3話
教室について中に入ると、ざわざわとしたみんなの話す声が違和感なくBGMとなっており、その空間は人の温もりが入り混じった、生温い空気を感じる。こういう空気は少し暑く感じるし、少し気持ち悪い温もりなのであまり好きじゃない。同じ理由で人の集まるところも好きではないのだ。
俺は1番後ろの席の窓から二列目の席に向かう。その時に誰とも言葉を交わすことはない。
座って一息つくと、誰かが近づいて来た。
「おはよう、高崎くん」
「あぁ、おはよう」
同じクラスの武藤だった。下の名前は知らない。
「今日も西条さんと来たのかい?」
「まあな」
「仲良いね」
「昔からそんなもんだ」
一体こいつは何をしに俺のところまで来たのだろうか。
「そんなこと聞きに来ただけか? 俺と話しても面白いことはないけど」
「いいんだよ、僕は君に興味があるから」
そうにっこり笑ってくる。
武藤はクラスで女子にも男子にも人気が高い。周りに気を使えて、ノリもいい、勉強も出来るので自然と周りに人が来るのだ。
俺はクラスでまともに会話するのは意外とこいつだけかもしれないが、俺にとって武藤はこのクラスで1番仲のいい話す相手だとしても、武藤側はそうでもない。こいつの交友関係はとても広いのだ。
そもそも、俺のクラスの仲良いやつがいなさすぎるということもあるが。
「高崎くんっていつも何してるの? 何かをしてるイメージが湧かないんだよね」
「まあ適当に、勉強して、筋トレしたりして」
「へぇ、筋トレしてるんだ、部活とか入らないの?」
こいつも同じことを聞くな。
「まあ、入る気はないよ」
「えー、勿体無い気がするなー」
武藤はそう言って残念そうにする。
すると、予鈴が鳴って「それじゃ」と言って武藤は自分の席に戻る。
結局あいつが俺のところに来る理由は謎のままだ。
適当に担任が連絡事項を述べて1限目が始まった。
授業は基本的に真面目に聞く。というよりも、授業中に勉強以外に寝ることくらいしかやることがないからだ。それに勉強をしていて困ることなんてない。
学校という場所にあまり執着はない。ただ、行かなくては行けない気がするから行くだけで、家で勉強するだけで卒業が出来て、その後も問題がないなら好きで学校なんて来ないだろうと思う。
真面目に勉強を受けていると時間は早く感じる。気がついたら四限も終わって昼休みの時間になっていた。
昼は母さんに作ってもらった弁当だ。座っている机の上で弁当を開ける。二段弁当でご飯や、野菜、唐揚げ、卵焼きなど、カラフルな弁当でとても手が込んでいる。
「相変わらず豪華な弁当ね」
気がつくと近くに沙月が来ていた。隣には逢沢さんがいて、俺の心拍数は少し上がる。
「なんだよ」
と俺は少し不貞腐れて言う。
すると沙月は呆れた声で
「一人かわいそうなあなたと一緒にお昼ご飯食べてあげようとしたのよ」
と頼んでもいないことを、さも俺のためのような発言をする。
「ふふっ、沙月は照れ屋さんね」
「別に! そんなんじゃ!」
そんな二人の会話で一気に俺の周りは騒がしくなる。そして、沙月や逢沢さんがいることで注目度も上がっていて、周りの視線が集まっていた。
「……静かに食べさせてくれよ」
お昼に他人と話しながら食べる理由がわからない。さっさと食べて休んでればいいと思うのだが。
「あんたのために来たのよ!」
誰も頼んでない、とは言わないでおこう。朝と同じになってしまう。
「ご相席してもいいですかね?」
今度は武藤が来た。これは静かに弁当を食べれそうにないな。
「なんだ、ちゃんと一緒に昼ご飯食べてくれる友達いるんじゃない」
「余計なお世話だ」
「まあまあ、早く食べちゃおう!」
「それでは失礼して……」
そう言って武藤は俺の左隣の席を借りて俺の席にくっつけて来る。
沙月と逢沢さんの二人は前の二つの席を借りて反転させてくっつけて来た。
「高崎くんの弁当って豪華だね、お母さんが作ってるのかい?」
「当たり前じゃない、こいつがこんないい弁当作れるわけないでしょ」
「沙月、お父さんかもしれないでしょ」
「創太のお父さんは朝早いし忙しいからないと思うわよ」
「西条さんはやっぱり高崎くんの家のことに関して詳しいんだね。さすが幼馴染なのかな?」
「まあ昔から付き合いあるしね、親同士が私達が生まれる前から仲が良かったのよ」
「私のお母さんが沙月のお母さんとが知り合わなかったのが一番の誤算……」
「……なかなか無茶な話ね」
「なるほどね、そういえば西条さんのお弁当も美味しそうだね」
「こ、これは、その、私が……」
「沙月の料理は美味しいのよ!」
「なんで美咲が自慢気なのよ……」
「へぇ、そうなのか、一口食べさせてくれないかい?」
「え? ま、まあ別にいいけれど……」
――これ俺いる必要あるか?
さり気なく武藤が沙月を褒めているところを見ると、彼のコミュニケーション能力の高さがわかる。逢沢さんは沙月のことばっかりだな。
俺が会話に入らなくてもどんどん話が進んでついていけなくなっていく。話は盛り上がっていくのに自分だけは取り残されていく一方だ。
そんな感じで勝手に話が進んで三人で盛り上がって、俺は弁当が食べ終わっても大して休めないまま、ひたすら聞き専のまま昼休みのチャイムが鳴った。
その音を聞いて自分たちが使っていた机を元の位置に戻す。
「それじゃ、席に戻るわね」
「高崎くん、武藤くん、またね!」
先に女子二人が席に戻って行った。
「面倒見のいい幼馴染だね」
そんな二人の方を見ながら武藤は浮かない顔をしながらつぶやく。
「余計なお世話なだけだ」
「羨ましい限りだよ」
苦笑いをしながらそんなことを言う武藤に少し違和感を持った。
「お前なら仲のいいやつくらい沢山いるだろ?」
俺がそう言ったら、少しの沈黙の後に
「……まあ、ね」
と困ったような笑みを浮かべながらそのまま自分の席に戻って行ってしまった。
全然進まなくてごめんなさい……思ったより文字がかさみます……




