セイレーン
「兄さ〜ん!菜月さんが見当たらないの…何処にも居なかった」
姫咲さんを探しに行ってくれていた遥が帰ってきた。
人の多いこの場所で姫咲さんを探し出すのは難しいだろう。
「レヴィも何処か行ってしまったし…はぁ、どうすんだよ」
「すみません魔王様。私が責任を持って菜月さんとレヴィを探してきます」
「リリスが責任を負う必要はねぇよ。みんなで行こう。その方がいい。10分後にまたここに集合しよう」
三人で手分けして探そうとした、その時だった。
けたたましい音が海全体に鳴り響く。
『只今、遊泳エリア内に鮫の群れを確認致しました。直ちに遊泳を止め、陸に上がってください。繰り返しますーーー』
「嘘だろ!?鮫の群れってなんだよ!」
「兄さん早く探さないと!やばいよ!」
「いや、流石に泳いではないだろうけど……」
とても人を探せる状況ではない。皆、海から浜へと走り、人でごった返している。
そもそも、こんな所に鮫の群れが来る事なんてあるのだろうか?
「おい、あそこ誰かまだ海にいるぞ!」
皆が避難した。そう思っていた時、一人の男性が指を指し、言う
海の奥の方、確かに一人いた。バナナボートに乗っている
辺りにいた人々がざわつき始める。
「ま、魔王様、大変です!!」
「な、なんだよリリス…急にどうした!?」
「あの取り残されてる人、菜月さんです…」
「嘘だろ、なんで戻ってこないんだよ!」
「もしかして警報が聞こえてなかったのかも…どうするの?兄さん!」
ライフセーバーが助けに行ってくれるだろうが、そんな時間はなさそうだ。
「わ、私が飛んで行けば助けられます!」
「ダメだ!それだけはダメだ…そんな事をしたらまた迫害されるだけだぞ」
「しかし、菜月さんが…。それに、私は大丈夫です…迫害されても、何されても…魔王様さえ居てくれれば、私はそれだけで大丈夫です」
「いや!ダメだ。リリスが良くても俺が許さん。もう二度とリリスとレヴィに辛い思いはして欲しくない…。俺が泳いで行く!」
「そんな!ダメだよ兄さん!」
「それでは魔王様が危険です!」
二人して一斉に反対される。
それでも、海へ歩く足は止めなかった
「君!どこに行くんだ!危ないから下がってなさい!」
しかし、俺の足はライフセーバーの人に止められる
「どけぇ!俺の大事な人なんだ!俺が助けるんだ!」
怒鳴り声を上げ、必死に藻掻く
数名のライフセーバーに捕まり、何も出来なかった
「魔王様…。もう、私が行くしか」
ーー姫咲サイドーー
「はぁ…私ダメだなー。レヴィちゃんと仲良くなりたいのに…」
必死に作ったお弁当を投げ捨てられ、ショックだった。
その上、逃げちゃうなんて、私らしくないよね
氷上君にも、リリスちゃんにも気分悪くさせちゃったかな…後で謝らないと
「バナナボート、楽しいなー。みんなで乗ったらもっと楽しいんだろうな…。………あれ?」
なんだろう、この雰囲気。嫌な感じがする。
辺りに誰もいない。いつの間にか私、結構遠くまで来ちゃってたみたい
「も、戻らないと」
しかし、オールがなかった。
「な、なんで!?オールが…折れてる…」
何かいる!?私の下に何か…それも沢山
その何かにオールを折られた!?
「ど、どうしよ、戻れないよ…怖いよ……誰か…助けてぇ……!!」
その時、遠くから声が聞こえた
「どけぇ!俺の大事な人なんだ!俺が助けるんだ!」
「氷上君!?…大事な人って……と、友達として、だよね…私なんかが…ね。でも、そんな事したら氷上君が危ない…」
助けてほしい……けど、そんな事したら氷上君が危ない。たぶん、ライフセーバーの人が来てくれる。
「フフフフ……安心して、あんたは囮よ、あの男を殺るための」
「誰!?誰かいるの!?」
「居るだろうねぇ。この状況を作り出したのは私なんだから。私はセイレーン、聞いたことくらいあるよね?人間ちゃん」
「セイレーン…確か船乗り達を襲うっていう」
「せいかーい!けど、今回は違うよ。私の声は生物を自在に操れる…その力で、今あなたの下には数十匹のサメが遊泳してるわ」
「そんな……なんでそんな酷いことするの!?」
「え?そこ?普通セイレーンとかが居ることに疑問持たない?」
「私、大体わかってるもん!リリスちゃんもレヴィちゃんも…氷上君だって……人間じゃないんだよね?会話聞いてたら大体わかるよ」
「そ、そうなんだ…へ、へぇー。まぁいいや、とにかくここでじっとしててね?そしたら生かしてあげるから」
ーー氷上サイドーー
「リリスちゃん、ダメだよ。兄さんがダメだって言ったでしょ?」
「しかしハルカ様!それでは菜月さんが」
「大丈夫、ほら、今ライフセーバーの人達が動き出した。もう大丈夫だよ」
「離せぇ!俺が助けるんだ…」
姫咲さんを助けたい。その気持ちでいっぱいだった
もうライフセーバーの人が動いてるのはわかってる。けど、何か嫌な予感がする
その予感は的中した。
ライフセーバーの乗った船が沈んでいく
「そんな……どうして!?」
「誰かいるのかも知れません…ルシフェルの差し出した悪魔が」
「くそっ!なんなんだよ!」
船が沈んでいく。俺は何も出来ない
絶望的だった。もう打つ手がない。
「俺が俺がって……うるさいよ。何も出来ない癖に…。邪魔だから引っ込んでて」
「ちょっと!危ないから海に近づかないで!」
「うるさい黙って!ボクに指図するな!人間!…海でボクに逆らう事はできないよ!」