106話
シュナリが来たあとにチユが到着。
「お待たせしました」
「よし、騎竜車だぞ。早く乗ってくれ」
「さすがに王都。騎竜車も豪華な感じする」
騎竜車を見た感想をこぼしつつ乗った。
次にトカチが到着。
王都からの騎竜車は二台あり、もう一台はナッツの護送用である。
護送用なので衛兵の方も一緒であり、メンバーが揃うと近くに来た。
「進さんですか、お乗りな方は集まりましたか?」
「はい、俺とシュナリ、チユ、トカチの四人集まりましたので出発して下さい」
「ト、トカチ! トカチてあのトカチ盗賊団のでしょうか?」
トカチと聞いて衝撃を受けたようだ。
俺も不味いかなとは思ったが、反応は凄く思った以上であった。
やはり置いていきたいが、もう無理だろう。
ここまで来て置いていくのは本人が怒り出すだろうから、なんとか衛兵の方には納得してもらうしかない。
「あのトカチですが、今は俺の言うことを聞きますから心配は要りません」
「……。どうやって言うことを聞かせるのですか。信じられないので」
反応は悪かった。
衛兵の人の顔には明らかに嫌悪感。
なんとか説得しなければ。
「置いていくと言ったら、暴れる可能性もある。連れて行くのがベストなんだ」
「……わかりました。進さんがトカチを監視して下さい。我々の手には追えませんから」
「絶対に監視します」
「だがムト国王が何と言うのかが問題。トカチを王都コーラルへ近づけるのは余りにも危険ですから、入る前に許可を得て下さい。さもないと警報発令が発せられる可能性もあります。それくらいの危険度な扱いなので」
「そんなに危険度高いっすか?」
「高いです。猛獣を放つのと一緒でしょう」
「猛獣ね……」
本人が聞いたらここで暴れるのではないか。
このことは黙っておこう。
「これから王都コーラルへ向かいます。途中魔物に遭遇しても我々が対処します。ゆっくり休んで下さい」
国王軍のもとで騎竜車は出発することに。
アヤカタも見送りに来てくれた。
出発をすると砂の路面を思ったよりも快適に走り出した。
快適に思われたのは俺の早とちりとわかったのは、直ぐのことだった。
シュナリがどうにも落ち着かない様子だからだ。
なにか不満を抱えているのだが、それを腹に詰めて今にも爆発させそうな感じといったらいいだろう。
一度本人に事情を尋ねてみてる。
「あのー、シュナリさん、何だか気分でも悪いのかな?」
「最悪です」
はっきりと言い切った顔には不吉な予感さえ感じさせる。
聞かない方が賢明だった。
「さ、最悪ですか、まさか理由はトカチですかな?」
「大正解。どうしてトカチが一緒なの。まさか来るとは知らなかったし行く必要ないですよ」
「新しく人狼の国を作ったし、その件でムト国王に知っておいてもらおうとしてね」
「それにしても私は聞いてませんでしたけど」
どうにもシュナリはトカチが居るのが気に入らない。
俺を独り占めしたいシュナリには嫁の存在が嫌なようだ。
ぷんぷんと口を膨らませて怒っていた。
「あらシュナリさん、私は進君の正式な嫁なの。同行するのは当然よ。なぜそんなにプンプンしてるのよ?」
「だってだって……」
「私が嫁になったのを認めたくないのですね」
「み、み、認めません。ご主人様にはふさわしくないと思う!」
「ふさわしいとは何のことですかね。アレのことかな?」
アレとか言い出したので少々不安な気持ちになってきた。
トカチと昨日の晩は二人きりで寝てしまった。
まさか、それをこの場で披露するなんてまねしないかと、騎竜車内でドキドキしてきた。
「アレ……。何のこと。よくわからないんだけどさ」
「進君はベッドで傷の回復をしていたでしょ、それは知ってるわよね。私は進君の上……」
待ってくれトカチ、それ以上言ったら不味いことになる。
慌てて言葉を遮る形で話題をかえようとした。
「み、み、見てみなよ外を! 魔物がいるぜ!」
「えっ、どこどこ……」
チユが外をのぞき込む。
「どこにも居ないような……」
シュナリも探すが見つからない様子だ。
見つからないのは当然なのであって、俺のでまかせなのだから。
トカチの会話を遮るためにした行為。
魔物など一度も見てないのであった。
だがトカチは完全に俺の策にハマったようだ。
話の途中で外を見出していたから。
「ご主人様、本当に見たの?」
「ああ見たとは思うんだけどなぁ……」
誤魔化すようにして会話の話題を変えられてホッとした。
王都コーラルに着くまでは、ベッドの件は内密にしたいのが俺の立場なのだった。
でもこれで話しは変わり、シュナリにはバレずに済む。
よし、と俺は小さくガッツポーズをした。
「まぁ、いなければいいに決まってる。どんな魔物がいるのかもわからないから外を見張るのは大事。でももっと大事なこともある。進はベッドで傷の回復をしていたそうだが、トカチはどこに居たのかな。アレをしていたなんて……まさか進の嫁として初めての……」
せっかく切り抜けれると思った矢先にチユが発言した。
なぜ今ここでそこに触れる発言するかな!
この発言を聞いたらシュナリは俺がトカチとベッドで何やら嫁とすることをしていたと思うに決まってる。
不味いよな、この展開は。
「えっと……。ご主人様、嫁の初めてすることといいますと……。トカチと一緒に寝た!!」
シュナリは遂に俺の浮気ともいえる行動に感付いた。
動きだけでなく感も鋭いんだな。
シュナリとは婚姻しているわけではないけど、すでに婚姻している以上の仲とも言えた。
もはや嫁と同等の位置である。
シュナリもその様な位置にあると思ってるのだ。
だからトカチの夜の行為を追求してきたと思っていい。
ああ、トカチひとり増えて面倒くさくなったぞ。
「いやあ、シュナリさん、そんなに大きな声は止めましょう。騎竜もびっくりしちゃうからさ……」
「だってこれが黙ってられますかっての、はっきり言って下さい。トカチと夜にしたのかどうか!!!」
シュナリは更に声のトーンを上げる。
目が完全に俺を疑ってる目であった。
どう説明したらこのピンチを乗り越えられる。
考えたがそれは不可能だとわかった。
なにしろ寝てしまったのは事実なのだし、してしまったその本人がここに居る。
言い訳しようにも無理がある。
いや、この状況を切り抜けられたら天才だ。
「し、し、し、しまし……たかな?」
「やっぱり!!!!!」
シュナリがもう一段階声を張り上げた。
張り上げただけで終われば良かった。
それプラス車内で腰掛けていてから立ち上がり言ったのだ。
衝撃が床からドシンと伝わって来た。
びっくりしたのは言うまでもない。
チユとトカチもびっくりしていたほどだ。
その結果車内から外で必至に走っていた騎竜にも伝わっていた。
騎竜は驚いたようでヒーンと悲鳴を上げた。
騎竜車はその影響を受けると大きく揺れ動く。
路面が砂だけにちょっとの揺れも大きく揺れてしまうのだ。
「うわあー」
車内の中は混乱したのは明らかであった。




