6話
「……ここは?」
暗い、どこかの空間だった。
真っ暗で一寸先すら見えない。暗闇と呼べるような空間でどこに行けばいいかもわからずに漂っていた。
そこでふと、ここは夢なんじゃないかと思い始めた。
「また、いつもと同じ夢か……」
この夢を見て、いつも飛び起きる。そうやって起きた頃には夢のことなんか忘れているのだろう。そうやって毎朝同じことを繰り返している。
「……?」
そこで違和感を感じ始めた。体がまるで何かに縛られたかのように動かないのだ。
まるで金縛りにあったかのように、体はピクリとも動かない。暗闇の中で動くことも出来ずに、ただ目の前には真っ暗な景色が広がるだけだった。
「どうなってるんだ……?」
俺は直感で思った。いつもの夢ではないのでは、と。
いつもなら、ここで、見たくない何かが見えるはずなのだ。
だが、自分はいつまたってもでもその暗闇から動かかとができない。
俺はこの暗闇から抜け出せない気がして、恐怖を感じ始めた。。
必死にもがこうとするが全く動くことがない。ずっと暗闇の中を漂い続けるような感じだ。
「……うっ!」
急に後ろから何かに引っ張られるような感覚に陥る。
俺はその感覚に逆らうことも出来ずにただ引っ張られていく。
どんどんスピードが上がっていって、意識がぶれていく。そのまま耐えられずに俺の意識は暗転した。
「…………っぁあ!」
体を起き上がらせる。そういう行動をとったが、いま自分は寝ている状態ではなかった。
机の前の椅子に座っており、俺は背もたれに寄りかかっていた状態から体を前のめりにした状態になっていた。
「……?」
どうして自分は椅子に座っているのだろうか。いつの間にか起きていて寝ぼけていた……?
昨日と同じように全く身に覚えがなく、夢遊病ではないかと疑うほどだ。
ふと、俺は机を見ると、そこには一冊のノートが広げてあった。
水でふやけていて、中身は必死に書き殴ったような字が連なっている。かなり年季が入ったノートだ。
それは俺が机の奥底にしまっておいた、もう出すこともないかと思っていたノートだった。
「どうしてこれがここに……」
俺はそのノートを乱暴に机の中に突っ込んで、目を逸らした。そらした先にあるデジタル時計を見た。
「……え?」
そこには七時三十分を示していた。一瞬見間違いじゃないかと疑うが、携帯をつけて確認すると携帯には同じ時間で表示されていた。
「なんで、こんな時間?」
あの日から寝坊することなんてなかった。それに昨日は夜更かししたわけでもない。
それなのにいつもよりも1時間半も遅く起きている。
考え方によってはいつもよりよく眠れて、昔からの悩みが解消したのかもしれないが、俺はその状況を、夢や悩みの原因を思うと手放しに喜べるものではなかった。
あの夢はいつもの夢ではない。今日見たあの暗闇の夢のことは覚えてるし、それに感覚でいつもの悪夢ではないことがなぜかわかった。
しかし、今日の夢もいいものではなかった。暗闇で、金縛りにあっていて、体は動かせない。とてもいい夢とは言えるものではなかった。
俺は寝間着のまま一階に降りた。
「……おはよう」
「おはよう、あぁ、よかった。降りてくるのが遅かったから心配して起こそうと思ったのよ。遅かったわね? よく眠れたの?」
母さんは心配そうに声をかけてくる。母さんを心配させたことに罪悪感を覚えつつ「あぁ、大丈夫。よく眠れたよ」と声をかけて心配をかけないように答えて、食卓テーブルの椅子に腰掛ける。
今日の朝ごはんは白ご飯とスープといういつも通り和風洋食の混じったメニューだった。
それを軽く平らげ、部屋に戻り着替えて用意すると、いつもの家出る時間あたりになったのですが家を出た。
「……遅い」
いつも通りに沙月が門のあたりで立って待っていた。太陽の日差しは相変わらず彼女をスポットライトのように照らしている。
「誰も待ってろなんて頼んでない」
いつものように返すが、いつもと違って反論がなかった。
沙月はそのままこちらに背を向けて歩き始めた。
俺はそれについていき、そのまま沙月は一人でマイペースに歩いていく。俺はその少し後ろからついていくように歩いて行った。
沙月はいつもと違って全く元気がない。ただ、黙って歩みを進めていく。
「…………ねぇ」
ぼそっとつぶやくように沙月が声を出した。
「今日、筋トレはどうしたの?」
沙月は半目でこちらを見てくる。
「……寝坊しただけだ」
「ふーん」
聞いてきたくせにまるで興味なさげなような態度を取る。
「それって、もう寝れるようになったってこと?」
「……いや、どうなんだろうな」
「なにそれ」
さっきから沙月は不機嫌そうにこちらに声をかけてはひたすら先に進んでいく。
俺が何か悪いことでもしたんだろうか。
「筋トレ、いつ辞めるか楽しみって言ったけど、まさかこんなタイミングで辞められるとはなー、つまんないなー」
「別に筋トレは辞めたわけじゃない。それにこんなタイミングってどんなタイミングだ」
「……ふん」
沙月は俺の返事を聞いて、もっと機嫌が悪くなりそっぽを向いて先に行ってしまった。
追いかけるか迷ったが、彼女は信号の点滅する横断歩道を駆け足で渡ってしまい、信号が赤になってしまったので、仕方なく追いかけるのをやめた。彼女は信号を渡った先でも構わず走って学校に向かって行った。
何か悪いことをしてしまっただろうか。考えるが心当たりがない。彼女の行動には理解できない点が多々あったりする。いちいち全てを理解しようとすればそれこそ疲れてしまうだろう。
俺は諦めたようにため息をついて、そのまま学校に歩いて向かって行った。
今週もギリギリ、頑張らないと……(年末年始忙しい




