お弁当
「…………」
「ねぇ、レヴィちゃん、元気だしなよ。ほら、泳ご!気持ちいいよ」
ビーチパラソルの日陰に座るレヴィを宥める姫咲さん
「……うるさい。どっかいってよ…」
その姫咲さんにキツイ言葉で言い返す。
「レヴィちゃんの気持ち、私も分かるよ。私も海が好きだし、汚されたら嫌だもん。だからレヴィちゃんが悪い事したなんて私思ってないからね?」
「何が言いたいの?ボクと仲良くなりたいとか思ってるわけ?残念だけどボクは人間なんかと仲良くするつもりないし、ボクの気持ち分かった気でいないでよ……何も知らないくせに」
「……あっ……ごめんね。そんなつもりじゃ…」
「分かったらどっか行ってよ」
「……うん。ごめんね、レヴィちゃん。……でも!私の海が好きって気持ちは本当だからね!それだけは……信じてほしいな……。えっと、それじゃあ泳ぎに行ってくるね、レヴィちゃんも落ち着いたら一緒に遊ぼうね!」
ポジティブな姫咲さんはレヴィに酷い事を言われても気にもせずに居た。
「……姫咲の海が好きな気持ちくらい読み通せるよ……バカ」
場面は変わり、海で遊ぶ氷上兄妹。
「くらえ兄さん!」
海水を飛ばす遥
「ぅわっ!……よくもやりやがったな!お返しだ!」
それに対して、手に溜め込んでいたワカメを投げつける。
「キャッ!な、なにこれ、気持ち悪い〜」
「へへへっ、これぞ、秘技ワカメボールだ!思い知ったか!」
「なにそれ、ダサいよ兄さん」
「う、うるせぇ!今適当に考えたんだバカ」
海の中で遊ぶ。そもそも妹とここまで必死に遊んだのは何年ぶりなのだろうか、もしかしたら初めてかもしれない
「リリスちゃんも遊ぼうよ〜」
「いえ、ハルカ様。お気持ちはありがたいのですが、私にはお二人の身の安全を守らなければいけませんので…」
せっかく海に来たというのに、浜辺で、俺達を監視しているだけ
そんなつまらない事をリリスは使命だといい、止めようとしなかった。
「なーに言ってるの?リリスちゃん!ほらほら、行くよ」
「わあっ!な、菜月さん!?や、やめてください、私には魔王様とハルカ様に危険が及ばないか監視している必要があるのです」
断るリリスを強引に海へと連れ込む姫咲さん
姫咲さんとこんなに楽しく遊べる日が来るなんて、想像もしていなかった。
これもリリスのお陰だし、今度何かお礼をしなくてはな
「リリス、今は楽しめ!せっかく海に遊びに来てるのに勿体無いだろ?な?」
「ま、魔王様がそう言うのであれば…わかりました。私全力で楽しませていただきます!」
「リリスちゃん、こっち見て!」
「なんですか?菜月さ…」
「えいっ!」
「キャッ!…菜月さん!?これは一体なんですか!?」
「氷上くんの秘技ワカメボールだよ」
姫咲さんに聞かれていた。ダサい名前を…最悪だ。
頭や肩にワカメを乗せたリリスを見て笑う。
リリスは海に潜り、体に付いたワカメを流すと、反撃と言わんばかりに海水を投げかけてきた。
「魔王様にも容赦しませんよ!えいっ!」
レヴィを除く、四人で海を満喫する。
楽しい時間が経つのはとても早かった。
気がつけば時刻はお昼過ぎ
疲れ果てた俺達は一旦レヴィの居るビーチパラソルに戻る
「ただいま、レヴィちゃん!」
元気に笑う姫咲さんに対してレヴィは何も言わない」
それでもめげない姫咲さんを俺は尊敬する。
「あ、私お弁当作ってきたんだけど、食べる?」
「まじで!?食べたい!」
姫咲さんの手作り弁当。絶対に美味しいに決まっている
カバンから取り出したお弁当は全員分あった。
「はい、これ氷上くんのね。で、これが遥ちゃんので、これがリリスちゃんの……そして、レヴィちゃんのもあるよ!」
自分の分も合わせて五人分のお弁当を作るとは、一体何時に起きたんだろう
弁当箱を開けると、これまた可愛らしいおかずだった。
定番の卵焼きにウインナーなど、どれも美味しくて涙がでそうだ。
「めちゃくちゃ美味しいよ!姫咲さん、ありがとう!」
「美味しい?ほんと!?よかったぁ〜。とても不安だったんだよ…。えへへ、こちらこそ、どういたしまして、だよ」
しかし、そんな中一人だけ。レヴィだけお弁当を食べていなかった。
それどころか開けてすらなかった。
「どうしたの?何か嫌いなもの入ってた?ごめんね?」
「………なんでボクが人間が作った物を食べなきゃいけないんだよ!こんなものいらないっ!」
そう言って弁当箱を砂浜に投げつけた
弁当箱の中身が飛び出し、散乱した。
「ちょっ!レヴィてめぇ!何してんだ!せっかく作ってくれたんだぞ!謝れ!」
「い、いいよ別に、私は気にしてないから」
「ボクに指図するな!主でもないくせに!」
初めてだった。初めて女の子を殴った。
「ふざけんなよ、レヴィ…。姫咲さんが朝早くから作ってくれた弁当を台無しにしておいて何が指図するなだ!」
「もうやめて!氷上くんもレヴィちゃんも……私ほんとに気にしてないから…お願いだからやめてよ…」
涙を浮かべる姫咲さんを見て、レヴィの胸ぐらを掴むのを止めた。
「レヴィ、後で私と話するよ。反省するまで、許さないから」
リリスも同様に怒りを露わにしていた。
「ごめんね、レヴィちゃん…。私の勝手で…」
散乱したおかずを集めながら謝る姫咲さん
そんな姫咲さんにレヴィは信じられない事を言う
「海が好きなんだよね?ボクも好きなんだ海。だからさ、あんたの作った弁当で汚れちゃったから掃除してよね」
「………」
姫咲さんは、何も言わずに海の方へ走って行ってしまった。
お弁当は散らばったまま。
その姫咲さんの目からは涙が零れていた。