二話『箱』
書いていた原稿が消えて落ち込んでいたパル猫です!なるべく早めに書き直して投稿しました!流石に消えた文量をそのままというのは難しかったのですが読んで頂けたら嬉しいです!
日が沈んで少したった頃、千佳は自宅に帰宅した。しかし今日に限っては玄関の扉を開けるのに躊躇してしまった。というのも何故か鍵が掛かっていなかったのだ。
千佳はこれでも独り暮らしのため鍵を掛けるのは徹底している。それなのに鍵が開いていた。
「も、もしかして空き巣…?」
別に特段価値のあるものがあるわけではない。千佳本人はアクセサリー類などは付けないため買わないし。あるといっても綾とするために買った携帯ゲーム機くらいだろう。
しかし…そこでふと今朝のニュースを思い出す
『N市で暮らす10歳の女の子が遺体で発見されました…』
N市は隣街だ、電車で一駅二駅、自転車でも30分掛かるかどうかといった距離だ。
確か女の子は臓器しか発見されなかったとか…遺体…バラバラで?
「ぅっ…」
ちょっとだけ吐き気が込み上げてきたがなんとか我慢する。幼いころのあの光景を思い出してしまった。しかし自分には子供はいない。恐る恐るというふうに扉を開けていく…
「あ、あれ?」
千佳の部屋は玄関の扉をあげるとすぐにリビングがあるのだが特に荒らされた感じはない。リビングの隣の寝室の扉も開けるが特に何も荒らされてはいない。
朝出たときと変わらない部屋がそこにあるだけだ。
「もしかしてただ閉め忘れたのかな?」
徹底しているとは言ってももしかしたら今日に限っては忘れたかもしれない。そう思ってふと気付いた…
「これは?」
リビングの机の上、そこには正方形の桐製の箱が置いてあった。どこにも継ぎ目はなく開きそうにはない。いやそれどころではないこの箱には見覚えがある…でも自分のものじゃないはず。こんな箱を持ってきた記憶なんてない。
ここに引っ越して来るときは段ボール2つくらいに荷物を絞ってきた。なので持ってきたものも全部覚えている。
「でも…これ…懐かしい?……ぐっ!?」
急に千佳を頭痛が襲う。思いだそうとすると頭の奥がジンジンと痛いのだ。でもこれは…思い出さないといけない…。そう思い必死に思いだそうと頭痛に耐えながら思い出そうとして…目の前が真っ暗になった。
起きたときもうすっかり夜だった。千佳はリビングの床で気絶してしまったようだった。起きたときは一瞬何故ここで寝ているんだ私は!?という錯覚を覚えたが、机の上ある正方形の桐の箱をみてつい数時間前までの事を思い出す。
「まだ頭が痛い…くらくらする…」
ふらふらとしながらも自分の寝室へ行きボフンという音をたてながらベッドへダイブする。
「もう今日は疲れた…明日また考えよう…」
そう呟いて千佳の意識は闇へ呑まれていった。
「どうしよう…こんな時間になっちゃった…」
私、嶋田 綾は駅の前で立ち往生していた。外は雨である。今日は千佳とカフェに寄って帰宅したあと懐かしい昔の友達から誘いを受けて駅裏のカラオケに行っていた。
千佳の知り合いではないため千佳は呼ばなかった。
「どうしよ…傘ないしなぁ。二人とも帰ってないだろうしなぁ」
綾の両親は共働きで基本的に帰ってこない。それに自分は一人っ子で両親の三人暮らしのため連絡を取れる相手がいない。
時刻は夜10時。空は曇天で雨も降っているが駅前は街灯や建物の照明で明るい。
「あれ?………千佳?……」
駅前の通りの反対側の歩道に傘もささず歩く知り合いをみた。遠目だったのでよくわからなかったが何か箱の様なものを持っていた。眺めていると商店街の方に曲がって見えなくなった。
「なんだろう?千佳がおかしい…」
本当に第六感だろうか?あれはいつもの千佳じゃない。誰が見ても普通傘をささず雨の中を歩いていたら不思議に思うが。
「追いかけよう。」
綾は雨に濡れるのも構わず飛び出した。そして商店街の方に走って行くと今日の帰り際、千佳が行きたくないといったあの占いのお店に消えていこうとする千佳をみた。
「チカっ!チカっ!」
そう叫んでも千佳は反応しない。まるで生気の無いようにゆらゆらとただ歩いている。
「チカっ!」
やっと追い付き上着の裾を掴む。しかしそれでも千佳は歩こうとする、占い店に向けて。
「チカ!どうしたの!?チカ!」
