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花のあと~大川心中始末~  作者: 大平篤志
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同心と岡っ引き

 間もなく、ふたりは大川端にある人だかりにたどり着いた。


「どけっ」


 十手を手に持ち、吾助が人込みをかき分けて入ってくる。


 縄張りをしてある現場に入ると、蓆をかけられたふたつの死体が並んで置かれていた。


「待っていたぞ、吾助」


 志津馬は吾助とは数回顔を合わせている。


 それまでに吾助は寡黙で大人しい男だという印象だったが、この日は何か、肩に手を置いただけで殴りかかってきそうな殺気のようなものを全身から発散させていた。


 志津馬の声を無視して、吾助は蓆脇に膝をついた。


 志津馬がその後ろに立つ。吾助は蓆の端を持ち上げて、中の様子を確認した。


 吾助はじっと無言でふたつの水死体を見つめている。


「こっちの女の死体は、石原町に住むおきみという女だそうだ」


 志津馬が声をかけると、吾助は片眉を上げ、角が生えればそのまま青鬼のような怖い顔で振り返った。


「新米は黙ってな。現場を確認する時に余計な思い込みはしたくねぇ」


「なっ」


 志津馬はれっきとした幕府御家人である。


 いかに、十手を持っている男とは言え、町人にこのような無礼な口をきかれるいわれはない。


 しかし、前任者である川口彦右衛門より、この吾助に関しては、どんなに態度や口のきき方が無礼であっても気にとめないように釘を刺されている。


 志津馬は、吾助と反対に顔を真っ赤にして怒りを押し殺した。


 吾助は、無言のままふたりの死体を改め終わると、奉行所の小者に指示を出した。


「このふたりをとりあえず番屋に運びな。そこで詳しく調べる」


「ま、待て。勝手な指図は許さん」


 志津馬は、自分を通り越して現場に指図を始めた吾助を定回り同心の威厳を持って押し留めようとした。


 吾助と志津馬のどちらの指示に従っていいのかわからず、その場にいた小物たちの動きが止まる。


「早くしねえかっ」


 吾助は、志津馬の言葉を無視して、小物たちを促した。


 奉行所の小者は吾助の横柄な態度には慣れているらしく、志津馬の指図を聞かずに吾助の指示どおりに動き始めた。


 面目を潰された形の志津馬は、苦い顔で小者たちの動きを眺めている。


 志津馬の前に吾助立った。


 どちらかと言えば細身で小柄な吾助は、がっしりした体格の志津馬の前に立つと、より小さく見える。


 志津馬は怒りをこめた目で、吾助を見下ろした。


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