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カワルモノ  作者: +傘
1/7

0話

過去編です。本編は1話からです。

 その日は特別眠かった。

 目が覚めると、覚醒していない頭がうまく働かず、まだ少し肌寒い五月の朝では布団の温もりが恋しく、また夢の世界へ誘われていく。

「ほら、創太! 早く起きなさい!」

 母さんが俺から布団を取り上げて、一気に布団の中の暖かい空間が周りの温度と混ざり俺の周囲の温度はみるみる下がっていき、同時に俺の体温も下げていった。

「早く起きなさい、朝ごはんできてるから、早く下降りてきなさい」

 寒い空間に嫌でも目を開けてしまう。俺の眠気はまだ取れないが、とりあえず眠っていた体は冷気によって叩き起された。

 部屋にはベランダ側の窓の近くにドアから見て右側にベッド、左側に勉強机、着替えの入ってるタンスはドアのすぐ側にある、それらの家具が部屋の面積のほとんどを取っている。

 あまり広いとは言えないかもしれないが、一軒家であり、自分の部屋がある分いい方であると思う。

 タンスから服を出し、適当に着替えて、階段を降りていく。今日が楽しみで昨日はあまり寝られなかった。

「おはよう」

 降りてきて挨拶したが、父親はもう家を出たらしい、相変わらず朝が早い。

「おはよう、今日から修学旅行なんだからきちっと寝癖も直して、忘れ物がないか確認してからいきなさいよ?」

「はーい」

 今日は小学校の修学旅行だった。去年の林間学校に続き、二度目の友達との泊まりの旅行で、楽しみすぎて夜眠れなかったのだ。

 食卓テーブルの上にはパンと味噌汁という洋食と和食の組み合わせの朝ごはんだが、そんなに嫌いではない、即座に済ませて、今日の持ち物を確認する。

「よし、こんなもんかな」

 修学旅行のしおりに書いてある必要な持ち物と照らし合わせてチェックして、全て揃っているのを確認した。

 そして、俺はその日初めて時計を見た。

「え!? もうこんな時間じゃん!」

「あれ? まだ七時だし大丈夫なんじゃないの?」

「今日は修学旅行だから集合時間はやいの!」

 俺は急いでリュックを背負って玄関に向かう。

 やばい、これは遅刻だ!

「待って! 車で送っていくから!」

 そう言われて俺は急ぐのをやめた。遅刻しそうでやばいと思ったけれど、送って貰えるならそれはそれでラッキーだ。

 母さんの用意ができるのを少し待った後、靴を履いてスーツケースを引きづりながら玄関の扉を開ける。

 扉を開けると、朝のひんやりとした空気が顔に当たりさっきまで家の中であったまっていた顔の温度が適度に下がる。朝の冷えた香りのする空気はいつも嫌いじゃなかった。

 俺は母さんの赤い車に乗り、スーツケースは母さんが後ろのトランクに積んで学校まで向かった。

 学校までは家から少し遠く、歩くと二、三十分程かかる。二、三十分というとかなり差はあるが、まあつまり、その日の歩く速度である。雨の日や今日みたいなスーツケースのある日は三十分はかかるだろう。今日はいつもより時間がかかりそうで歩いていくのが嫌だった。

