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花のあと~大川心中始末~  作者: 大平篤志
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夫婦喧嘩

 番屋では、町名主の徳次郎と志津馬が茶を飲みながら話をしている。


「しかし徳次郎。吾助のやつはなんであんなにこの相対死にこだわるんだ」


「親分は、相対死じゃねぇって言ってましたがね」


「しかし、相対死の届出を出してしまえば、この事件はそれで終わりだぞ」


「もしも、これが殺しだったらどうです」


「…………」


「ふたりもの人間を殺した人間が、平気な顔でその辺をうろうろしていることになりますな」


「うぅむ」


 志津馬が腕を組んで考え込む。


「まあ、吾助親分はあんな人ですから、不安になるのもわかりますが……。なぜか、あの人の手に掛かると、どんな事件でもうまく治まってしまうんですよ。……そうだ、こんなことがあった。この界隈で名物になるほど派手な喧嘩をする、六助とおかつという夫婦者がおりましてな……」


 徳次郎の話によると、いつものとおり六助とおかつが道に出て取っ組み合いの喧嘩をしているところに、偶然吾助が通りかかった。


 吾助は大声で喚きながら取っ組み合う夫婦の間に割って入った。


 周りは誰もが吾助が喧嘩を止めるものだと思った。


 しかし、吾助はふたりを引き離すと、いきなりおかつの胸倉を掴んで怒鳴りつけた。


「この、馬鹿アマ。女なんてものは亭主の言うことを大人しく聞いてりゃあいいんだ。生意気言うんじゃねぇ」


 怒鳴り終わると、吾助は容赦のない張り手を、何発も何発もおかつの頬に見舞った。


「人の女房に何しやがる」


 その時、突然六助が吾助の腰にしがみついた。


「なんだ。離せ」


 吾助が腰を振ると、六助が体をひねる。


 ふたりはもつれ合って、地べたに倒れた。


 おかつも顔を押さえて地面に泣き崩れる。


「大丈夫か、おかつ」


 六助が素早く立ち上がり、おかつに駆け寄る。


 おかつは、六助の胸の中で泣きじゃくった。


 吾助が腰を擦りながら立ち上がる。


「なんなんでぇ。馬鹿馬鹿しい」


 そう言うと、吾助は地面に唾を吐いてその場を立ち去っていった。


「それでね、その日からぱたりと六助とおかつの夫婦喧嘩は止んだそうですよ」


「ほう」


 その時、突然番屋の戸が開き、吾助が入ってきた。


 吾助は志津馬の姿を見ると黙って近づいていき、その傍らに立った。


「八丁堀、ちょっと頼みてえことがあるんだが……」


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