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92話 進の評価

 進がアヤカタとコーヒーを飲んでいる頃、トカチは部屋に居て座っていた。

 前には側近であるヨールとギュウの二人が座ってトカチの話を聞いていて、他は誰も居ない。


「ここに呼んだのはチユの件であるが、進とシュナリについてだ。お前達二人から見て何か思ったことはあるか?」


 トカチが確かめるようにして言った。

 側近二人を前にしても仮面や鎧は装着したままである。

 どこに敵が居るかわからないのだと聞かされていた。


「進に関しては見たところ大した戦力にはならないと思えました。剣の技量、体の受けこなし、どれを取っても素人の冒険者でしょう」


 ヨールは決闘を見てひとつ気になっていたが、あの場では言えずにいたため今トカチに言ったのだった。

 ごく普通。

 何の取り柄もない冒険者と判断した。


「進は本当にブロンズ騎士団の冒険者なのでしょうかな。胸には紋章を付けているが、とてもブロンズには見えなかった。レベルだって一ケタでしたし」


 ギュウもまた進がブロンズなのを疑問に思っていた。

 シュナリとの決闘での剣技を見定めて、不思議に思えた。

 自分なら一撃で殺せる相手だと。

 見るべき物はなかった。


「進は嘘をついてブロンズだという理由はなかろう。次から迷宮に行く際にサラクイに任せておけば良い。迷宮で死んでも構わない。それよりもう一人のシュナリは使えそうだからヨールの配下にする」


「進は放っておきます。シュナリに関しましてはまだ若いのに体術に優れていて、見ていて楽しめる素質がありました。鍛えれば戦力になるかと思います」


「うむ、時間がある時は剣技の訓練を行ってやれ。まだまだ伸びしろがあるのは間違いない」


 トカチはシュナリを高く評価していた。

 それ故ヨールの軍にシュナリを加えさせて迷宮にいかせようとしていた。


「チユはいかがしましょう。迷宮に連れて行きますか?」


 ギュウがチユの扱いについてトカチに尋ねた。

 以前は後方での回復要員として迷宮に行っていたが、今のチユには信用がおけない。

 判断をトカチに仰いだ。

 

「チユは一度裏切ったことに間違いない娘だ。しかし回復魔法の使い手は貴重な存在なだけに必要だ。また逃げ出す可能性もあるので、我が家屋の牢獄に閉じ込めておけ」


「即座に牢獄に放り込んで置きます、ご安心を」


 ギュウはトカチの命令を受けて嬉しく思った。

 尊敬するトカチに何とか認められたいという気持ちからである。

 なのでチユを牢獄へ打ち込むのに、何のためらいもなかった。

 進に関してはサラクイに任せておけば良いと思った。

 どうせ次の迷宮で死ぬだろうと。


 ヨールとギュウは話を終えて部屋を後にした。

 緊張感で手に汗をかいていた。

 それほどまでに二人にとって偉大な団長であり、命令は完全にこなす自信もあった。

 

「明日の迷宮の件は決まったな。討伐すればトカチ様はお喜びになられる」


 ギュウが歩きながら思いを込めた。


「情報では次の迷宮の魔石は大変重要な魔石だと。その魔石を持つものは魔力量が10%アップする特殊な魔石だということだから、確実にボスを倒すぞ」


「そのつもりだ。進とか言う者はどうするかな」


「サラクイが面倒みるだろうよ」


 ヨールも進には何の興味を持っていなかった。

 討伐隊に居ようが居まいが無視して行くつもりである。

 そこから別れると、それぞれの部隊を訓練しにいった。


 

 シュナリはその頃部屋に待機させられていた。

 そこに呼び出しがかかった。

 

「シュナリよ、剣の訓練があるから訓練場に来い」


「はい今行きます」


 呼び出しを受けたので慌てて駆け寄る。

 進と別れて不安な時間を過ごしていた。

 今頃はご主人様はどこにいるのかと心配する。

 よくわからないまま町に来て、進と決闘までして傷までつけたことに思い悩んでいたのだった。

 もしかしたら、見捨てられるとまで考えるようになる。

 今頃はどこに居るのか情報は無い。

 ただ進を信じていくしかなく、信じていれば必ずや再開の日が来ることを待ちわびた。

 訓練場に着くとヨールが居る。

 その前には他の団員が立っていて遅れてシュナリも加わった。


「明日の迷宮に行く前に訓練を開始する。二人で組み合って訓練を始めろっ」


「はいっ」


 団員であるヨールの部下はいっせいに返事をして武器を作り互いに訓練しだした。

 シュナリの相手はガタイのいい男であった。

 名のある盗賊団だけあって訓練も怠らないのだと感心した。

 しかも訓練に対する厳しさは違った。

 

「お前の相手は俺だ。女でも手加減はしねぇ」


「わかりました」


 シュナリは短剣を作り、目の前の男と組み手を始めた。

 予想してはいたが明らかに相手の方が上手で、叶う相手ではなかった。

 悔しいが歯が立たない。

 恐怖を感じた。

 この男に殺されるのではという恐怖を。

 目がマジである。

 誤って殺してしまったと言えば済むのなら、本気でのぞまなければ死が待っている。

 全てを出し切るつもりで挑むことにした。

 

「なんだ、この程度でトカチ様から認められたとは。笑ってしまうぜ」


「……」


 何も言い返せない。

 倒されて手を着いた。

 殺す気かがあるとシュナリには伝わってきた。

 間違いなくこの場で殺す気だと。

 だが相手の力がひとつ抜けていた。

 残念ながら逆転できそうにない。

 進との再開は消えた。

 もう終わったと思った時だった。


「これから今日最後の訓練をする。全員で私を倒しに来い。遠慮要らない。倒した者にはトカチ様に報告しておいてやる。そうすれば隊長くらいには任命されるぞ。さぁ来い!」


 組み手の訓練を終える合図であった。

 助かったとシュナリは安堵した。

 しかしヨールが飛んでもない事を言ってのけた。

 いくらなんでも部下は20人は居た。

 それを一度に相手にするなど到底無理だ。

 部下は言われると一丸となってヨールに襲いかかる。

 恐らくは全員がシュナリよりも上の実力者が、飛びかかる。

 どんなに屈強な剣士でも腕の数で圧倒的な不利である。

 40本以上の腕があるのだ。

 剣の数で勝負はついているはずだと思った。

 しかし結果はシュナリの予想を覆した。

 いとも簡単に20人の部下は蹴散らされたのだ。

 いったいどうやって倒したのかと思えた。

 剣の速度が並大抵ではない。

 ほとんど見えない速度。

 進のバジリスクを連想させた。

 もしヨールが進と戦う時が来たら、勝てる見込みはあるのかと心配になる。

 人間の技とは思えない剣技である。

 進の場合は剣技の凄さと言うよりも剣の凄さ、バジリスクの凄さにおうところが大きい。

 ヨールは剣は何でも良い。

 剣技自体の凄さで進を完全に超えているのは明らか。

 万が一戦う時が来たら、あの剣技を敗れるのかと不安になる。

 そこでヨールが訓練の終了を言い渡した。


「よし、止めろ。訓練は終了するから明日の迷宮まで休め」


「はい」


 シュナリには、かなり厳しい訓練に思えた。

 迷宮に行った時よりもキツく感じた。

 さすがに盗賊団らしいし、ここに居るのも楽ではないと実感する。

 これがトカチ盗賊団の実力かと、改めて思い知った感じであった。 

次回は日曜日に二話分を更新したいです。

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