81話 追っ手
通りを歩くと多くの通行人とすれ違う。
なぜか、その男に思えてしまい、キョロキョロと見てしまい逆に俺が怪しい男に思われると思った。
もうかなり歩いてきて、屋敷まであと少しの距離に差し掛かった。
「ここまで来たら、もう大丈夫そうね」
「ええ」
チユは少しだけ不安が消えたように見えた。
その方がいいけど、完全に不安が消えたわけではなさそうだ。
「チユの見間違いってこともあるからな」
「それならいいですけど」
「ネズミとサンドネズミを見間違いってこともあるからね」
「もうっ、それは言わないって約束したでしょ」
シュナリに言い寄り、ちょっと怒る。
無言で歩いて来たので暗い気分であったが、それも打ち解けた印象である。
このまま屋敷に帰れそうだな。
そう思った時に突然、町の中で女性の悲鳴が聞こえた。
「きゃあー」
そこで足を止めてその声の方に振り向いた。
なんだろうか今の声は、嫌な予感がした。
シュナリとチユにも聞こえていたようで、声の方を振り返る。
「聞こえていたよな」
「はい。はっきりと女性の声でした」
「聞こえた……」
「女性から危険なめにあってるのかもしれない、だとしたら無視するわけにはいかない」
助けるのが先決だ。
だが戻ればトカチ盗賊団の男に会う可能性だってある。
その男がトカチ盗賊団かわからないが、わざわざ行く必要はない。
「でも今戻れば男に会うこともあり得ます」
「わかってる。それを承知で行ってくる。シュナリとチユは先に屋敷に帰っていてくれ」
「おひとりにするわけには……」
「心配はいらない。危険は避けるから」
「はい。じゃあチユと帰ります。行くわよチユっ」
「かたじけない、進……」
チユは軽く頭を下げるようにしてお礼をすると、シュナリと一緒に行ってしまう。
この方がいいし、俺は女性がどうなってるのかだけでも確認しに行こう。
来た道を戻ると男が叫んでいて、その周りには人だかりができているのが目に止まった。
騒がしいのが男と関係してるのだと近くに行ってみてわかる。
「いいか俺の言うことをよく聞けっ。この町にチユっていう獣人がいるはずだ。その女を呼んでこい!」
チユっ!
今チユって言ったのは聞き間違いなどではなく、確かにこの耳で聞いた。
やはりこの男は盗賊団。
トカチ盗賊団の一員。
チユの言っていたのは嘘ではなかったのであって、決して勘違いじゃなかった。
屋敷に帰らせて正解だった。
もしここに居たら確実に見つかっていた。
男は女性を捕まえたまま、話していて女性は苦しそうにもがいていた。
酷いな。
ただ男は屈強な体つきをしていて、ひと目で冒険者だろうことはわかり、誰も助けにいけないのだった。
「そのチユって娘は、この町に本当にいるのかい?」
町の人が疑うように男に質問した。
「ああ、居るはずだ。連れて来なければ、どうなるかわかってるな……町の女を連れ去る。連れ去るってのは意味わかるよな。どうなるか?」
女性は話を聞いてゾッとするように顔を引きつった。
「そんなの酷い……」
「酷いか。そう思うなら町の人間を全員集めてチユを探すことだな。さもなくば町の女を連れ去るぜ。いいのか? お前らの妻も同じようにだ。嫌なら従え。逆らえば俺たちトカチ盗賊団に楯突くと受け取るぞっ」
「トカ……トカチ盗賊団!」
いっせいに観衆は声に出した。
それは驚きと諦めにも思えて、ため息まで漏れる。
よほど衝撃的な言葉だったようで、誰も男に逆らおうとする者は出てこない。
要するにヤバイ相手ってことだよな。
普通なら1人くらい逆らって、男に楯突いてもいいのに、誰もしないのは恐怖からだろう。
「どうやら理解したようだな。そうだそれでいい。俺達に逆らう馬鹿な奴らはいない。俺達は仲間も来ていて酒場にいる。今日中に連れてこい。いいな」
男は女性を離すと去っていった。
女性は直ぐに抱きかかえられていたが、恐怖で震えが止まらないでいた。
「トカチが相手だ。もう探すしかないぞ」
「探すったって。顔も知らないのにかよ……」
「町のみんなで探せば、何かわかるかもだ」
「もし……見つからない場合は?」
「終わりだよ。この町は。トカチに狙われたら残酷な結果は避けられない」
「国王軍に応援を要請したらどうだ?」
「馬鹿言うな。それこそ反逆者と見なされて壊滅状態だぞ」
「宿屋を調べよう。ターヤに来たばかりなら宿屋を利用している可能性がある」
「とにかくみんなで、手分けして探そう」
みんな、答えは決まったようだった。
チユを探す目的に決まったのを確認しあい、それぞれが去っていく。
きっとチユがどんな理由があって逃げ出したのかなんて考えてない。
それよりも自分達の命が大事とばかりに。
あれだけいた人々は居なくなってしまい、おばあさんだけになっていて俺に話しかけてきた。
「あんたはまだ若いんだ。早くこの町から逃げなさい。それが一番だよ」
「おばあさんは?」
「私はもうこの歳だ。逃げてもしょうがないさ」
「トカチ盗賊団と戦って勝てる冒険者はいないのですか? 冒険者全員を集めればかなりの戦力になるように思うけど」
「もちろん戦力にはなるが、そんじょそこらの盗賊団とは違うよ。悪いことは言わないから、別の町に移りな」
おばあさんは俺に忠告してトボトボと歩いていく。
シュナリとチユは屋敷に帰ってるだろうか。
無事ならいいが。
俺もこうしてはいられないので、屋敷に急ごう。




