35話 小部屋
地下2階を進めていく。
マップも記してあるので確認してみる。
たぶん1階と大きさは同じだろう。
構造も似ているようだ。
それに恐れていたのは落とし穴。
1階では危なく落ちそうになった。
この2階でも当然存在していた。
シュナリが注意深くしていたおかけで、事前に察知できていたので感謝です。
俺だけなら落ちていたのかもな。
そう考えると怖くなる。
しかも1つではなく、複数存在していたのだから余計に怖くなったのは言うまでもない。
「落とし穴は見分けがつきそうだな」
「遠目でも何か仕掛けがあると判断できました。やや床の色が違っていましたので」
「色が、同じ色にしか見えないがな」
「微妙な違いです。視力は人族よりも格段にいいし夜でも見えやすい特徴と持ってます」
俺には全く違いが区別できない。
視力は良い方なのに。
視力に自信が無くなってきたぞ。
スマホの使い過ぎか原因だろうか。
1日中スマホの画面を見ていた日もあったから。
自分では知らないうちに視力が落ちていたとしてもおかしくない。
または、シュナリの視力が4.0くらいあるのかのどちらかだな。
トラップを上手く切り抜けて進んで行った。
地下3階への階段を探す。
階段を見つけたとしよう。
今の俺の魔力量は残り少ないです。
このままでは危険な状況。
例えば盗賊団に遭遇するといった場面では死ぬ可能性がある。
いったん町に引き返して魔力量の回復をはかるのもありだな。
それにたとえボスの部屋まで辿り着けたとしても、勝てる見込みはあるだろうか。
シュナリと2人で戦うなら戦えるのかどうかも微妙なところだ。
なので3階の階段を見つけて地下3階の探索あたりで今日は引き返そうと思った。
それをシュナリに相談してみると。
「3階の階段を見つけたあたりが引き返すタイミングでどうだ」
「そうですね。時間的にもその頃には夕方に近いでしょう。騎竜が待ってますからご主人様の判断で帰りましょう」
「騎竜がないと辛いからな。いなくなっら歩いて帰るようだ。またはシュナリを俺がおんぶして帰ることもあり得る。もう少しとしよう」
「歩きは大丈夫だとは思いますが、おんぶとは何のことですか?」
「知らないか。おんぶってのは背中に乗せて連れて行くもので、ひとりで乗せた人の分の体重がのしかかってくるから速くは歩けないし、体力も消費するのが欠点だな」
「おんぶしてみたい」
「ここでか!」
「ほんの少しだけでいいですからお願いします」
「おんぶする必要がないんだけどな。まぁ少しだけだぞ」
「ありがとうございます」
俺は背中を向けて腰を低くしゃがんだ。
こうすればシュナリが乗りやすいからだ。
「さぁ乗ってみな」
「少しお時間をください。私も準備します」
「準備? そのまま乗ればいいんだ。遠慮は要らない」
「では、乗ります。わぁいつもよりも視線が高くて見晴らしがバッチリです」
太ももを両腕で支える形になるので、太ももの柔らかい感触が手にきて気持ちいい。
これは思わぬラッキーって奴だな。
俺の頭よりもシュナリの頭がひとつ抜けて飛び出すからだろう。
とても喜んでいるようで、やった甲斐はある。
「どうだ、楽しいか」
「楽しい。迷宮をおんぶで行くのも悪くない」
「そりゃあ無理だろ! 俺の体力が速攻尽きるわ!」
「そしたら反対に私がおんぶしてあげます」
「それは無い無い。重くて支えきれないよ。それにしてもなんだか生暖かい気もするな」
支えるシュナリの太ももは肌が触れるのはわかるのだが、背中にももの凄い圧力が掛かってきていた。
きっと俺の背中に胸が密着していて、胸が背中を押しているのだろう。
気持ちいい圧力である。
ただそれだけかこの感触はと考えてみると、単に胸が当たっているだけにとどまらない何かがあるのを察知した。
この違和感の正体は何だろうか。
「さすがご主人様、よくわかりましたね。防具を脱いで衣服も脱いで乗ってますから。だから生暖かいと感じたのでしょう。背中にも目があるようでまいりました」
