52話 信頼
俺の対戦中にシュナリは大苦戦していた。
もっと早く応援に行かなければならないが、いや俺の方が多数の魔物と戦う立場なのに、それをしないでシュナリに任せきっていた。
「悪いっ!俺の方が手こずってな」
「いえ、私の方こそ、まだ1匹も倒せてませんので。応援にきてくれたので大丈夫だと思います」
「心配は要らない。2人でやれば倒せるだろう」
俺が遅ればせながらシュナリの戦場に参戦する。
シュナリも、俺が来て安心した様子になり戦いに集中できそうだ。
そこに不満を持つ者が1人。
間髪入れず、チユが文句を言っくる。
何か嫌な予感がする。
「2人でやれば倒せるですって! 聞きずてならない! さっきは回復魔法で助けてやっただろ。忘れたか」
「スマン。忘れたわけじゃない。訂正します。3人なら倒せる!」
チユが怒り出したのをみて、俺は2人で倒せるを、3人に訂正した。
明るい性格なので気にしそうにないと思われるが、意外にチユは細かい性格のようだ。
今後は気を付けよう。
「わかればいい」
納得したようで、でもってチユ自身は後方に下がって行った。
偉そうに言うが、前には来ない。
あくまでも、マイペースなチユであった。
3匹は何とか倒した。
その後にシュナリが怪我を負っていた。
「怪我をしたようなので、シュナリに回復魔法を頼むよ」
チユに早速頼んだ。
仲間を大事にすることを再優先していきたい俺の考えを快く引き受けてくれる。
しかし当のシュナリが信用していなかった。
やや距離をとって近寄らせないのは、仲間割れしてしまうし、近寄らせないといけない。
「本当に回復魔法なのかしら?」
「あっっ疑ってるな! それならもうシュナリには魔法しないっ」
シュナリの一言でムッときたようだ。
当たり前だろう、誠意で行うと言っているのを無残にも断られたら誰だってムッとくるというものだ。
なぜ、そんな一言をいう?
頼むよシュナリさん、仲良くしましょう。
「回復魔法なんて要りません」
シュナリも負けじと、ふてくされる。
おいおい、どうしてこの2人はこうなるのだ。
騎竜の時から、言い合いになったりとうまい具合になる。
全く困った獣耳娘だわ。
この先も迷宮はあるのだが、不安になる。
とにかく、シュナリに信じてもらうしかないよな。
「俺は回復魔法で痛みが減ったんだ。本当に消えていくようだった。信じてあげてくれ」
「本当ですか。私にはどうも信用しずらいものがありまして。ご主人様のご命令でも一歩ひいてしまうのです」
「本当だよ。だからチユに回復魔法してもらうんだ。いいな」
「はい。ご主人様がそう言うなら。チユ、回復魔法をお願いします」
シュナリがコクリとお願いする。
意外と人見知りな性格なのかもしれない。
それとも俺だけに心を許すということもあり得る。
チユは考えた末に、わかってくれたようだ。
ありがとう。
「ライフラ!」
やっとのこと信じてくれたシュナリに、嫌がらずに魔法を放つ。
シュナリは不思議そうな顔をした。
俺のと同じ魔法だ。
初級位の魔法なのか。
傷事態もそれほど深くはなかったが、重傷なダメージを負った場合には完全回復するのは試してみてわかる。
それとも別の高度な回復魔法も使えるのなら大きい。
「あら、怪我が消えていくわ。チユって、凄いのね」
「わかってくれたようね私の実力が。私がいて初めてこの先に行ける。わかったでしょ?」
「わかった、わかった。チユは凄いよ」
とりあえず、俺はチユを誉めておいた。
誉めておけば、機嫌が良いのも凄い。
そこからは、3人で戦い抜きフロアーのマップを書き込む。
ほぼ書き込んだあたりで、シュナリがダイヤルを発見。
「ダイヤルですね。この階にもありました」
「これで3つ目」
「とすると各階に1つのダイヤルがあると見ていいのでは」
「ダイヤル?」
チユはダイヤルを見て、回し始めた。
知ってるのだろうか。
冒険者レベルが10であり、トカチ盗賊団と迷宮を探索してきたのだ。
俺らよりも知ってていい。
詳しくきいてみよう。
「今までに、このようなダイヤルを見たことは?」
「うーん、ある。でも形は少し違うかな。ボスの部屋に通じる謎なのは間違いないけど」
「どうしたらいいの?」
シュナリが困った素振りできく。
「何かしらのヒントが、なぜか迷宮には存在してる。そのヒントから読み解くしかない。迷宮のレベルが上がる程に謎も複雑さを増していく傾向があった。今はもっと奥に行けば良いと思うな」
「そうね。地下4階があるのかもわからないし。奥に行きましょう」
シュナリは前に歩き始める。
「ちなみに、最深部は4階よりも深い階層って行ったことはあるのか?」
「ありますとも。4階までなら、浅い浅い」
「浅いすか」
地下3階でも大変なのに、それよりも深い階層だと、想像がつかないな。
ただ、チユが迷宮の経験者なのは大きい。
謎を解くのを見てきたわけで、このエハロ迷宮の謎でも役に立つと有り難い。
回復魔法のおかげで、まだ体力も余裕がある。
地下4階があるのかを探せそうだ。
チユの言うとおりに、先に行く。
マップを見てみると、かなりフロアーの詳細図が書かれていた。
3階の探索は、ほぼ終えたように思えた。
終えたと思ったのに。
いつもなら、ここらで階段を発見してる頃だった。
階段が見当たらないのは、見落としたからか。
「階段がないよな。もうあってもいいはずなんだよな」
「私も注意してましたが、見落としたかしら……」
シュナリも不思議がる。
シュナリが見落としたとは、やや考えずらいのだけど。
視力、注意力は俺よりも上。
細心の注意を払っていた。
なのに、ないのなら、ここが最深部?
「この3階が最深部?」
「その可能性もありますね。ボスの部屋が隠されてることも。そう考る方が自然なのかな」
「チユはどう思う?」
「最深部ではないな」
はっきりと、言い切った。
何か確信を得ているようにも。
なんだか頼もしい発言に思えた。
「階段はなかったぞ。マップを見ても階段がありそうにないし」
「はたして、そうかな?」
「教えてチユ! 知ってるのなら」
シュナリがチユに言いよる。
肩を掴んで、お願いした。
必死になって、この迷宮を攻略したい姿勢が伺える。
その積極的なシュナリの姿勢は、嬉しかった。
嬉しかったのは、迷宮への姿勢だけではなかった。




