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48話 チユ

 迷宮に行くつもりが、女の子と知り合ったことで戻って来ていた。

 チユは屋敷を見て驚いたようだ。


「あ進さんは豪華な家に住んでますな。お金持ちさんなのですかー」


「うん、俺の屋敷だから入っていいぞ」


「まぁいい屋敷だ。こんなとこに住んでみたいわ」


 チユはとても気に入ったように屋敷に入る。

 屋敷に入るとパンナオがやって来た。

 当然、疑問形できいてくる。


「どうなさったのですか、迷宮に向かったのでは?」


「それが訳あって、この子はチユ。何か食べさせてやってくれ」


「どうもね」


 チユはお腹も空いていたようなので、食べさせてあげることに。

 

「執事を雇ってるなんて進さんは貴族かなにかの人かな」


「貴族じゃないよ。執事のパンナオさ。何でも言いつけていいからな」


「ご主人様。いつからパンナオが執事に……」


「まぁこの際だから、執事にしてしまおうアハハ」


 執事と言われて説明するのも面倒なので、執事に決定しました。

 これからは執事ということで。


「気になることがあるのよ」


 3人でテーブルについてシュナリが気になったよう。


「なに?」


「盗賊団から逃げてきたのなら。このターヤの町に追いかけて来ない?」


「あっ、そうだな。でもこの家に居れば大丈夫ということにして」


「チユは意外と楽観的だ」


「何とかなるわ」


 話しているとコッチまで楽観的になってしまうほどに明るい娘だ。

 最初は緊張していたみたい。

 今は緊張も解けて打ち解けてくれている。

 シュナリが言うように盗賊団のことは気がかりではある。

 万が一、追ってくるようだと面倒になる。

 たぶんシュナリは俺に判断を委ねたのだろう。

 シュナリを見た。

 俺を見ていないようでも、意識はしている。

 つまり、チユを見捨てるのなら今。

 今ならまだ深く知り合っていないのだし、別れるのも簡単。

 時間が経てば経つほどに別れにくくなるってもんだ。

 追ってくる奴らと衝突。

 最悪には戦いも避けられない事態に。

 そこまで考えぬいてシュナリは、俺に判断を任せたと推理した。。

 しかし、答えを出す前にききたいことがあった。


「盗賊団てのはさ。何ていう名前なの?」


「名前ですか。えっと……トカチ盗賊団ていうんだ」


 俺は初耳の名であった。

 シュナリはどうだろう。

 向いてみると、何だか顔色悪くなってるような。


「知ってるかい」


「トカチ……。私の知ってるトカチ盗賊団だったなら最悪と言えます。獣人を奴隷の様に使用する、迷宮に無理やり送り込まれて攻略させて魔石を集めては金を稼ぐ。または、農業を経営して安い賃金で獣人を働かせて利益を上げている集団。いい噂を聞きませんね」


「そんな所に居たのか」


 シュナリの話だと相当なあくどい事をしている盗賊団なのだろう。

 チユに確認してもらう。


「まぁ、そんな感じだな。獣人の仲間も酷い目にあってるし。でもトカチの者はみんな強いから、誰も助けてくれなかった」


「強いか……。サイームのレベルくらいかな」


 どの程度の強さかが問題。

 パンナオ盗賊団くらいか。

 それはないか。

 商人サイームの仲間も強かった。

 あのレベルをイメージしてシュナリの方を見る。

 

「……」


 シュナリは口を閉じたまま左右に頭を振った。

 その反応からしてトカチは、はるか上のレベルとわかった。

 最悪て言うくらいなのだから、おおよその予想はついていたが。


「うーん、迷宮屋に行けば強い冒険者がいると思った。きっとトカチ盗賊団から守ってくれる人に出会えると。それで迷宮屋に居たのよ。そしたら進とシュナリが来てくれて、嬉しかった」


 チユは俺が守ってくれると思っていた。

 ここまで連れてきて見放すことは無いと。

 だけど、シュナリの顔色はさらに悪くなる一方だ。

 深刻と言っていい。

 見放すなら、今しかない。

 これ以上一緒に居たら、情が入って見放せなくなるから。

 チユを見てみる。

 今は笑顔を作っているが、昨日までは笑顔もない毎日だったに違いない。

 またそこに戻すていうのか。

 トカチのもとに戻してみてみろ。

 逃げ出したのを理由に苦しめられるのは、目に見えている。

 そんなことを出来るのか。

 いくら相手が格上の相手だとしても。

 ただし、トカチの手下がくるとは断定したわけではない。

 今すぐに切り捨てるのではなく、様子を見たくなった。

 なぜだかは、わからないけど、チユの笑顔がそうさせたようだ。


「じゃあ、こうしよう。チユはここに俺達と一緒に住む。それなら安心だろ」


 俺がそう言うと、チユは嬉しそうにした。


「やった。進、シュナリ、よろしくお願いいたします」


「こちらこそ」


「……私もよろしくお願いね」


 俺は笑顔で言った。

 しかしシュナリはというと、挨拶はしたが、作ったような冷たい笑顔に見えた。

 そして俺に対して疑問を突き付ける眼差しも。

 きっと俺がチユを見捨てるのではなく、守る方に動いたのが原因だ。

 なぜ見捨てなかったの……という厳しい感情がこもっていた。

 俺はトカチの手下が追って来ないことを祈った。

 2つに1つの賭け。

 来ない方に全てを賭けたのだった。

 それがどういう結果になっていこうとも…。

 

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