45話 ケーキ
朝、目覚めた。
太陽が窓からさしてきて、晴れのようだ。
まだ眠い。
トイレに行きたい。
行きたいのに行けない。
俺の腕にはシュナリがしっかりと抱きついていて離してくれないからだ。
このままでも、いいんだけど。
ようやく目が醒めたようだ。
「おはよう」
「………おは…」
まだ寝ぼけている。
ちょっと手を開放してもらう。
トイレに行った。
帰ってくるとシュナリはベッドから起きてアクビをしていた。
「眠いです。あれだけご主人様とモフモフしますと」
「俺も疲れたぞ。もう少したってから朝食にしよう」
少し時間をおいてから、1階のリビングに。
パンナオが朝食の用意をしてある最中だ。
昨日寝る前に朝食の準備をしておくよう言っていた。
ちゃんと俺の言うことを守っていたようで、席に付く。
シュナリは座った途端にテーブルに用意された朝食を見て声を。
「わぁー美味しそうなベーコンにチーズだこと」
「お腹は空いたのかい」
「ええ、空きました。食べたい」
「どんどん食いな」
「いただきます」
シュナリは、木製のフォークでハムを食べ始めた。
俺もハムを1枚口に入れる。
「いい肉だよな」
「町で買ったら高いような…」
「気にすることはない。どんどん食いな」
「じゃあ、遠慮なく食べます」
買ったら高いか。
そうだろうな、肉屋で購入しているのだろう。
その中でも良い物を選んで購入してあると思う。
肉は柔らかくて味も品がいい。
それ以外にチーズも食べた。
ブロック状の物を薄くスライスしてある。
1枚を口に入れる。
チーズはねっとりと舌で味わう。
これも美味い。
冷たく冷やされており、何枚でも食べられそうだ。
シュナリはチーズはイケるのかな。
苦手な人は意外と多い。
「チーズは大丈夫?」
「チーズって美味しい! 私が食べてたのは美味しくなかったの。だから苦手で。でもこれなら食べれます」
「チーズにも色々な種類があるものな。きっとシュナリには合わなかったのだろう。今日は迷宮に行く予定だよ」
「ええ、今日にもエハロ迷宮を攻略したい。昨晩はご主人様に抱かれて体力を使いましたが、疲れはありません。むしろまた迷宮で頑張って探索してモフモフしたい気持ちです」
「おいおい、気が早いな。でも頑張りしだいでは攻略できるかもな」
「攻略を目指しましょう」
シュナリはヤル気を見せる。
俺も負けてはいられない。
そこへパンナオがキッチンから来た。
「おはようございます」
「おはようパンナオ。朝食は美味しいぞ」
「それではコチラもどうぞ」
パンナオは皿を追加してくる。
皿には黒い形の物が…。
これは…もしや。
「これは何ですか?」
シュナリが不思議そうに。
パンナオはそうきいてくるのをわかっていたのか、シュナリに答える。
「はい。チョコレートケーキになります」
「チョコレートケーキ?」
「シュナリはチョコレートケーキは初めてか?」
「初めて。チョコレートもケーキも。黒いですね」
「甘い食べ物だよ」
「へぇ、ひと口いただきます」
シュナリはチョコレートを食べた経験がないようだ。
それなら知らないのも無理はない。
黒いので奇妙に映るのかもな。
「あら!美味しい。甘いです」
「そうだろ、砂糖が入ってるからだ」
「砂糖が…砂糖は貴重な物なので村ではほとんど食べることが出来なかった」
「そうか、砂糖は貴重か。そうだよな食物も育てるのは大変なんだろ」
「砂で育つ食物しかありません。砂糖が取れる食物は少なかったな」
「村では畑はあったの?」
「畑には食料となる野菜を栽培してましたね。私も手伝いをしてました。後は放牧で豚や鳥を飼育して食料に」
「豚や鳥もいたのか、それなら肉にはうるさいよな」
地方の小さな村をイメージした。
のんびりとした村だったのだろう。
俺も一度訪れたかった。
黒死蝶に襲われる前に。
「肉は食べても、ケーキは初めて。村の人達にも食べさせたかった」
「村のあった場所はわかるのかな」
そもそもこのターヤしか町を知らないので。
「どうでしょう…ターヤも知りませんでしたから。ハッキリとはわかりませんね。小さな村でしたし。生き残った人も今はどこに居るのやら」
「この町以外の他の町にも行ってみたい。そうすればシュナリの村の人に会えるかもな」
「会えると嬉しいな」
きっと会えると信じてるようだ。
俺には言わなくても、そう伝わった。
最後にコーヒーが運ばれてきた。
コーヒーを飲んだら、迷宮へ行く準備に取り掛かろう。
コーヒーの苦味が胸に染みた。
その苦味はコーヒーのせいなのか、シュナリの村の悲しみからなのかは、わからない。
飲んできたコーヒーとは違う、心に染みてくようだった。




