31話 国王軍騎士2
「………」
フォダンは、かろうじて息はしている。
しかしもう戦える体でないのは誰が見ても明らかであろう。
勝負は着いた。
圧倒的な強さで国王軍のチュトルが勝った。
若いのに強いのね。
「だから言ったのに。おとなしく捕まれってさ」
残念そうにして言うチュトル。
一方の余裕があったはずのサイームは、フォダンが足元にも及ばなかった結果に震えている。
あのチュトルって奴、相当な強さだ。
「ま、参りました。どうか許して下さいチュトル様」
「許して…だと。俺が許してやると思ったか?」
「何でもします。私の持ち金を全部差し上げますのでお許しを…」
「別に要らない。お前を捕まえられればOKさ」
「……私もまだ捕まりたくないのでね……」
サイームは何か企んでるのか。
まともにチュトルと戦っても無駄と言うもの。
するとサイームは右手を高く上げる。
いったい何?
合図か?
他にも仲間が隠れているとか。
手を上げてから観客の中から7人の男がサイームの近くに現れる。
やはり仲間を隠していたんだ。
おそらくは金で雇った奴らだな。
仲間の数は7人いて、どいつも強者そうなオーラを感じさせる。
この人数では分が悪いかな。
「7人か…」
チュトルは、まゆを歪ませる。
ビビってるな。
さすがに7人はキツいだろう。
「ふふ。7人相手では分が悪いだろう。その間に私は立ち去ろるとしよう」
サイームは仲間に託し自分は逃げようとする。
7人はそれぞれ武器を持ちチュトルに襲いかかる。
フォダンを1人なら使えた砂嵐。
7人にも使用して通用するかは疑問だよな。
どうするのだろう、チュトルは。
「ウィードアローレベル3」
やっぱりあの技を使うのか。
ただレベル3って言ってたな。
上位の技か。
チュトルの周りにあった砂が大きく渦を巻きだした。
渦はどんどんと大きくなる。
さっきよりもデカいのは間違いない。
砂嵐よいうよりも竜巻に近い。
竜巻は勢いを増して、7人に接近していくと、いせいの良かった態度はいっぺんしてしまった。
7人は抵抗する間もなく、竜巻の中に巻き込まれてしまう。
グルグルと回転し宙を舞う。
こんなにも人が軽々と回るものなのかと、驚いた。
もはや手も足も出ない。
竜巻は勢いが弱まると7人は地面に落下し苦しそうにもがく。
「7人いてもこの程度かよ」
「バ、化け物か…」
サイームは逃げようとしたが、とても逃げきれる状況ではなくなった。
震えているのがわかる。
まだ仲間がいても結果は同じだろうな。
あまりに実力差があり過ぎです。
大人と子供だ。
いや、もっと差がある。
サイームが言うように化け物じみてる。
チュトルはサイームを威嚇した。
サイームはたまらずに尻もちをついてしまい、立てない。
そこへ国王軍の兵士が複数人やって来た。
サイームを捕らえると連れて行ってしまった。
シュナリに感想をきいてみたい。
「見たか、あれが国王軍の実力なのか」
「恐ろしく強いです。私も震えてしまいました」
シュナリも震えているようだが、実は俺もかなりビビっていた。
チュトルが国王軍で良かった。
戦うことは無いから。
悪質な盗賊団でない限り。
しかし盗賊団にもこのクラスの強者がいたら…。
俺はそいつと戦うこともあり得るわけだ。
居るのかな、盗賊団にも…。
「盗賊団にもチュトル並の者はいると思うか」
「います。チュトルかそれ以上の強い者が…」
「誰だ」
「蝶野です」
蝶野……。
黒死蝶のリーダー。
会いたくない。
ハッキリ言います。
逃げたいです。
でもチュトルがこのターヤの町にいれば蝶野だって近くに来ないのでは。
チュトルと仲良くしておけば蝶野に襲われる可能性は無くなるよな。
シュナリはチュトルと仲良くなる方法を知ってるかな。
「チュトルと仲良くなりたい」
「冒険者なら国王軍も協力的です。盗賊団が共通の敵になります。まして黒死蝶ならなおさら」
「俺が黒死蝶のガイルを殺したのは報告したらどうかな」
「国王軍からは評価してもらえると思います。しかし、うかつに話して黒死蝶に情報が伝わると、ご主人様が狙われかねないです」
怖いこと言うよねいつも。
確かに情報ほど漏れやすい物は無いと言うからな。
「危険を承知で報告すると危険も増すか…黙っていよう」
「そうしましょう。ご主人様にとっては嬉しい見せ物でしたね」
嬉しい?
