将軍と王妃の秘密の恋
もし、私が王妃でなければ…
韓王府の媵侍に男子が生まれた。生母は呂甯である。
男子は豫と名づけられて韓王の寵愛を一身に受けた。
生母の呂甯は媵侍から美人に昇格して正式な側室になった。媵侍は正式な側室ではなく、愛妾である。
王府の側室には孺人、美人、八子、長使、少使、媵侍の位があった。
韓王には正室がおらず、数人の側室がいるだけだった。
側室を取り仕切っていたのは樊孺人だった。樊孺人は先帝貴妃の姪であり、蔡国夫人の娘である。
名門の娘であったが、正室夫人にはなれずにいたのには男子に恵まれなかったからである。
新たに美人になった呂甯は樊孺人にとっては脅威であり、王子豫はもっと脅威であった。
「あの呂甯が男子を産むとは…」
樊孺人は手にしていた手巾を強く握った。隣で心配そうに声をかけたのは魏八子だった。
「孺人姐姐、たかが美人の男子です。世子にはなりませんわ」
「男子を産んでいてもうだつの上がらない八子に何がわかるというのかしら?」
魏八子には王子荑がいたが、王の寵愛はなかった。
魏八子のつい向かいに座っていた宋八子が魏八子のおろおろとした様子を見て笑う。
「うだつが上がらないのは私もですよ、魏姐姐。私たちはただの八子、方や媵侍であった呂甯は美人よ?輿入れしてから、ずーっと八子。何があっても八子よ?」
「おやめ!」
語勢を強めて樊孺人が言うと2人は口をつぐんだ。
2人は樊孺人が輿入れした際に着いてきた侍妾で、侍寝を経ずに八子の位を与えらた。しかし、それからというもの昇格はしていない。
そこに呉長使が点心を携えてやって来た。
「そう怒りますと体に毒ですわよ?点心でも召し上がってお心を休ませては?」
樊孺人の前に呉長使が点心を置いた。
「呉長使、そなたは側室になって何年かしら?唐美人の侍妾として輿入れしてすぐに懐妊したのよね?」
「孺人姐姐、さようですわ。美人はお優しいだけで何もございませんでした。孺人姐姐に推挙していただけて縣主を産めましたわ」
「減らず口だわね」
そういうと樊孺人は点心に手を伸ばした。王府の奥向も後宮と同じで薄汚いものだった。呂美人はそれを知っていたから、樊孺人を意識的にさけていた。