揺さぶってみても千佳は反応がなくただ占い店にむけて歩こうとする。占い店の階段の前まで来ると千佳は占い店の方を向き階段を下りていく。
「チカ!」
ついに扉の前まで来てしまった。次の瞬間千佳は糸が切れたようにその場に倒れ込んだ。
「チカ!?」
「おや?どうしたんだい?………………入りなさい…」
不意に扉が開く。男性とも女性とも分からない人が立っていた。しかしその人は千佳が抱えていた箱を一瞥すると入るように促した。私は千佳の手を肩にかけて後に着いていった。
現状はこの人についていくしか方法がない。何故千佳があんな風になったからこの人が知っていると思ったから。それにそれはあながち間違ってないと思ったから。
あの千佳が抱えていた箱のことも。
「とりあえずお茶でもどうぞ?」
私はタオルを渡され軽く水分を取ったあと応接室のようなソファーに座っていた。目の前には温かいお茶が注がれる。そのカップに注がれたお茶を飲む、雨に濡れて寒くなった身体に染み渡る。
「私は嶋田 綾です。この子は小遊鳥 千佳で同じクラスメイトです。あなたは一体?」
「?私かい?私は輝夜。月姫 輝夜だ。そうだな占い師とでも言っておこうかな?」
やはりこの人があの占い師。しかし何故千佳はこの占い師を訪ねたのだろう?いや訪ねたというより操られて誘導された?というのが近いかもしれない。
「不思議そうだね?ところでその箱なんだが…」
「なにか知っているんですか?チカがこんな風になったこととか。」
正直にいうとこの月姫という人を疑っている。だってチカが行きたくないと言っていたし箱を見た瞬間なんだか様子がおかしかったし。
「まぁそう疑ってかからないでよ。私だって何故だか分からないんだよ。」
「私だってなんでこんな雨の中で歩いてたか分からないですよ…それにもう遅いですから…帰らないと。」
「ん…んぅ……アヤ…?」
「チカ!?」
チカが目を覚ましたようだ。よかった…急に糸が切れたように倒れたから本当に心配した。
「えっ…ここ…どこ?」
「ここはあの占い店だよ…チカは行きたくないって言ってたけど…」
「えっ…でも私家で…」
チカは家からの記憶が曖昧なようで頭を抑えながら必死に思いだそうとしているが思い出せないようだ。
「千佳君…初めまして君が行きたくないと言っていた店の店主だよ。」
「あ、いえ…すみません…えっとなんで名前を…?」
「あぁそこの綾君から聞いたからね。」
「そ、そうですか…」
チカはまだオドオドしていた状況をあまり飲み込めていないようだ。それもそうだろう起きたら知らない場所にいてそれもそれは自分が行きたくないと断った場所、さらに教えてないのに名前を呼ばれるなどあまりしたくはない体験である。
先程まで優しそうに話しかけてていた輝夜の顔が急に真面目になって口を開いた。
「それで起きてそうそう聞くのも変だが…あの箱は君のかい?」
「えっ…?えーと…それが分からないんです…今は独り暮らししているんですがあんな箱を持ってきた記憶はないんです。でもあの箱は何処かで見たことある気がして…でも何処でか思い出せないんです…。」
「確かに…チカが引っ越しした時にそんな箱はなかったなぁ…」
アヤはチカの引っ越しの荷造りを手伝ったのでそれを覚えていた。あの時はホントに一人の最低限の荷物しかなく全然苦労しなかったのでよく記憶に残っている。
「そうか…でも心当たりはあるんだよね…?」
「ええ…小さい頃に見たことがある気がしてならないんです…でも思い出せないんです…。」
「分かった…でもこれは君たちのような娘が持っていていいものじゃない。こちらで預からせて貰ってもいいかな?」
チカとアヤは顔を見合わせる。肝心なことを聞いてないからでありそれはちゃんと聞いておきたいものでもある。
「そのチカを変にした箱はなんなんですか?それを知るまでは納得出来ません。」
「あ、アヤの言うとおりです…。知りたいです。」
そう箱の正体に食い付くと輝夜は深く考える素振りを見せる。とても悩んでいる様に見える。それほどまでに教えることの難しい物なのだろうかとアヤは考える。
「うーん…言うのはいいんだけど多分信じないと思うし更に千佳君を不安にさせるかもしれない。」
そういうのでアヤはチカの方を伺うように見る。そうするとチカもアヤの伝えたいことに気付いたようでアヤを見つめ返すと頷いた。
「大丈夫です。信じるか信じないかは聞いてから決めます。でも真実が知りたいんです。」