嬉しいとは何だろうな。
「特別嬉しくはないけどな…」
「だってサイームは国王軍に連れて行かれ牢獄に入ります。もう当分は出てこれません。チュトルに手を出したので一生牢獄でしょう。そしたら約束した借金は返す必要は無くなります」
「そうだな!そこまで考えてなかった。戦いに夢中になっていて、つい借金を忘れていた。175万のうち残りの170万は返済不要てことだな。ラッキーだぞ」
「ラッキーです」
よし、お礼を言っておこう。
俺はチュトルの近くに行きお礼を言った。
「チュトルさん。どうもありがとうございます。助かりました」
深々と頭をさげる。
「えっ…どうもです」
チュトルはまったく何の話かわからないが、照れ笑いした。
「私は堀進といいます。冒険者やってます。あと…ムライ迷宮をクリアしました」
「その報告は聞いていた。あなたがその方である進でしたか。これからも迷宮をクリアしてください。国王も願っています。俺らは邪魔者である盗賊団を始末していきますから」
「あれほどの強そうな奴らを倒すチュトルさんは強いなぁ!」
「今戦った奴らなど戦力外ですね。盗賊団のランクでいえば最下級のランクの者達。いやそれ以下かな」
フォダンで最下級だそうてす。
これよりも上なのがゴロゴロしているというわけで、狙われないようにしたいものです。
「黒死蝶は危険ですかね? 噂で聞いたことあるもので、参考までに」
「危険ではありませんよ進…」
「危険ではない? 下の方のランクってこと…」
「いいえ。危険なんてレベルではない。国王軍が全力で総力戦をしたとして、勝てるかどうかという相手。別格な盗賊団です。もし進が黒死蝶の者に近寄られたなら、迷わず逃げることだね」
「げっ……。逃げます」
「まぁ、この辺には存在は確認されてないから心配はないとは思うけどさ。念のため忠告しておく」
「いないのですね…脅かさないでくれ…」
「悪かった。でも黒死蝶の団長である蝶野はどこに居るのか不明、出身地も不明。その姿を見たことのある者もいない。謎の人物です。それだけではなくて、その配下に黒死蝶六葉開【ろくはかい】もいます。6人の精鋭された幹部連中の呼び名」
「六葉開も凄腕と思っていいと…」
「独りで中級ランクの盗賊団を潰してしまえる実力はあるでしょう」
「そんなのが6人もいるってか…」
「それゆえ、六葉開の通る後は必ず血を見るとまで言われていて、血みどろの六葉開とまで悪名高い名が付きます」
「はぁ…怖そうな名前ですね」
「では俺は王国に帰ります」
「お気をつけて」
やがて国王軍が町から去って行くと観客達も散らばっていく。
また元のターヤの町に戻った。
国王軍と黒死蝶。
俺は日を追うごとに関わっていくような気がしてならない。
もっと黒死蝶についてききたいので、この際シュナリにきいてみる。
「この2つ、国王軍と黒死蝶は戦ったことがあるのか」
「何度もあるそうです。数では圧倒的に国王軍が多いでしょう。それでも蝶野とその幹部は強くて捕らえるまでにいってません。国王軍にも相当なダメージを受けたと聞きました。もちろん他にも盗賊団が存在していますので、国王軍も大変ではあります。私の人狼族は常に盗賊団から狙われ存在。人狼族の女は高く売れるから。だから仲間達は国で散らばって暮らしているのが現状です」
「シュナリは生きていて良かったよ」
「ご主人様と居られて幸せです。人狼族の歴史は盗賊団との戦いの歴史。戦いの無かった時代はなく、絶滅しつつありますね」
「絶滅!そこまで減ってるのかい」
「はい。もう絶滅は時間の問題だと村の人も言ってた」
そいつは酷い話しだ。
国王軍もしっかりして欲しいよな。
人狼族を保護することはしないのかな。
「国王軍は保護しないのか」
「あくまで人族の味方です。冒険者や町の人を守りますが、人狼族の味方にまでなって戦いはしませんね」
そうか…俺にとっては国王軍は友好的である。
シュナリにとっては決して友好的ではないようだ。
区別しているようで、悲しい。
当然に俺は区別などしていない。
シュナリは俺にとってかけがえのない存在なのだし。
「俺はシュナリを見捨てたりしない。お前を必ず守るよ」
「嬉しいです」
「いつも一緒にいる」
「ベッドもですか」
「そ、そこも一緒に居たい」
ありがとうございます。
俺も嬉しいです。