「あー、もう! 寝癖そのままだし、失敗したわ」

「朝、集合早いの忘れてたの母さんでしょ!」

「小学六年生なんだからもう自分で起きなさいよ!」

 目覚ましはしっかりかけていたのだ、ただ昨日眠れなかったからまた寝てしまっただけ。

 仕方ないじゃないか、楽しみだったんだから。

 車に乗って見上げる景色は朝ならではの雲ひとつない、透き通った青空とひたすら続いて行く電線がよく見えた。

 朝と昼では空の質が違う。うまく言えないが俺は前々からそんな感覚を感じ取っていた。

 歩いて二、三十分の距離でも車だと十分かからない、しかし、車の心地よい揺れに俺はどんどん睡魔に襲われる。


「ほら! 起きなさい! もう着いたわよ!」

「あ、うん」

 いつの間にか寝てしまったらしい、中途半端に寝てしまったせいでかなり眠い。

 うまく開かない目をこすりながら車から降りて、後ろのトランクに向かった。

 母さんがトランクを開けて中のスーツケースを取り出す。

「はい、中の着替えとかは昨日言ったとおりだから、きちんと畳んでしまうのよ?」

「うん、わかった」

 スーツケースの取っ手を伸ばして、タイヤをコロコロ回しながら引いていく。

「気をつけていくのよ!」

「はーい」

 心配性の母さんだ。

 俺が母さんに色々な面で甘えてしまうのはあの子離れ出来ていない母さんのせいでもあるんじゃないのか……。

 車の止まった場所は学校まで数分のところだ。いくら大荷物と言っても車で来るのは小学六年生にもなって情けない事なのであまり知られたくない。

 それに学校の前には修学旅行のバスが停まっていて、車が停められるようなスペースがなかった。

 そのまま俺はエンジン音のうるさいバスの横を通り抜けて校門をくぐった。

「お? 高崎か、ギリギリだぞ〜って寝癖ついてるぞ」

「あ! おはよう! 岡部先生、ちょっと寝坊しちゃって」

 校門前に立っていたのはうちのクラスの担任の岡部先生だった。たまに厳しい時もあるが、生徒のためを考えてくれる優しい先生だと慕われている。

「もうみんな校庭に集合してるから早く行ってこい」

「はーい」

 その言葉を聞いて駆け足で校庭に行く。

 そんなに寝癖目立つかな?と髪の毛を弄りながら生徒が集まっているところに向かうと、みんなクラス別に並んで座っていた。

 まだ五分前のため、各々で喋っている。

「お、創太! こっちこっち」

 その列の中で1人がこっちを向いて手を振っている。

 同じクラスの福田純也だった。

 純也は見た目がスポーツ少年のスポーツ刈りでテンションが高いやつだ。

 俺はそのまま純也のそばまで行って、すぐ後ろに座りこんだ。

「おはよ! 創太、遅かったな」

「いやー、集合時間間違えちゃってな」

 自分が寝坊したことや、親に送って貰ったことは言わない。

 だって恥ずかしいし。

「ま、間に合ったならいいんじゃね? ようやく待ちに待った修学旅行だし、遅刻するより全然マシだと思うぜ」

「そうだな、遅刻して後から来るなんて恥ずかしくて嫌だし」

 そう思うと、送って貰って本当にラッキーだったな。後からこそこそと合流してみんなの注目集めるの嫌だしな。

「創太のことだし、昨日眠れなかったりしたんじゃない?」

 そう言ってきたのは純也の前に座ってた早川雅彦だった。

 雅彦は髪の毛は少し長めで前髪は目にかかりそうなくらい、おっとりとした性格で、でも運動すると、負けず嫌いの性格からかとても気が強くなる。

 俺はその言葉に、

「えっ、いや、それは……」

 と、動揺して言葉を詰まらせてしまった。

「ははっ、寝癖ついてるから急いで来たんだろうって思ったけど、本当だったんだ」

「え? お前まじかよ、子供だなー」

 純也にそう言われて俺はちょっとムカついた。

「は? そんなことないし! 昨日はちょっと夜更かししただけだからな!」

 少し意地を張って強めに発言した。逆にそれがあからさまに見えて怪しく感じられるだけなので、二人は俺を見てニヤニヤしたままだった。