「それは……うん。分かった。教えようその箱は
―――――コトリバコ――――
だよ。」
「「そ、それは何ですか?」」
そんな反応をされるとは思っていなかった輝夜はずっこけた。
「えっ?本当に知らないの?嘘でしょ?」
「「知らないです。」」
「嘘~!?」
最近の若い子は…なんて聞こえてくるが本当に二人は知らないようで首を傾げて輝夜を見つめている。
「説明…いるよね?」
「「お願いします。」」
「はぁ…分かったよ…」
輝夜は諦めたように二人に向き直る。真面目な顔をしたため本当に説明をしてくれるようだ。
「"コトリバコ"とは"子取り箱"または"娘屠ル箱"とも言われる呪いの箱さ。子供や女性を死に追いやる呪われた箱でそれは術者が作るときに使用した触媒の数で呪いの強さが変わる。」
「の、呪いですか…」
アヤはあまり信じられないように呟くが。チカのほうは少々現実として捉えている感がある。
「因みになんですが…その触媒とは何ですか?」
「……………人だよ……人間の子供…。それも女の子のみだ。」
「えっ…?」
アヤとチカにはつい最近の事件の内容がよぎる。あの事件の被害者は10歳前後の女の子ばかりだったと。
「ま、待ってください!そ、それじゃあその箱の中にはその触媒に使われた被害者…最近の事件の被害者が入っていると!?」
アヤは信じられないと言った風に声を荒げて反論する。そりゃぁこんな30センチ四方の箱の中に被害者全員の遺体が入っているなんて信じられる筈がない。
「バラバラ…」
そうチカが呟く。確かに最近の事件の被害者は遺体の一部しか見つかっておらず本人の確認が出来るものはその血液だけという状況が続いているとニュースで聞いたことがある。
「そうか、巷ではそんなことが…」
輝夜は世間体には疎いのか最近の事件のことは知らないようだった。
「け、警察にっ!」
「やめておきなさい!」
警察に通報しようとしたアヤは輝夜によって止められる。
「だ、だってこんなの…」
「輝夜さんなんで警察に通報しないんですか!」
チカが通報を止めた輝夜に反論する。そうするとぽつりぽつりと輝夜が喋りだす。
「コトリバコはその呪いの強さにもよるがそれ自体が呪いを無条件に振り撒く代物なんだ。それにこのコトリバコはもう結構呪われている。それを警察なんかに渡してみろこの街の警察所近くの住民や警察が大量に死ぬことになるぞ…」
「そ、そんな…」
ということはもうここにいる三人はもう呪われているということになる。
「解決する手立てはないんですか…!」
「あるにはあるんだが…」
「あるんですね!それは!?」
解決出来る手立てがあると知って二人は安堵するが輝夜の訝しげな態度に少々不安が募る。
「まず聞いておきたいのはその最近の事件の被害者は何人なんだ?」
「えっと…確か…」
「確か八人です…」
思い出すのに時間が掛かったチカの代わりにアヤが答える。でも言っていて気持ちのいいものではない。その遺体が間近にあるというのだから。
「は、八人だと!?」
「そ、そんなに驚くことなんですか?」
「あ、あぁ…通常コトリバコに使われる触媒の数で呼び名が変わる…壱奉、弐法、惨宝、死報、御崩、髏封、血泡、八開までなんだ。そう八人でコトリバコの呪いは最上なんだ。」
「八…?なぜ八なんですか?」
なぜ八という言葉に縛られるのか気になった。アヤが質問を投げ掛ける。
「それは八人目を触媒に使った時点でその術者は強すぎる呪いに耐えられず死ぬからだ。そしてコトリバコを解呪する方法はコトリバコを作った術者を殺して解呪する方法だ。」
「えっでもそれじゃぁもうこの箱は…」
「違うんだ…箱の呪いで術者が呪殺されているとこの箱はただの呪いを撒き散らす箱になってしまう…解呪が…」
「もしかして…嘘でしょ…?」
そう輝夜はこういっているのだもう解呪は出来ないと。
「そ、そんな…それじゃぁ…」
「あ!そ、そんな…!?」
そこでなにかを思い出すかのようにチカが声を出す。その場違いな声にアヤと輝夜が反応してチカの方をみる。
「その箱…私の私のお姉ちゃんが入ってる…」
「「えっ?」」
その言葉を聞いてアヤはチカの姉という言葉に、輝夜は一人増えた犠牲者に固まった。
最近の夏のホラー特集とかあんまり怖くないですよね?そろそろネタ切れなのかなと思いませんか?