108話
シュナリとトカチはお互いに顔を合わせる。
意地と意地のぶつかり合いとなったもようであった。
新参者に俺を取られたくないシュナリと嫁としてのトカチの意地なのだとわかる。
「シュナリも脱ぐ必要ないからな」
「脱ぎます」
もはや俺が止められる二人ではなかった。
参ったな。
正直言って見たいかと聞かれれば見たい。
それはわかってること。
俺か怒鳴ったら止めるだろうか。
とてもそうは思えないから、このまま黙って見ているしかなさそうだ。
そこで急に騎竜車が停車した。
ゆっくりと止まった感じだった。
「ちょっと待って。外が騒がしいけどさ」
チユが騎竜車の窓から外を見て言った。
外に何かあるのかな。
砂漠しかないはずだが。
俺もいったん二人を見るのを止めてチユの見た方を覗いた。
「あれは、魔物! それも複数いるぞ」
トカゲのような魔物がウヨウヨとこちらに向かって来ていた。
迷宮でしか魔物は会っていなかっただけに、迷宮の外にいれば安全だと思い込んでいた。
外もこんなにいるなら歩いてたら危険だ。
「それに国王軍の人が出て行ったわ」
シュナリは服を脱ぐのを止め、外をのぞき込んで言った。
魔物のおかげで二人の脱ぎ合いは停止になった。
国王軍の騎竜車も止まっていて、いち早く魔物の存在に気づいたようだ。
「対応早いな。このまま俺たちは車内に残っていて平気そうだ」
「軍なら軽いでしょう、三人もいるし」
騎竜車にいれば安全かどうかは確実ではなかった。
下から車を突き破り襲われたら、かえって危険なのではないかと考えた。
確かに三人居た。
敵は見た目で五匹はいるが、相手の強さがわからない今は比べられない。
トカゲは舌を出して、少しずつ三人を囲んだ。
舌が気持ち悪いのが印象深い。
一匹がまず近くによって来る。
それを軍のひとりが剣で斬りつけた。
体の一部を斬ったのがわかった。
すぐにトカゲは苦しみ出して後退。
今の戦いを見た感じだと、トカゲはそれほど恐れる相手ではなく五匹いたとしても倒してしまうと思った。
それに軍の人はさすがに仕事を授かっただけあって能力は高い。
剣技は相当な切れ味を持ってトカゲを斬った。
踏み込みの速さも俺よりも遥かに速い。
「大丈夫そうね。魔物は軍の方に任せて」
シュナリは慌てて服を着て言った。
「私達は高みの見物としましょう」
トカチは特に慌てることなく座って見ているが、まだ胸は露出されていたのを俺はチラ見していた。
こんな時にみる胸はなぜか魅力的に思えた。
余裕があり見物できていたのは、最初だけであった。
トカゲは尻尾を振り出した。
何の意味があるのか。
「尻尾振ってどうするのかな?」
「尻尾で攻撃するのだろうよ」
チユが不思議そうに言った。
俺は適当に攻撃だろと答えたが違った。
尻尾を速く振り出したら砂が舞い始めたのだ。
砂は辺り一面を覆うようにして舞う。
砂が邪魔する形で軍の三人を囲んだ。
これが狙いだったのか。
「あれじゃ何も見えないのでは、戦えるかしら」
「高みの見物としましょう」
相変わらずトカチは余裕だ。
だが言った通りに戦いの戦況は変わった。
三人はトカゲがどこにいるのかわからないようだ。
そこへ次々とトカゲが襲いかかった。
噛み付かれたのが見えた。
苦しそうに叫ぶ声が聞こえた。
「ヤバイよな、俺らも外に戦いにいこう」
俺がみんなに言うと。
「わかったわ!」
みんなは了解して戦うのを決意してくれた。
楽に勝てる相手ではないのは、見ていてわかった。
それでも戦うのは、三人が殺られたら次は俺たちを標的にする。
その前に応戦すれば数でも有利とみたから。
ただしトカチはまだ胸が露出されたままなのが気になる。
「おいトカチ」
「ん?」
「その……服を着てくれ……」
「この方が進君が喜ぶかなて、出しっぱなし好きでしょ」
「いや、好きかって……。と、とにかく着てくれ……」
「はいよ」
トカチはようやく服を着た。
出しっぱなし好きでしょと聞かれた時は返事に困ったが。