「そうやって寝坊して結局親に送ってもらってたら子供じゃない」

 俺はビクッとして声のある方に振り向いた。

 そこに座っていたのは隣のクラスの女子の列で幼馴染の西条沙月だった。

 沙月は可愛いというより綺麗という感じのやつで、クラスでも結構人気が高かった。綺麗な黒髪が肩まで伸びていて目つきが鋭かった。

 俺にとっては目付きの怖い幼馴染だが。

 そんな沙月が俺が車で来たことを知っていた。

「なんで、それ」

「ここから創太の家の車が通ったの見えたからよ」

「くっ、マジか」

 沙月は隣の家なのでうちの車のことをよく知ってる。

 車のナンバーまで覚えてるし、誤魔化しようがなかった。

「創太、やっぱり子供だな」

「そうだね」

「……そんなことない」

 そうやって反論するが、説得力はなかった。

「はい! 静かにして! 朝礼始めますよ!」

 そうやって教師が声をかかったので、俺たちは話をやめて前を向いた。

 周りは少しずつ静かになっていって、完璧に静かになるまで教師は待っていた。

「はい、皆さんおはようございます!」

「「「「おはようございます!」」」」

 結構な生徒が大きな声で挨拶する。そういう俺とか純也とかは他がすると思って静観しているだけだった。

「ちゃんと挨拶しなさいよ」

 沙月は見ていたようで、俺に注意してくる。

 俺のこと監視でもしてんのかよ。

「静かにしようぜ」

 そうやって皐月に返したら、嫌な顔されて、そのままそっぽ向いてしまった。

 ちょっと調子に乗りすぎたな……。

 実行委員の人たちが前に出て、注意事項や先生の話、これからの話を淡々とする。

 待っている俺たちは早く終わらせて、さっさと行きたかった。

 校長先生の長い話も終わり、バスに移動することになった。

「それじゃ、お先に」

 そう声をかけて二組の沙月は先に移動していった。切り替えの早さは彼女のいいところだろう。俺たちの移動はこの後だ。

「いやー、やっとかー、創太! バスはお前、俺の隣だよな?」

「そーだよ」

 ようやく自分たちの移動する番が来て、純也が楽しそうに声をかけてくる。俺もだけど、結局純也も相当楽しみにしてたらしい。

 まあそれもそうだよな、せっかくの修学旅行だし。

「僕も二人の席の反対側の席だよ」

 雅彦も楽しそうだ。なんだかんだでみんな楽しみなのは変わりない。

「じゃあ、話していこうな! 昨日見たサッカーアニメが熱かったんだぜ!」

 目をキラキラさせながら今にも語りたそうに純也は興奮している。

 話したいところだけれど、俺は結構眠い、できればバスの中で移動中に寝ていたい。

 クラスのみんなは岡部先生を先頭に列になって歩く。そのまま校門を出て、バスのドア前まで移動していったら、そこに運転手とバスガイドさんがいた。

「それでは、今日はよろしくお願いします」

「「「「よろしくお願いします」」」」

 岡部先生に続いて、クラスのみんなが挨拶する。

「……よろしく」

「はい! みなさんよろしくお願いしますね!」

 あまり友好的な運転手ではないらしく、その挨拶だけだった。ガイドさんは明るく自己紹介をして挨拶してくれた。

「それじゃ、順番に荷物を入れてからバスに入って自分の席に座ってねー」

 岡部先生がそう誘導して俺らは大きな方の荷物をバスの横の収納口に入れてからバスに乗り込んだ。

前から5列目左側の席、それが俺と純也の席だった。

俺は先に窓側に行き、廊下側を純也が座った。

「あの運転手愛想わりーな」

「それに、暗かったしね」

「まあ、運転手なんでそんなもんじゃない?」

 雅彦は右側の席に座っている。俺たちはあのくらい運転手のことに関して愚痴っていた。

 俺にとっては運転手の愛想なんてどうでもよかったけど。

「まあ、ガイドさんは楽しそうな人だし、いいんじゃないか?」

「ま、そーだな」

「それもそうだね」

