不死鳥の力
リリスが俺達の前に現れてから一週間が経った。
学校に行く際には家で留守番を頼んでいたのだが、今日、いきなり断られた。
「魔王様!私そろそろ心配です!魔王様が私のいない所で怪我でもされたら……その、困ります」
「安心してくれ、俺は大丈夫だから。そりゃ日常生活をしてる中で怪我の一つや二つくらいするだろうけど、お前が心配する程じゃないよ」
「そうだよ、兄さん昔から怪我してもピンピンしてたからね」
遥の助言もあり、リリスは少し落ち着いた。
「まぁ、そういう事だから今日も留守番頼んだぞ!リリス」
「お任せ下さい!この命に替えても魔王様の城は守り抜いて見せます」
「ははは…大袈裟だな。じゃあ行ってくる」
「行ってきまーす」
今日も遥と登校する。
リリスが現れてからも特に変わった事も起きてないし、いつも通りの平和な日常が訪れている。
「ねぇ、兄さん…あそこ」
何かを見つけたのは遥だった。
遥の指を指す先に一人の子供が座っていた
青い短髪の髪をした……少年がいた
親に捨てられでもしたのだろうか、気にはなる。
子供がこんな朝早くから道端で座り込んでいる光景に我慢してられなくなった
「君、大丈夫?どうしたの?」
少年に声を掛ける
「………お兄ちゃん……誰?」
「俺?俺は通りすがりの学生さ。君はここで何してるの?」
「……ボクは…人を探してる。」
こんな子供が人を探してるのか?しかし、学校がある。今はどうしようもない。
「そうなんだ、無理しないで警察にでも行けばいいと思うよ。俺ら学校あるからさ、ごめんだけど、人探し手伝えないや」
「うん……気持ちだけ。ありがとうございます」
ーーーーーー
学校が終わり、妹と帰宅する。早く帰らないとリリスがまたうるさいからな
通学路と同じ道で帰りも帰る。
すると、そこに朝見かけた少年が座っていた
「まだ居たのか。君」
「あ、お兄ちゃんは朝の…」
話を聞いていくと、今日は一日中ここに座り込んでいたらしい。
「お腹…空いた」
お腹を押さえ込む少年。
「だったら家来るか?飯作るぞ、遥が」
「ええーっ!?わ、私が!?他人事だと思って言ってるでしょー!家事大変なんだからね!……でも困ってる子供がいるんだし、いいけどさ」
「ありがとう…ございます。」
ここ最近人助けをよくする。
でも、これはいい事だし、罰は当たらないだろう。
少年を連れて三人で帰宅する。
「ただいまー!」
玄関のドアを開けると、既に目の前にリリスが座り込んでいた。
「ずっと…居たのか」
「はい。ずっといました」
よくこんな所で…しかも正座しながら待ってられるよ
「魔王様!お怪我はありませんか?」
「……あっ、お姉様!見つけた!」
「えっ?んなっ!?レヴィ!何でここに!?ま、魔王様早くこの子から離れてください!」
なんかいきなり展開が変わった。
「この人がお姉様の言ってた魔王様なんだね。ヒョロヒョロしてて弱そう…」
少年はそう言って、後ろからギュッと抱きついてきた
「ちょっ!なんだよリリス急に!それに君も離せって」
「ボクに抱きつかれたらもう誰も離れられないよ…お姉様にまとわりつく者はボクが排除する」
「レヴィ!やめろぉ!私の魔王様に手を出すな!いくらお前でも…殺すぞ」
「お姉様聞いて!ボクはね、ルシフェル様の為にお姉様を連れ戻しに来たんだよ。だからこの人邪魔だから消すね」
なんなんだ、この子供は。抱きつかれただけで体がピクリとも動かない。
後ろで見ている妹も状況を飲み込めずにあたふたしている
「レヴィ落ち着け…分かっているよね?私の魔王様に手を出したら…どうなるか」
「うん。分かってるよ。ボク確実に殺されるよね。でもね、ボクはお姉様に殺されるならいいんだよ。それにね、この人が死んだら、お姉様はルシフェル様の元に帰るよね?だったらそれでいいと思うんだ」
「ちょっと待てぇぇぇ!とりあえず落ち着けお前ら!なんなの?知り合い?」
「魔王様、こいつはレヴィ。レヴィアタンという海の悪魔です。私の子供の頃からの幼なじみです」
「そういう事。まさか君がお姉様の魔王様だったなんて、思いもしなかったけどね。本当にお腹が空いてたから頼ったんだけど、ボクってツイてる?」
「とりあえず離してくれるか?話をしよう。な?」
「嫌だよ。ボクはここで君を殺す。たぶんそうすればボクは死ぬだろうけど、お姉様はルシフェル様の元に帰るはずだから。ルシフェル様が喜ぶならボクは本望だよ」
「……レヴィ。本当にやめて……お願いだから…」
「お姉様……」
リリスが土下座をする。この少年はそこまでしてルシフェルとやらを喜ばせたいのだろうか
自分が死ぬ事を分かっていても
これが眷属になった悪魔の使命なのか
「お姉様…顔上げてください。」
「え?それじゃあ…諦めてくれ……」
「それは無理です」
そして、豪快な音が鳴り、背骨が折れた。
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"っっっ!よくもぉぉぉぉ!絶対に許さない!」
泣き叫びながら少年に襲いかかるリリス
妹も泣いている。
てか…
なんで、俺生きてるんだ?
「お姉様……どうぞ、殺してください」
「待てリリス!」
その瞬間リリスの動きが止まる
「俺…生きてる」
「んなっ!そんなはず!ボクは確かに背骨を粉砕したはず。生きてられるわけないのに」
「ま、魔王様……魔王様ぁぁぁぁぁ!うわあぁぁぁぁぁぁん」
「何故だ…何故生きてられる?ボクは…」
確かに背骨を折られた感覚はあった。視界も暗くなった。けど、感覚的に骨が治っていくのも感じた。
「まさか……サタン様の力が受け継がれているのですか?そう言えば昔から怪我をしてもピンピンしてると言ってましたが…その頃から…」
「サタン様の力って、あの不死鳥の力!?まさか…これじゃあボク…無駄死にじゃないか…」
リリスはゆっくりと少年に近づく。
「レヴィ…あんたとは昔からの付き合いだ。せめて苦しまないように殺してやる」
リリスは羽と尻尾を出して、腕を大きく振りかぶる
「待てリリス!」
振りかぶった腕は寸止めの状態で止まる
「……魔王様?」
「殺すな。命令だ。お前の大切な幼なじみなんだろ?殺す必要がどこにある?それに俺…ほら、ピンピンしてるだろ?」
「ですが魔王様、こいつは魔王様を殺そうとしました。またいつ狙われるか」
「だったらその時また考えればいいさ。ほら、飯にしよーぜ。腹減った。遥、飯早く頼むぜ」
「兄さん、私もビックリしてるんだからね!?死んだかと思って怖かったんだから!」
「…魔王様…なんて心の広い方なのだろう…。レヴィ…今日の所は魔王様に免じて許してやる。私の気が変わる前にここから出ていけ、そして二度とここに来るな」
「お姉様…」
「ん?何やってんだー?リリス。早く来いよー。それに、レヴィだっけ?お前も腹減ってるんだろ?飯今作ってるから待ってろよー」
リビングから玄関にいる二人に声を掛ける
「…作ってるの私なんだけどな…。はぁ」
「お姉様……この人…ボクが殺らなくてもすぐ死にそうだよ?守れるの?」
「守るよ。だって、私がいるから。レヴィ、いこっ!」
レヴィを連れてくるリリスの顔を少し笑っていた