表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/103

83話 結論

「シュナリにチユ。起きて下に来てくれ。話がある」


「はい」


「はい」


 ふたりとも覇気のない返事を返した。

 居間に降りてくると硬い顔つきで椅子に座る。

 服装はさすがに通常の衣服であり、派手な服装ではなかった。

 

「俺が決めるのに異論はないよな」


「ご主人様が決めてください。その判断に従います」


「進に任せる」


「俺は夜通し考えて悩んだあげくに決めた。本当にどうして決めていいかわからなくなって、それでも誰かが決めなくてはならないから、決断したんだ。それを聞いてくれ。俺はチユをトカチ盗賊団の男に差し出しす……」


「えっ!!」


 シュナリは声をあげて俺を見る。

 そんな冷たい目で見ないでくれ。

 俺だって辛いんだよ。


「……」


 チユは覚悟をしていたのか、全く表情を崩すことはない。

 

「ご主人様、チユを差し出すことにしたのですね……。町の人々は犠牲者が出ないで済みますし、大万歳でしょうが、チユは辛い生活が待ってます。チユにとっては厳しいですね」


「俺にとっても厳しいさ。チユは大事な……」


「大事な仲間ですよね。それなのに、それなのに、見捨てるというのですか。何もせずに見殺しにすると。できるのですかっ?」


 シュナリは感情的になって声のトーンを上げ俺に言い聞かせるようにした。


 俺を軽蔑して最低のご主人様とでも言いたい目を向けてくる。

 

「最初に仲間にした時の頃。もし危険になったら見捨てるとシュナリも思っていただろう」


「……。そんなこと、でも今は違います。チユは大事な仲間です」


「では俺の指示をきけないというのか。シュナリだけでチユを一生見守るというのかい?」


「……私が見守ります。必ずチユを守るわ」


「待ってシュナリ。もういいのよ、かばってくれてありがとう。とても嬉しいわ。ここに居れたのはほんの短い時間だったけど、楽しかったわ。感謝してます。だからケンカしないで」


 感情が高ぶるシュナリを落ち着かせるようにしてチユはなだめた。


 そして俺に対してもう迷惑はかけないというふうにメッセージを送ってきた。

 俺はそのメッセージをしっかりと受け止める。

 

「大変です! 進様」


「何かあったか」


 パンナオが勢い良く居間に登場してきた。


「外は大変ですぜ。町中で大騒ぎになっております。チユていう女を探せと。だけどどこにも居ない。洗いざらい探し出すと話し合いが行われてます」


「そうか。じきにここにも来るだろうな」


「行きます。私が男の所に行けば全て解決する話です。ここに来てからでは進やシュナリにも迷惑がかかる。私を隠していたと疑われてしまいます。私がひとりで男の所に行く。それが最善策ですから」


 チユは椅子から立ち上がると、玄関口の方へ向かう。

 その後ろ姿はいつもの元気さは感じられない。

 

「待てよチユ。俺がチユを発見したことにして連れて行く。シュナリも一緒に来い」


「……」


 シュナリは返事はなかったが、俺の指示に従い椅子から立ち上がる。

 

「わかりました。進に捕らえられたという設定にしておきます」


 チユは俺の提案に頷く。

 俺とシュナリで隠れていたチユを捕らえたことにして、連れて行くことで合意した。


 屋敷を出て歩いていくと、町中はパンナオの言う通り騒がしくなっていた。


 チユを探し出さなくては女が拐われるという恐怖からである。

 幸いにもチユの顔は知られてはいないので、すんなりと酒場に到着できた。


 酒場はさびれた感じのする外観で、朝の時間は普段なら開業してないはずだが、今日だけは別のようだ。


 まだ午前中にも関わらず扉には開店中の立て札が出ている。

 

「ここにトカチ盗賊団の男らはチユを待っていると言っていた。おそらくはチユを引き渡せば、この町から去っていくと思う」


「ご主人様。もう一度考え直してくださいませ。チユを男に引き渡せばどうなってしまうかを。逃げ出した獣人をすんなり受け入れるとは思えません。お願いします。引き帰りましょう」


「それは出来ない。俺がチユを渡すと決めたのだ。我慢してくれ」


 シュナリは泣きそうな目で俺を見てきた。

 それでも俺の決意は揺るがなかった。


「チユ。俺はお前をその男に引き渡すぞ。いいな」


「わかってます。ここまで届けてもらい感謝してます。シュナリもお元気で……」


「……」


 シュナリは言葉にならない返事で返した。

 チユにも気持ちは伝わったようであった。

 扉を開けて店内に入ると、テーブルが幾つか並んでいた。


 客は当然ながら居るわけはなく、昨日見た男のサラクイが椅子に座っていた。

 その奥には数人の男もいて、同じく盗賊団らしい。


 目つきで判断できるほどに、悪そうな目つきだ。

 酒をコップで飲んでいる最中なのか、やや顔が赤みを帯びている。

 俺を見るなり言ってきた。


「誰だ。もしやチユを連れて来たのか?」


「連れてきた。ここに居る」


 チユは前に出てサラクイと対面した。

 サラクイは目を凝らしてチユを見ると、顔を知っていたようでニヤッと笑った。

 

「久しぶりだなチユ。迎えに来てやったぜ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