50話 4つの胸
「良いでしょ、進の前に乗っても」
「良くないっ、離れてっ!」
シュナリはチユが俺にイチャついてくるのが我慢ならないようだ。
チユに注意する。
しかしチユはそんなシュナリにお構いなしであった。
シュナリは怒り出して騎竜を操作して俺の方に近寄ってきた。
どうする気なんだ?
「離れないなら、こうしてやるもんっ!」
シュナリの目がキリリと光る。
「ま、待てシュナリっ!」
シュナリが騎竜ごと突っ込んでくる。
チユを引き降ろそうとするつもりか。
危ない!ぶつかっちゃうぞ。
「うわぁーー!」
俺の騎竜とシュナリの騎竜が体当たりしてしまった。
その衝撃で俺はバランスを崩して落下した。
「痛っ!」
「大丈夫?ご主人様っ」
「あんたが、突っ込んで来るからよっ!!」
「ご主人様と一緒になろうなんて考え持つからよっ!」
俺は落下したのだが、シュナリとチユは言い合いを始めた。
なぜだか、嫌な予感がしてしょうがない。
その予感が的中するのは時間の問題であった。
シュナリとチユは、掴み合いにまで発展していて譲ろうなんて気はさらさら無かった。
譲る気が無ければお互いに体勢を崩すことになる。
「あ、危ない!」
チユが叫ぶ。
「ご主人様、逃げて!」
シュナリが忠告する。
「うわぁ!」
もう遅かった。
竜の上での争いから決着はついた。
2人とも俺へと落下した。
「!!!!」
息が出来ない……。
俺は死んだのか?
死んではいないようではあるが、見動きは出来ない。
なぜ動けないのか考えてみたが、考えても理由はハッキリとしなかった。
ただ生きた心地がするのは不思議であった。
今までに経験したことない極上の感触を感じていたからで、硬くもなくそれでいて弾力性をかね揃えている物。
世界のあらゆるものの中でその条件に該当する物はひとつしかない。
シュナリとチユの胸が俺の顔を埋めていたのだ。
「ごめんなさい、ご主人様」
ありがとうございますと言いたくても言えない。
胸の重圧で口呼吸が思うようにできないのが原因である。
「生きてるか、進!」
ムチムチとした胸の張りに、返答するのをためらうのは離れて欲しくなかったからである。
接着剤でこの状態を固定化して欲しい。
しかしふたりには俺が変態だと思われたくないのもあり、離れるように言うことにした。
「どうでもいいから、顔からどけてくれ……」
息ができないのは、マズイのもあった。
シュナリの胸は重たく柔らかい。
一方、チユの胸はというと、ムチムチして弾けそうな感触といったらいいだろう。
けどシュナリとチユの胸に潰されたのに、それほと嫌ではいと思う俺は、いかがなものか……。
気を取り直して騎竜に乗る。
何事もなかったかのように振る舞った。
世の中には変態と言われる男は存在する。
俺もそのひとりだろう。
だけども誰にも気づかれたくはない思うのは、変態と思われるのが恥ずかしからである。
先程のケースではシュナリとチユの竜の上で暴れた結果がもたらした奇跡であり、俺には責任はないのだから、変態と思われる確率は少なかった。
今度はチユも自分の騎竜へとまたがった。
シュナリが命令してそうさせたからだった。
シュナリはチユが俺に色気を使うと、怒り出すのがわかった。
世に言うヤキモチって奴であろう。
最初から俺といるのをチユが後から入ってきて奪うと判断したからだろうか。
ヤキモチした女の子をどうやって対応していいかと言えば、答えは確定していた。
知らない。
なにせ女の子とろくに会話したこともない俺にヤキモチを持つ女の子など皆無であった。
ヤキモチを持つ女の子の好きな男とはどんな男かと言えば、それは世間一般的にイケメンといわれる種族だろう。
残念ながら俺はその種族に該当しない。
むしろ敵対勢力といつた方が的確な表現である。
それゆえ全くどう対応していいかすらわからないのだった。
しかし当のシュナリは俺を攻めたりしないでいてくれているので助かっていた。
「それでは出発しまーす」
魔物使いの掛け声で、走り出す。
「出発だ」
なぜかしら…チユも掛け声を出した。
すると騎竜は走り出した。
なんだ、今のは!
まさかチユには、魔物使いのスキルもあるのだろうか?
出発するとまもなくエハロ迷宮に到着。
今日で3日目の挑戦。
今日こそ最深部に到達したいものだ。
「着いたぞ」
「ここがエハロ」
チユはエハロには、初めましてであった。
「私達はすでに、地下3階まで到達してる。3階以降が目標ってとこね」
シュナリがチユに昨日までの履歴を説明した。
怯える様子はなかった。
むしろ、楽しそうに砂丸から武器を作ったのだった。
「スライムの杖!」
チユが呼び出してきたのは、杖であった。
背の小さなチユの体にピッタリとした杖だ。
魔法を使えるとあって、剣よりも杖を選んだとみえる。
「杖を使うのか」
「ハッキリ言って攻撃は威力ありませんので」
「わかった。俺とシュナリが前列に行く」
「わかりました、ご主人様」
シュナリは理解していたようだ。
返事をするなり、砂丸からダンシングダガーを作った。
「2人を援助しますんで」
チユも援助という形で話はついた。
俺も遅ればせながら、大地の刃を作って探索の準備段階は終わった。
通常探索するパーティは攻撃的なメンバーと補助的なメンバーを置いたほうがバランスはいいとされる。
特に敵が強くなれば、必ず補助してくれるメンバーは必須となるし、今回チユが加入したのでその点を期待したい。
「これより探索開始だ」
「はい」
「はいよ」
チユも返事をするが、実のところまだ不安な面がある。
本当に探索経験があるのだろうか?
話し方が、明るく楽天的なので、戦闘のイメージがわかないのもある。
1階の中程まて来てシュナリが教えてくれる。
「ご主人様、前方にスノーシュリンプです」
1匹なので難なく倒せるだろう。
この大地の刃の威力を試せるチャンスでもある。
スノーシュリンプが近くにまで来たのを見計らって、大地の刃を振りかざしてみた。
重たい。
頭上までは重たくて潰れてしまいそう。
途中まで振り上げてから、スノーシュリンプに振り下ろした。
距離は普通の剣と同じだ。
前回のスピアよりは短めななので、近くまで行く必要があった。
ザクッ!
刃がハサミをぶった斬る音。
ハサミは斬れて片腕になっていた。
「重い分だけ斬れるな」
もう一度刃を。
今度こそ頭を狙い打ちしてやろうとした。
刃は頭に突き刺さった。
衝撃でスノーシュリンプは、よろめいて、力尽きた。
二激で倒せたので破壊力のある武器だとわかる。
大剣って感じがして、清々しい体験をした。