「ち、ち、ちょっと待て。防具と衣服を脱いでと言ったか?」
「言いました」
「それじゃ裸で俺の背中に乗ってる状態だと!」
「正解。ほんの少しお時間貰ったのは脱ぐ時間が必要だったから」
「裸でおんぶするな! 本来の目的と違った意味になる!」
「おんぶには欠点があると、それは全体重がのしかかってくるからだと聞きました。それで少しでもご主人様の負担を減らす為に全部の衣服を抜いで乗った。防具と衣服がない分軽くなるから。こんな裸のおんぶは嫌でしたか?」
「い、い、嫌ではないが防具と衣服くらいの重さは耐えられるぞ! 俺の体力を舐めてもらっては困るな!」
生暖かいかんの原因は全裸だったか。
想像してみただけで興奮してきた。
これなら納得がいく。
いや納得してどうする、ただ気持ちいいからこのまま続けるのも有りなのだが、俺が触りたいと見え見えなので降ろすことにした。
「確かに軽率でした。次から気をつけます」
それからマップを拡大していき、行け止まりに会えば、引き返していき迷路は姿を表していった。
9割がた探索したようだ。
マップは全体像を見せると階段のありかも予想出来る。
まだ記していない箇所のどこかに階段はあるとわかる。
その候補の1つに向かう途中のこと。
迷宮内の壁に異物をシュナリが発見したようだ。
「壁に何かあります!」
「本当だ。これは……」
指摘された方を見てみる。
見たことのある物体。
1階で見た気がするが…。
「確か1階でみたような…」
「1階にありました。ダイヤルのような物でしょう」
「ダイヤルか…回してみようか」
「1階でも回してみて何も変化は起こらなかったので大丈夫だとは思います」
「突起部分は全く一緒だ。目盛りがあるから意味があるはず…」
適当に回してみた。
左に回してみて、そこから右の方へ回してみる。
少し待っても何も起こらなかった。
やはり目盛りに意味があり、決められた法則がありそうだな。
だけどここまで来て法則らしい法則の記述は見ていない。
見落としもシュナリがいるので無いとは思う。
そうすると、この先に記述されてある可能性もある。
シュナリも俺と同じ考えになったようで。
「各階にダイヤルが存在してるとも考えていいと考えられますね」
「どこかに手がかりがあるのかもな。ムライ迷宮の時も似たような仕掛けがあったんだ。それは矢印が謎を解くキーになっていた」
「これも意味があるようなら不思議です。迷宮はなぜそんな意志のような物をもっているのかが。生きていて町ごと飲み込むと聞いたことあります。生き物のようで意志を持って生きているのでしょうか」
「それはわからないな。でもボスを倒した後に迷宮は消えていくそうだ。ムライ迷宮も砂になって消えてしまったのだろうな。迷宮を殺すことになるのなら悪い気もするが…」
「いいえ、悪くありません。迷宮は放っておいたらターヤだって砂の中になってしまうのです。ご主人様はむしろ町の人から尊敬される存在ですよ」
「俺が尊敬されるか…。どうも照れてしまうがな」
「わりと照れ屋さんなのですね」
「おい…からかうのはよせ。人狼族の人は迷宮に行った話はなかったのかい」
「私の村では迷宮が生まれたら大変に困っていました。戦闘タイプの仲間が協力して攻略していたと聞いてます」
「どこにでも生まれる性質があるのだな。厄介なもんだ」
「なぜ生まれるのかは謎だそうです」
迷宮の生息などはわからないことが多いが、解明しようとしているみたいだ。
ここからは、探索を続けることに集中しよう。
奥に行って小部屋を発見した。
「あれは…部屋かな……」
「小部屋のようです。扉もありますが」
「ここが最深部ってわけないと思う
」
「まさか…ボスってことは」
「ボスの部屋には一度入った経験があるけど、小さ過ぎるな。もっと大きかったぞ」
まぁ小さなボスってのもいるのかも…。
「開けてみればわかりますね」
「シュナリ…けっこう厳しいこと言うね」
「すみません。生意気な言葉で」
「俺が開けてみよう…」
開けてみれば、はっきりする。
何がでてくるのかは…。




