58話 泉
水中にボスが居たらかと聞き俺は足をストップさせる。
「そりゃそうだよな。近くに行って水中からパクリって事もありえるもんな……」
危なかったかもな。
映画でありそうな展開だし、そんな話は映画の中だけにして欲しい。
やや遠目から水の池を覗いてみると、澄んでいるので、深いとこまで透けていた。
「綺麗な水だぞ」
水は綺麗なようだ。
「魔物は泳いでるとか?」
「魔物はいなさそうだが。シュナリもこっちに来てごらん」
シュナリは俺の横まで来ると、そっと水の中を覗いた。
「静かです。魚もいません」
シュナリが言うとチユは安心して近くに寄り見渡す。
この大きな水溜まりが何か意味があるのかも気になるが、魔物もいないのに変だよな。
「このまま見ていても意味ないよな。別の道を探しに行こう」
ここまでの道のり以外に道があるのかも。
「……ちょっと待ってご主人様」
「持って?」
シュナリが俺を引き止めた。
何かしらの理由があってのことだろうか。
「向こうに扉の様な物が見えます」
「えっ。向こうて水溜まりの向こうにかい?」
「はい。向こう側に」
シュナリの言った方向を注意深く見てみた。
こ、、これは……。
「扉にも見えなくもない」
「私も扉だと思うな」
チユも同意した。
俺の目では確実に判別は無理なのは、かなり遠いから。
水溜まりの先となると、50メートルは離れてるだろうか。
ただしシュナリとチユの2人が見えるとなると、高い確率で扉と思っていい。
俺の目など、当てにならないくらいに。
そうなると、なぜ扉があるのかな。
「扉なら……なぜ?」
「……ボス部屋」
「……」
「それしかない」
シュナリがボス部屋と言い、俺も納得するしかない。
わざわざ向こう側に作ったのが、何とも迷宮っぽい。
そう簡単に行かせませんってか。
「向こう側には扉が1つです。どこから入るのかが問題です。入る方法は」
「必ず入る方法はある。不思議と迷宮には記されていたりする。ほらっ!アレなんか怪しいんだ」
「アレなんか……て」
チユは水溜まりとは反対側の方向を向いて言っていた。
俺達が入って来た方向に。
その壁にチユの言う記された物があると。
その壁に近寄ってみよう。
「こ、これは何かの絵だな」
「……エビでは」
「俺もエビに見える。あと泉の絵かな」
「泉ですね。何の関係でしょうか」
「……」
エビと泉か……。
絵が記されているのだから、関係しているはずだ。
そして関係を探り、行動で示せば扉へと行けるのかもな。
きっとそうだろう。
シュナリも考え込むものの、どういった関係なのかは見い出せないようだ。
「う~ん。エビエビエビエビ……」
「わかったのかい」
「わからん」
「やっぱりな」
チユはこの絵を発見したまでは、褒めるのに値するがその絵の意味までは、解読できそうにない。
そうこうしていると時間だけが過ぎていった。
考えていたが、全くと言っていい程わからなかった。
「エビが泳いでるのです!」
「エビなんて見えなかったぞ」
「そうですね」
シュナリのヒラメキであった。
しかし違う気がする。
「わかった。エビの真似して泳いで渡る!」
チユが自信を持って言った。
「わざわざエビの真似する意味あんのか。ていうより、チユは泳げるのかよ」
「……泳げません」
ショボンと耳を垂らしてしまう。
「つうか俺も怖いし。何が出てくるかわかんねえから」
「泳いで渡るのは、考えないようにしましょう。私も泳ぎたくありませんので」
シュナリも怖いようだ。
泳いで渡るのは選択肢から外した。
「そうだな。もしも泳いで渡るが正解ならエハロ迷宮は捨てよう」
「賛成します」
「さんせ〜い」
結局5階の階段まで戻った。
5階フロアーには広場しかなかった。
他には道は無い。
そうなると、もうこの5階に居ても仕方ない。
かといって、4階以上の階のフロアーマップにも回答を得られる場所は無さそう。
「ここまで来て……行き詰まり」
「時間も無くなってきましたから、町に帰るのもありかと」
「……」
俺はシュナリに言われて考えた。
時間は大切だし帰れなくなると困ってしまう。
ここは帰る決断も必要なのかな。
「……帰ろう」
「はい」
「残念だわ」
そこから来た道を戻って迷宮を出ることにした。
俺も残念だけど引き際も肝心である。
そこを間違えて命を落とすこともあり得る。




