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カワルモノ  作者: +傘
2/7

1話

 

「……っ!」

 俺は布団から飛び起きた。動悸が激しい。

 いつもと変わらない、自分の布団。部屋は昔から変わっていない家具の数々。でも昔より少し増えたせいで少し狭く感じるようになってきた。

 何か、何かを見た気がする。でも、思い出せない。

 カーテンの間から漏れる光が眩しい。

 寝汗が気持ち悪い。

 俺はベットの横に折りたたまれてるシャツに着替える。

 たとえ毎日のことでも、この汗は慣れない。

 枕元の時計を見ると、まだデジタル時計は六時を示している。

 毎日うなされて起きる。付いてくるのは最悪な目覚めと目覚ましいらずな毎日だけだ。

 体が必要以上に暑くなりすぎていて、二度寝などできそうにない。体が沸騰しているような感覚。嫌な感覚だ。

 シャツにジャージを着て下に降りる。九月になったとはいえ、まだ残暑がキツイところだ。

「おはよう」

 リビングに入って俺は声をかけた。

「ああ、おはよう創太」

「おはよう、創太」

 父さんと母さんが挨拶を返してくる。父さんがいるのはめずらしい。

「お前、最近ちゃんと眠れてるのか?」

 父さんは無表情だが、心配して聞いてくれているのがわかる。

「起きる時間は基本決まってるからね、寝る時間さえ早ければちゃんと眠れるよ」

「そうか」

 起きる時間はもう三年くらい変わってない。

 毎日ああやって起きてしまう。どれだけ夜更かしして遅くまで起きていても六時よりも前に寝てしまえば起きるのはいつもあの時間だ。

 だから、基本的に夜は早く寝る。じゃないと体がもたない。

「それじゃ、今日も走ってくる」

「朝ごはんは?」

「帰ってから食べるよ」

「そう、気をつけていってらっしゃい」

 母さんにそう声をかけられて、俺は玄関に向かう。

 いつもの、日課であるランニング、それと腹筋と背筋、腕立て伏せだ。

 朝、早く起きてしまうと、何かと朝が暇になってしまうので、体を動かすことにした。

 体を鍛えることは嫌いじゃなかったし、運動すると起きた時の気持ち悪さが抜けて心地よかったからだ。

 靴を履いて、外に出る。残暑の厳しい夏は、朝の気温がちょうどいい。

 軽く準備運動してから、ゆっくり走り始めた。

 始めたばかりの頃は二キロ程度だったが、今では距離を伸ばして、大体十キロを1時間程度で走るようになっていた。

 毎日変わらない道。公園で朝からラジオ体操しているおじいさんおばあさんたち、犬の散歩をしている人たち、俺と同じで朝からジョギングしている人たち。

 俺の近所で朝見かける人はあまり変わらない。

 建っている建物も、お店も最近は変わっていない。

 この街は時が止まっているように感じる時がたまにある。

 でも、朝犬の散歩をしていたおばあちゃんが、その息子らしきおじさんに変わっていたり、いつの間にか、建っている建物のペンキが綺麗に塗り変わっていたり、変わっていないと錯覚しながら、本当は小さなところが変わっていっている。

 俺も変わっていないと思いながら、少しずつ変わっているのだろうか。

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 考え事をしながら走っていたら、気がついた時にはいつものルートを走り終えていて、家の前までついていた。

「はぁ……、考え事しながら走ってたら……はぁ……、余計に疲れたな……」

 息が整うまで少し休憩する。服をつまんでぱたつかせて空気を送り込む。汗が乾いたのと、新しい空気が入って少し涼しくなった。

「毎朝毎朝、よくも飽きずに頑張るわねー」

 斜め上方向から声がかかる。いつものように見上げると、案の定、隣の家に、それもいつものように沙月がベランダの手すりに肘をかけてこっちを眺めていた。

 昔と違って髪が伸びて腰あたりまである。目付きの悪いと思っていた目も成長したらそれなりに馴染んで逆に綺麗さを引き立たせる要因となっている。

「お前も毎日毎日そう言ってたよく飽きないな」

「あんたが本当に毎日やってるか確認してるのよ、いつ辞めるか楽しみだわ」

「辞める気はないよ、朝寝坊しない限りな」

「……やっぱまだダメなの?」

 少し声のトーンが落ちた声で聞いてくる。

 ダメとはおそらく俺が毎日うなされて起きていることだろう。俺がこういう状態なのは幼馴染のあいつは知っている。知っている理由は、まあ多分、親が仲良いからそれ経由で知っているのだろう。

「まあな、だけど、朝寝坊しないのは便利だぜ?」

「本当にバカ」

 呆れたように言い残して沙月は部屋に戻って行った。

 俺はさっさと筋トレを始める。早くしないと学校に遅刻してしまう。

 それぞれ五分ずつやって合計十五分程やったら家に入る。

 筋トレはあまり体を痛めつけない程度にやる。あまり筋肉も酷使しすぎると逆効果らしい。

「はい、おつかれ。朝ごはんはもう出してあるわよ」

 母さんが俺にタオルを渡しながら言う。毎日のことなので慣れたものだ。

「父さんは?」

「もう仕事に行ったわよ」

 いつもより遅いなと思っていたけれど、それでも七時くらいには家を出ているのだから早いものだ。

「さっさと食べて、シンクに運んどいて」

 そう言って母さんは二階に洗濯物を持って洗濯しに行った。

 今日はいい天気なので、洗濯物はよく乾くだろう。

 今日の朝ごはんは、野菜が細かく刻んであるスープとご飯と納豆。いい匂いと臭い匂いが入り交じっている妙な組み合わせだ。うちの朝ごはんはたまに和食と洋食が混ざる。何故だろうか。まあ、母さんの気分だろうけど。

 朝食をさっさと食べ切って洗い物をシンクに運んだら部屋に戻る。

 汗のかいたシャツとジャージを脱いで制服に着替える。

 まだ夏服なので、ワイシャツと灰色気味の生地の薄い長ズボンを履いてベルトを締める。

 通学用カバンとさっき脱いだ洗濯物を手に持って、ベランダで洗濯している母さんに「行ってきます」と声をかけ、「行ってらっしゃい」と返ってきたのを確認してから一階に降りる。洗濯物を洗濯機に入れてから一度、時計を確認した。

「丁度八時か……」

 家から十五分ほどの距離にある高校なので余裕である。

 そのまま靴を履いて玄関の扉を開けた。

もっと長く行こうと思ったのですが、なかなかきりのいいところがわからず、とりあえず今のところきりのいいところで切ります。

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