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85話 クノの町内部

 盗賊団のアジトであるクノの町にたどり着いてみると盗賊団と思われる服装をした、いかにも悪そうな男どもが歩いていた。


 盗賊団は獣人を引き連れて歩いていて、きっと奴隷のように扱っているのだと見てわかるほどだった。


 チユの仲間がこんな扱いを受けているのは腹が立ってきた。

 チユも長年酷いことをさせられてきたのだろう。

 シュナリは納得がいかないようであった。


「ご主人様。ここに来た理由がわかりません。チユは返せばそれで終わりのはずです。なのにトカチ盗賊団のアジトにまで来るなんて」


「それは俺が決断したからさ。チユを引き渡せすことと、チユを隠して暮らすことのふたつの選択肢で悩んでいたよな。そこで第三の選択肢を選んだんだ」


「第三の……」


「チユを盗賊団に引き渡すと思っていただろう。それは正確には違う。盗賊団にはチユは引き渡したことは引き渡した。その後に引き渡したのを理由にトカチ盗賊団にご挨拶に行く。トカチ団長に会って褒められるという風に思わせたのだ」


「思わせたとは、どういう意味ですか。真意は違うということですか」


「サラクイにはそう思わせておいてトカチ盗賊団に潜入する。そしてトカチに接近できる機会が必ず来るはずだ。そこで俺はトカチを討つ」


「えっ!! トカチを討つと。本気ですか?」


「本気に決まってる。トカチを討ちチユは取り戻す、必ずな。俺の第三の話を聞いてどうしたいシュナリ?」


 シュナリは俺が真実を話して、驚いた様子であった。

 真実を知った後は、ここに来た理由がわかったからかスッキリした顔になった。


「その話をしていただき感謝します。私もチユと同じく人狼の血を引いた者ですから、ご主人様とともに戦います」


「生きて帰れる保証はないぞ。それでも戦うか」


「戦います。チユにはこれ以上苦しい思いをさせたくない」


「よし、ならばトカチの団長に会うまではチユを引き渡したという役に徹するんだぞ。決して見破られてはいけない。チャンスはあると思う。その時まで待つんだ」


「はい。サラクイが来ました」


 サラクイは戻ってきた。


「運が良かったなお前ら。団長が会ってくれるそうだ。チユを捕まえたからだそうだ。こっちについて来い」


「はい。ありがとうございます」


 サラクイはクノの町の内部に俺とシュナリを案内した。

 アジトの内部はとても広くて単なる盗賊団の集まりというより、村や町といった規模であった。


 おそらくは数でいうと数百人は住んでいるだろう規模の人。

 半分以上は人狼の人ではあるが。


 服装を見ても人狼の人は汚い服装をしていて、盗賊団は防具を身に着けていて格差は歴然としていた。


 飲食店も通りすがりには多くあり、酒場のようなものもあった。

 時折鋭い視線で俺を監視するようにも感じられた。

 見知らぬ者として見られたのだろうか。


 人狼の男が重たい荷物を運ばされていた。

 食品だろうと思われる物を荷車で引いていて、汗だくになっていた。


 重労働を強いられているのは他にも多くいて、子供の人狼の娘が荷物を落としてしまった時に盗賊団が叱りつけた。

 

「テメェちゃんと働けっ」


「すみません」


 叱りつけられた娘は直ぐに謝ると荷物を拾う。

 まだあどけない顔をしているのにな。


 他にも多くの子供も働かされていたので、可哀想に思えた。

 あんな小さな娘にも叱りつけたりして、嫌悪感が湧いた。


 特にシュナリは同じ民族だけに見るのも辛そうであるが、俺が言ったのを守っていた。

 人狼のチユを引き渡すことによって、人狼族を守る意志はないと思わせた。


 だからここで俺がこの娘を救えば行動に反する行為になるので、助けることは出来ない。

 シュナリもそこは理解してくれていたので、よく我慢してくれていて助かった。


 通りを歩くとひときわ大きな建物が現れた。

 周りには防具を身に着けている者が整列していてサラクイに会うなり深々と頭を下げる。

 それを見ればここが位の高い者が入る建物だとすぐにわかった。

 トカチもこの中に居ると予想して変な汗が垂れてきた。

 

「よいか、決して無礼は禁物だぞ。命が惜しければな」


 サラクイは念を押して気をつけるように言ってきたが、どこまで俺を信じてるのかはわからない。

 すでに俺が裏切ると見切っているのか、それとも気づいていないのか、どちらかはいずれわかる。


「はい。ご忠告ありがとうございます」


 建物は、やはりトカチがいる居住区だった。

 警戒区域に入った感じがして緊張感が上昇していく。

 建物の中も衛兵が常に立っている。

 大広間に到達した。

 

「トカチ様。サラクイです」


「入れ」


 トカチの声なのか。

 サラクイから入れと合図され俺とシュナリも大広間に。

 まず目に入ったのが衛兵が並んでいる、それも数は多くて一瞬では数えられないほど。

 その先には椅子に座った者がいて、頭には兜と鎧を身に着けていて顔も見えない。

 あれがトカチだろう。

 その脇には右と左にひとりずつ兵士がいるが、防具の絢爛さから位の高い衛兵だとわかった。

 

「この者がチユを引き渡した者でして、名前は進と獣人のシュナリと言います」


 サラクイが紹介してくれたので挨拶することにした。


「初めまして!進といいます」


「シュナリといいます」


「そうか、チユを捕らえたのは感謝する。礼を言っておこう。私がこの盗賊団の団長であるトカチだ。今からここで刑を実行する。そこで見ていくがいい」


「はい」


 刑を実行と言っていた。

 何をする気なのか。

 まさかチユに刑を行うということ。

 どんな刑をするのかわからないが、悪い事態である。


 俺の目の前でトカチは見せ物をやろうとしていた。

 まだチユは無事だという証拠であって良かった。

 チユは必ずここから救い出す。

 トカチを斬れば道は開けると信じて。

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