83話 結論
「シュナリにチユ。起きて下に来てくれ。話がある」
「はい」
「はい」
ふたりとも覇気のない返事を返した。
居間に降りてくると硬い顔つきで椅子に座る。
服装はさすがに通常の衣服であり、派手な服装ではなかった。
「俺が決めるのに異論はないよな」
「ご主人様が決めてください。その判断に従います」
「進に任せる」
「俺は夜通し考えて悩んだあげくに決めた。本当にどうして決めていいかわからなくなって、それでも誰かが決めなくてはならないから、決断したんだ。それを聞いてくれ。俺はチユをトカチ盗賊団の男に差し出しす……」
「えっ!!」
シュナリは声をあげて俺を見る。
そんな冷たい目で見ないでくれ。
俺だって辛いんだよ。
「……」
チユは覚悟をしていたのか、全く表情を崩すことはない。
「ご主人様、チユを差し出すことにしたのですね……。町の人々は犠牲者が出ないで済みますし、大万歳でしょうが、チユは辛い生活が待ってます。チユにとっては厳しいですね」
「俺にとっても厳しいさ。チユは大事な……」
「大事な仲間ですよね。それなのに、それなのに、見捨てるというのですか。何もせずに見殺しにすると。できるのですかっ?」
シュナリは感情的になって声のトーンを上げ俺に言い聞かせるようにした。
俺を軽蔑して最低のご主人様とでも言いたい目を向けてくる。
「最初に仲間にした時の頃。もし危険になったら見捨てるとシュナリも思っていただろう」
「……。そんなこと、でも今は違います。チユは大事な仲間です」
「では俺の指示をきけないというのか。シュナリだけでチユを一生見守るというのかい?」
「……私が見守ります。必ずチユを守るわ」
「待ってシュナリ。もういいのよ、かばってくれてありがとう。とても嬉しいわ。ここに居れたのはほんの短い時間だったけど、楽しかったわ。感謝してます。だからケンカしないで」
感情が高ぶるシュナリを落ち着かせるようにしてチユはなだめた。
そして俺に対してもう迷惑はかけないというふうにメッセージを送ってきた。
俺はそのメッセージをしっかりと受け止める。
「大変です! 進様」
「何かあったか」
パンナオが勢い良く居間に登場してきた。
「外は大変ですぜ。町中で大騒ぎになっております。チユていう女を探せと。だけどどこにも居ない。洗いざらい探し出すと話し合いが行われてます」
「そうか。じきにここにも来るだろうな」
「行きます。私が男の所に行けば全て解決する話です。ここに来てからでは進やシュナリにも迷惑がかかる。私を隠していたと疑われてしまいます。私がひとりで男の所に行く。それが最善策ですから」
チユは椅子から立ち上がると、玄関口の方へ向かう。
その後ろ姿はいつもの元気さは感じられない。
「待てよチユ。俺がチユを発見したことにして連れて行く。シュナリも一緒に来い」
「……」
シュナリは返事はなかったが、俺の指示に従い椅子から立ち上がる。
「わかりました。進に捕らえられたという設定にしておきます」
チユは俺の提案に頷く。
俺とシュナリで隠れていたチユを捕らえたことにして、連れて行くことで合意した。
屋敷を出て歩いていくと、町中はパンナオの言う通り騒がしくなっていた。
チユを探し出さなくては女が拐われるという恐怖からである。
幸いにもチユの顔は知られてはいないので、すんなりと酒場に到着できた。
酒場はさびれた感じのする外観で、朝の時間は普段なら開業してないはずだが、今日だけは別のようだ。
まだ午前中にも関わらず扉には開店中の立て札が出ている。
「ここにトカチ盗賊団の男らはチユを待っていると言っていた。おそらくはチユを引き渡せば、この町から去っていくと思う」
「ご主人様。もう一度考え直してくださいませ。チユを男に引き渡せばどうなってしまうかを。逃げ出した獣人をすんなり受け入れるとは思えません。お願いします。引き帰りましょう」
「それは出来ない。俺がチユを渡すと決めたのだ。我慢してくれ」
シュナリは泣きそうな目で俺を見てきた。
それでも俺の決意は揺るがなかった。
「チユ。俺はお前をその男に引き渡すぞ。いいな」
「わかってます。ここまで届けてもらい感謝してます。シュナリもお元気で……」
「……」
シュナリは言葉にならない返事で返した。
チユにも気持ちは伝わったようであった。
扉を開けて店内に入ると、テーブルが幾つか並んでいた。
客は当然ながら居るわけはなく、昨日見た男のサラクイが椅子に座っていた。
その奥には数人の男もいて、同じく盗賊団らしい。
目つきで判断できるほどに、悪そうな目つきだ。
酒をコップで飲んでいる最中なのか、やや顔が赤みを帯びている。
俺を見るなり言ってきた。
「誰だ。もしやチユを連れて来たのか?」
「連れてきた。ここに居る」
チユは前に出てサラクイと対面した。
サラクイは目を凝らしてチユを見ると、顔を知っていたようでニヤッと笑った。
「久しぶりだなチユ。迎えに来てやったぜ」




