、かなり珍しい。


「エミリィと言ったか、表面上の言葉遣いだけ良くなったが、内容は悪くなっているぞ」


 しっかり姫らしくしたというのに、ロッソは何故か不満顔だ。


「まぁまぁ、立ち話もなんだし、エミリィちゃんの持ってきてくれたお茶を頂いたら?」


 笑いを堪えつつ、ルーカが提案してくる。

 確かに、ずっと立ったままあーだこーだやっていたな。


 ローテーブル挟んで向かい合わせに腰掛ける。

 初めて会ったときは、部屋の真ん中にある大きなテーブルを利用していたようだが、今日はその奥にあるローテーブルとソファを利用することになった。


 ローテーブルも細かい意匠が施され、重厚感がある。

 ソファは布製で、城でよく見るデザインの刺繍が施されている。

 確か、この国独自の模様だったと勉強した記憶がある。

 そして、座り心地はとても良い。

 流石王宮だな。


 しかし、前回はテーブルだったけど、今回はローテーブルとソファだなんて……。

 何だかかんだ言っても親しくなったからだろう。

 変な方向で親しくなった気がしないでも無いが……。


 友達って言うには少し年が離れすぎてる気がするけど、でも先輩後輩みたいな感じで出会えたら、もっと楽しく仲良くなれた気がするんだよな。

 まぁ、この格好で出会ってしまったら、友達も何も無いか。

 お互いの立場もあるしね。


 取り敢えずブラジャーをお披露目せずに済んだだけでも良しとしよう。


「ダージリンとチーズクラッカーです」


 向かい合わせに座るロッソとオレに、エミリィちゃんが紅茶とクラッカーを給仕してくれる。

 ルーカはいつも通りこういう時は立ったまま、一応護衛の様な立場なのだろう。

 こっちはホームだから、室内には護衛がいないのか、それともエミリィちゃんが一応その代わりとして側にいてくれているのかな?

 流石にそんなわけ無いか。

 扉の向こうにはこっちの護衛も居るしね。


「紅茶とチーズとは珍しい組み合わせだな」


「美味しいですよ」


「ワインの方が良いんじゃないのか?」


「私はまだお酒を嗜みませんので」


 一応、この国では十四歳で成人扱いらしいので、飲酒もオッケーなんだけど、姫はお酒を飲んだことが無いと言っていた。

 飲酒の習慣も無かったので、夕食時などもお酒が用意されることは無かった。

 オレ自身は嫌いじゃ無いけどさ……いやいや、チョコレートボンボンとかだけどね、本当に。


 だけど、酔っ払ったら何を口走るか分からないし、実は姫の身体に入っているのが男子高校生だってバレても困るから、お酒を所望したことも無い。


 そう言えば、チョコレートボンボンだって、物によっては結構お酒の味がすけるど、あれってお菓子なんだよな。

 つまりアルコール飲料・・じゃ無いから、酒類に含まれないらしい。

 だから未成年でも一応法的にはセーフらしいけど、健康上はオススメ出来ないと言うことだ。


「酒は飲まないのか?」


「ええ。そんなに大酒飲みに見えますか?」


「いや、しかし……」


 ロッソが珍しくやや困ったような表情で、斜め後ろに控えるルーカに視線を送る。

 すると、ルーカは懐からハンカチと書類を出した。


「ヴィオちゃん、最初の日に倒れたでしょ? その時の紅茶の検査結果が出たんだ」


「ああ、どうだったの? 何かヤバい毒とかあったの?」


 今のところ身体に不具合は無いけど、後からどこか悪くなっても困る。


 心配するオレに、ルーカは軽く首を振った。

 輝く金髪と睫毛が揺れて煌めく。


 ルーカは書類とハンカチをそっと机の上に置いた。

 書いてある文字は帝国文字で一応問題なく読めるけど、自国語よりは少し時間がかかる上、専門用語も多く、咄嗟には判断が難しい。

 ただ、色んな成分の所に0と数字は書かれている。


「何も出なかったよ」


「え?」


「あれは何の変哲も無い、普通の紅茶だったよ。王宮なんだから良い茶葉は使っているだろうけどね」


 何も出なかっただって?

 そりゃあ、毒が出るよりはずっと良いよ。


 でも、じゃあどうして姫様は倒れたんだ?


 毒はなかったというのに、鼓動は大きく脈打った。


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