 適当に会話を交わしていると、みんな乗り込んだようで、岡部先生が点呼をとって、クラス全員が揃っているのを確認した後、バスは出発した。

 しばらくバスが走ってると、また心地よい揺れに睡魔が襲ってくる。

「おい、起きろ! 寝るな!」

「……眠いんだよ」

 隣の純也が必死に俺を起こしてきた。

 すごく眠いからとりあえず寝かしてほしい。

「ん? そういえばそれ、どうした?」

 純也は俺の腕に貼ってある小さな正方形の絆創膏のようなものを指差す。

「ああ、これ? これこの間献血した時のやつ」

 それは三日前くらいに母さんと買い物行った帰りに口車に乗せられてやらされたものだった。

「創太もやったのか……、俺も母ちゃんにお菓子もらえるからってやらされたんだよな……」

 そう言って純也も自分の腕の絆創膏も見る。純也も俺と同じ理由でやらされたらしい。

「ははっ、二人は仲良しだね」

 隣の席から雅彦は笑いながらこっちを向いた。

「俺らが仲良しというよりも、母さん同士がよく似てるって感じだけどな……」

「創太も同じ理由だったか……」

 純也が俺に同情めいた視線を送る。

 俺の場合そのお菓子が今回の修学旅行のお菓子に含まれてるけどな。

「そういえばさ、三人の血液型ってなに?」

 雅彦の隣にいた女子が話しかけてくる。橋田彩香と言って、雅彦と幼馴染の女の子だった。橋田さんは沙月と違って可愛いという言葉が似合う子で、沙月より髪は短めで、マイペースな感じの子だ。雅彦と橋田さんの席だけがうちのクラスで男女隣同士だった。

 その質問をされて、俺と純也と雅彦は顔を見合わせる。そして三人で頷いて橋田さんに向かって、

「「「B型!」」」

 と、ぴったり声を揃えて言うと、橋田さんは目を丸くした後、口に手を当てて笑っていた。

「ふふっ、三人とも仲良いと思ったら血液型も同じだったのね」

「それだけじゃない!」

 純也は堂々とした声で発言して、自分を親指で指差す。

「俺の将来の夢はプロサッカー選手になること!」

 そして純也は俺の目を見てくる。

 仕方ないな……。

「俺の夢はプロ野球選手になること」

 そして俺と純也は雅彦の顔を見た。

 すると雅彦も仕方ないなと言わんばかりの顔をしている。

「僕の夢はプロバスケットボール選手になることだよ」

「俺たちが日本代表になって、スポーツ界を変えるんだ!」

 純也が胸に手を当てて高々と宣言する。俺はそこまで大きなこととは考えていなかったが、プロの世界で活躍したいと言う気持ちもあったので否定することはなかった。

「あはははははは!」

 橋田さんはさっきとは違いお腹を抱えて大きく笑っていた。

 すると純也は不満気な表情を浮かべる。

「そんなに笑うことないじゃんか……」

 純也は少しぐずっていた。大きなことを言うくせに案外打たれ弱いのだ。

「ふふっ、ごめんなさい。別におかしな夢だと思ってるわけじゃないのよ? ただ、すごいなって、きっと叶えてくれること待ってるわね。ね? 雅彦」

 急に名前を呼ばれて驚いた雅彦は、

「ええっ? まあ、できるだけ頑張るよ……」

 と、狼狽えて顔が赤くなっていた。

 やっぱこいつら仲良いな。

 その後、純也がサッカーアニメの話を俺たちに向かって熱く話し始めたところで、俺は聞きに入っていたため、どんどん眠くなっていった。

「おい、創太! 寝るなよ!」

「まあまあ、純也、寝かしてあげなよ、昨日楽しみで寝られなかったみたいだし」

「え? 高崎くんそうだったの? なんか意外だけど、可愛らしいね」

 橋田さんはそういって微笑んでる。馬鹿にされてて弁解しようと思ったけど眠くてそれどころじゃなかった。

「ったく、しょうがねーなー」

 純也も諦めてくれたようで、起こすようなことはしなくなった。

 そのままバスの揺れで俺はどんどん意識が遠のいていった。

週一回を目標に更新できるようにします。

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