私の魔王様
耳障りな音が鳴る。
それと同時にカーテンの隙間から照らす太陽の光が朝を告げた。
「……ねみぃ」
上半身を起こし、目を擦りながら言う。
アラームを止め、少しボーッとしていると、慌ただしい足音が廊下に響き渡る。
そして、俺の部屋のドアが豪快に開かれた
「兄さん!朝だよ!ご・は・ん!学校遅れるから早くね!」
用件だけ済ますと、またドアを豪快に閉め出て行った。
あれは俺の妹だ。両親のいない俺達は二階建ての一軒家に二人で暮らしている。
朝食は妹の仕事で、毎朝頑張ってくれている。
部屋を出て1階にあるリビングへ向かった
「おはよう、遥。いつも朝食ありがとな!それとドアはゆっくり開けて、そして閉めてくれ……壊れる」
「兄さんが起きるの遅いからだよ!アラーム鳴らすの遅すぎ!もう少し早く起きないと」
朝から妹に怒られる。これも毎日の事。
妹の作った朝ごはんを食べて、これから学校へ向かう。
妹は既に制服に着替えていたので、一旦自室に戻り、制服に着替える。
「着替えるのも遅ーい!」
玄関前で待っててくれている妹に怒られる。
妹よ…兄を大事にしてくれ
「待たせた、それじゃあ行こうか」
俺と妹の登下校は毎日一緒。
今日もいつものように玄関のドアを開ける
目の前に広がるいつもの光景。
その下には一人の女性がボロボロになって倒れていた。
「ちょっ!ええっ!?だ、大丈夫?」
かろうじて意識はあるようで、手を伸ばしながら、ゆっくりと話す
「………ま、まおう…さま。やっと…会えました」
どうやら頭は無事ではなかったようだ。訳の分からないことを言っている。
何故だろう、急にいつもの日常がぶっ壊れた。
「兄さん…とりあえず部屋に入れてあげようよ。この人辛そう…」
「そ、そうだな。俺が連れてくから遥は何か飲み物持ってきてくれ」
倒れていた少女を抱えて、リビングへ連れていく。
もう学校には遅刻確定だけど、そんな事気にしてる場合ではないだろう
椅子に座らせて、落ち着かせる。
妹の持ってきたお茶を飲ませ、様子を見る
「……はぁはぁ。助かりました。ありがとうございます。魔王様に助けて頂くなんて、私もまだまだ未熟者ですね」
「………えっと。何言ってんの?」
魔王様?俺の事を言っているのか?もしかして俺達変な人助けちゃったのか?
「兄さん…病院連れてった方がいいんじゃない?…いろんな意味で」
「いえ!そこまでしていただかなくても大丈夫です!私のような眷属にそこまで…」
「いや、お前さっきから何言ってんの?魔王様やら眷属やら……魔王様って俺の事言ってるのか?」
「もしかして…自覚がないのでしょうか?生まれた時から人間界にいたら流石に分からないのも仕方ないですね。魔王様の人間界でのお名前はなんでしょうか?」
人助けはいい事なのだろうけど、なんだか少し怖くなってきた。
「俺の名前?氷上 優理斗だけど」
「ユリト様ですね。私は悪魔リリス。魔王サタン様の眷属であり、サタン様亡き現在、サタン様の実子であるユリト様にお仕えするために人間界へやってまいりました。この命、魔王ユリト様のためにお使いください!」
「兄さん…この人何言ってるの?私には分からないんだけど…」
「遥…安心してくれ、俺も分かってない。ただこの人の名前はリリスと言って、日本人ではなさそうだが…」
魔王サタンとはよく聞く名前だけど、その実子が俺なのだろうか、もしそうだとしたらなかなかカッコイイのでは?
「それよりさ、リリスだっけ?お前はなんでこんなにボロボロの格好で、うちの玄関前に倒れていたんだ?」
「……追っ手に追われていました。私を捕まえようとしているルシフェルの手下共に…。私は必死に逃げて、ようやくここまでたどり着いたのですが、後一歩のところで力尽きてしまいました」
また新しい名前が出てきた。
「ルシフェルってルシファーの事だよな?それってサタンの別名かなにかじゃないのか?」
「ルシフェルはサタン様の実の弟です。自らが魔王になる為にサタン様を殺しました。私はそのルシフェルを殺すために生きて、ユリト様と共に敵を取るのです!」
「なるほどね…だいたい分かってきた。けど、俺取らねぇよ?敵。お前の言ってる事ちょっとは信じてやるけどさ、それって結構リスク高いし、危ないじゃん」
「その為に私がいるのです!ユリト様には指一本触れさせやしません!」
「でも前の魔王様は殺られたんだろ?大丈夫なのか?」
たぶん確信を突いた。
「うぐっ……そ、それは…言わないで下さい……。サタン様を守れなかったのは私の一生の恥です。だから!ユリト様を絶対に守ると決めました!」
なんだか反応が可愛かった。
そんな俺達を見るもう一人の目
「あのさぁ、盛り上がってる所悪いんだけど、私は信じてないよ!兄さんが魔王様?そんな事あるわけないじゃん!私と兄さんは人間なの!変な事言わないでよ!」
「貴女はユリト様の妹君ですね。先程ユリト様が呼んでいた…ハルカ様でよろしいでしょうか?」
「……なんか、様付けされるのって……悪くない……かも」
おい!単純な奴だなお前
「じゃあさ、遥にお前が悪魔だって言う証拠を見せてやってくれよ、俺もお前を信じるけど、完璧にはまだ信じられてないし。それくらいできるだろ?」
「私が悪魔である証拠ですか…。これならどうですか?」
少し考えた後、履いていたスカートを少し上げた
「ちょっ!何してっ……」
そのスカートの後ろから人間には有り得ない、黒いヒョロヒョロとした物がでてきた。
「これが悪魔である証拠です……ダメですか?」
フリフリと尻尾を動かすリリス。確かに悪魔らしい
「可愛い!なにそれ!触ってもいい?いいよね!」
「あっ…ちょっ、ハルカ様!だ、ダメです…」
フリフリとした尻尾に食いつく遥。触ろうとした遥にリリスが嫌がる
しかし、既に遅かった。
尻尾は遥によって握られていた
「わぁ!凄い!凄いよこれ!もふもふしてて可愛い」
「……んっ……くっ……だ、だめですぅ……。ハ、ハルカ様…やめてください…私…尻尾は弱くて…握られると…敏感で…頭がおかしくなりそう」
そんな事はお構いなしに触り続ける遥と喘ぐリリス
朝から興奮させてくれる。
「えへへ、凄く気持ちよかったよ!また触らせてね!」
ニッコリと微笑む遥。
リリスはまだ呂律が回らないほどふらふらしている。
少し、時間が経った。
今日は学校を休む事にした。
今更行ったところで遅刻なのは確定しているからな
「ふぅ……。なんとか、落ち着きました。ハルカ様、私は尻尾が弱いので…その加減してください」
「ごめんね!リリス。でもこれで私は信じたよ!」
「ありがとうございます!…これからよろしくお願いしますね!私の魔王様」