49話 チユの能力
しばらくお茶を飲んでゆっくりとした。
迷宮に行くのを忘れてる。
おしゃべりしてるよりも、迷宮へ行きたい。
「そろそろ迷宮へ行きたい」
「そうですね。だけどチユは?」
「私なら心配いりませんことよ。なんてたって迷宮での経験は数知れませんから。トカチの手下が居ましたけど」
「経験豊富なら即戦力さ。3人で迷宮へ行こう」
「ちなみに私の冒険者レベルは10です」
「なにっ。俺よりも上!」
俺のレベル8より上とは思わぬ誤算。
年齢はシュナリと同じくらいに思えたので。
「驚いた。私のレベル5よりも上ですね。戦闘経験があるなら戦いやすくなります」
シュナリも意外だったようだ。
「いや、それがですね私は補助的な立場なんだ」
「補助的とは?」
補助的っていうと、ゲーム内では後方からの支援をすることの意味もあるが。
「魔物を倒したことはないっ!」
「えっと、後方支援てことかな?」
「当たり」
当たったようだ。
別に当てようとは思ってなかったけど。
後方支援てのは戦闘よりも前線で戦う冒険者を支援する。
回復魔法や状態異常を復帰、もちろん遠目からの攻撃参加もできる。
チユがどういうタイプなのかは、ぜひききたいところ。
「魔法が使えるとか?」
「当たり」
また当たったようだ。
俺とシュナリは魔法が使えない。
魔法が使えるのが1人入れば、心強いよな。
「回復魔法?」
「当たり。未熟なので回復魔法しか使えませーん」
回復魔法だけか。
それでも戦闘中にダメージを回復できたら圧倒的に有利になる。
敵の数も増えれば、なおさら必須になる。
「そこは自慢して欲しくない!」
シュナリが、すかさず言った。
俺も同意見です。
チユ本人は、気にしていない。
「迷宮に入れば全てはわかるというものよ。私の実力がね!!」
チユは自信満々に宣言した。
前線で戦うのは俺とシュナリなのをよそに、高らかと声にした。
大いに期待したいと思いたいが、チユの言うことは信用していいのかわからない。
迷宮に行ってみればわかること。
屋敷を出て再び迷宮屋に。
今日も綺麗です。
美人の受付嬢が待っていた。
「おはようございます進さん。今日も頑張ってくださいね!」
「ええ、頑張ります」
見つめられると、つい強気の言葉を言ってしまう。
「今日は3人のパーティーですが」
「そうなんです。3人になりましたのでもっと深い階層に行こうと思ってます」
「より下の深い階層に行くパーティーの特徴があります。少ないメンバー、3人以下の場合。この場合は少ない分1人のレベルが高いのが条件です。4人以上になると、お互いに助け合うことで進めていけます。しかしメンバー数を増やし過ぎて、ケンカになったり、仲間割れが発生しやすいのも事実でして。やみくもに増やすのは考えものですよ」
「そこはウチのパーティーは大丈夫そうです」
「進さんがきっと信頼されてるからでしょうね」
「いやーまぁそうでしょう」
信頼されてると言われては、嘘でも嬉しいです。
照れてる俺にシュナリが言いたそうだが。
「ご主人様、騎竜の手配をお願いします」
「そ、そうだな。騎竜を頼みたいのです」
「はい。3人分ですね。外でお持ちください」
「はい」
店内から外に出ると、いつもの魔物使いが立っていた。
暇そうにして空を眺めてる。
「頼むよ、エハロまで」
「あいよ!」
俺とシュナリは騎竜に乗った。
チユは騎竜の前で立っている。
どうしてか乗らないの。
あれ、もしかして初めましてか。
「チユは、騎竜に乗るの初めてかい?」
「初めてだわ。迷宮に行ってた時は大きな騎竜車だった」
「騎竜車? 車に変身もするとか」
何だろうか?
「違う。騎竜が前にいて荷車を引っ張る形で走る。荷車は屋根も付いていて8人は乗れた」
「馬車みたいなもんだな。ここには無いようだけど」
「トカチ盗賊団が自前で所有してた。何台も。それに乗って大勢を連れて迷宮に行ってた」
「金があったんだろな。俺にはそんな金はない。これで我慢して乗ってくれ」
「はいよ」
「お、おい。ち、違うから……」
チユは何を思ったのか俺の騎竜に乗ってきた!
俺の前に密着して来るように。
チユの背中と俺の体が密着してしまった。
ここは俺の騎竜だぞと、チユの背中に触れて言った。
「駄目ですかね」
「駄目ってことはないけど、騎竜は基本ひとり乗り用だから」
俺は慌てて説明した。
チユの背中は温かくて温もりがある。
もち肌なのか、ムチムチっとした肌だ。
甘えん坊なのかわからないが、予想外のサービスにびっくりした。
一度はやってみたかったシチュエーションに降りろとは強く言えなかった。
降りようとしないチユに、みかねたシュナリが言う。
「チユっ!ご主人様から離れなさいよっ!」




