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アドゥヴァイス星人

作者: 灯宮義流


 少し遠い未来……地球に異星人が降り立ってきた。

 日本は彼等の根城にされ、すると異星人日本各地を闊歩し始めた。

 いまや日本という国は、アドゥヴァイス星人という顔が真っ赤な宇宙人に支配されていた。

 一表向きには共存しているが、実際はそんな生易しい関係性ではない。

 ちょっとでも外を歩いていると、彼等は必ず日本人に突っかかってきて、何かしら騒ぎを起こす。

 警察だって、毎日のようにあちこちで揉め事が起きるので、それはもうお手上げになっている。


 例えば、あるところで青年が財布を手から落としてしまった。

 すると、丁度近くを歩いていたアドゥヴァイス星人がそれを拾った。

 ありがとうと彼は財布を返してもらおうと手を出したが、アドゥヴァイス星人は何も言わず立ち去ろうとした。

 流石に自分の財布を盗まれて「あー、盗られちゃった」なんて見送るお人好しはいない。

「財布を返せよ!」

「ナゼそんなリクツがまかりトオルのだ」

 発音が所々間違った日本語で、相手は言葉を返す。

「その財布は俺のものだ!」

「しかし、そもそもこのチキューに、“サイフ”というものをツタエたのはワレワレだ」

「ハア?」

「だとすれば、キミタチはワタシタチのギジュツのおかげで、サイフというものをツカウことがデキテいる。チガウかね?」

「……本当に? 根拠はあるのかよ」

「ウタガウのかね!」

 あまりにも強くアドゥヴァイス星人が言うなら、結局彼は何も言えず、財布を渡すことになってしまった。

「あ、TURUYAの会員カードとか、それくらいは返して!」

 するとアドゥブァイス星人が、また振り返って答えた。

「カードというブンメイのリキをツクったのは、ワレワレだ」


 例えば、ある土地にとても貧乏だけどいつも笑顔な一家がいた。

 立地自体は結構良かったので、贅沢は出来なくても生活に不自由することはなかった。

 そんな土地に目をつけたアドゥヴァイス星人は、家族に対して立ち退きを要求した。

 家族はもちろん総出でその要求を退けようとした。

 昔から住んでいる家だったし、立地自体は良いのだから、好んで引っ越したいとも思わなかったのだ。

 だが、そんな彼等の思い入れなど関係なしに、アドゥヴァイス星人は訴えた。

「このトチはムカシ、トオイムカシにワレワレがチキューにやってきたトキ、ワレワレイッカのトチだった。だから、ワタシタチのトチだ」

 一家は、それを認めなかったが、彼等はさらに自分達の権利を主張した。

「オマエタチは、ヒトサマのトチをウバッて、ハズかしくないのカネ」

「ここは俺達の土地だ、出て行け」

「いくらケンリをシュチョウしようが、ムカシここにスんでイタのはワレワレだ」

「証拠は?」

「ウルサイ! カトウセイブツがクチゴタえするな!」

 アドヴァイス星人は、そんな一家の反抗的な態度に腹が立って、懐から銃を取り出した。

 一家はあとずさるが、銃の持ち主は、それを家族ではなく、空を飛んでいたハトに向けて放った。

 銃撃を受けたハトは、小さい呻き声をあげたかと思うと、この地上から跡形もなく消滅した。

「これは、サイボウゼンハカイコウセンジュウだ。セイブツがこれをウケレば、サイボウのチリヒトツノコらなくなる。こんなサイセンタンのギジュツをもつワレワレのイウことがシンヨウすることがデキナイと?」

 結局、一家は何も言うことが出来ず、土地を明け渡すことになってしまった。


 そんな好き勝手やっているアドヴァイス星人に対して、日本政府は何も言えなかった。

 現在の首相であるクフーダ=スオヤも、彼等にはわりと好き放題やられていた。

 彼等がやってきた時、粗茶を出したところ、それは自分達の星で生み出した作法であるとして、作法の使用料をまず取られた。

 さらに、日本人がずっとその作法を使っていたという賠償を彼等は請求し始めた。

 話し合いの結果、日本国民全員の責任を負うことになったクフーダ首相は、自宅などを始め、全ての財産を差し押さえられてしまった。

 だが、彼は国民の前で「ダイジョーブです。アドヴァイス星人ワルイヒトじゃナーイ。ノープロブレム、オーライッ」と、あくまで強気だった。

 翌日、クフーダは国を捨てて逃げ出した。

 考えて見れば、所詮日本は彼の故郷じゃない。だから、途中で逃げだしたところで罪悪感などなかったのである。

 曲りなりともまとめる人間がいなくなった今、日本人は成す術なく、結局は政権までアドヴァイス星人に奪われてしまった。

 その年より、日本はアドヴァイス星人の統治する国となった。


 国会の全てを異星人に侵略された国として、日本は有名になった。

 いや、厳密にはもう日本という国は存在しない。

 賠償金を搾り取れるだけ搾り取られ、国が一字破産してしまった瞬間、日本という国は地図から消えた。

 昔日本列島と呼ばれたここは、アドヴァイス星地球支部として未だに存在はしていた。

 日本が崩壊してから数年後、純血の日本人はとうとう一人もいなくなった。

「フザケるな! ヨーシ、スコシでもニホンジンのチをヒイテるヤツをツレテコイ! ドレイにしてヤルンダー!」

 今や、日本人の血は絶えようとしていた。


アドバイス、すなわち勧告、忠告。

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― 新着の感想 ―
[一言] 風刺かぁ。中国人、だね。あるいは、朝鮮人。 なんというか、なんでしょ? なんで日本人てこうなんでしょうねぇ。 だいたいね、自分もこういうとこあるので、読んでて辛い。 ほかっときゃ、領土どんど…
[一言] 笑いました。タイトルから面白かったです。 大好きな星新一先生っぽいです。SSはやっぱりイイですね。
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