第4話 人外の死闘
「ルク・ソール、お前のことは知っているぞ。王国で唯一まともに戦えるやつだと報告を受けていた」
振り下ろした杖を受け止められたままの体制でベガが口を開く。
「だが、余には及ばん、死にに来たのか?剣聖よ」
聞いただけで人を殺せそうな冷たい声色でベガがルクへと問いかける。
「違うな・・。俺は王より命を受けてお前を倒しにきた、死にたくなければ帝国へ帰れ。これは警告だ。」
鋭い眼光でベガの瞳を睨みつけ、ルクは挑むように声を発した。
ルクは分かっていた。相手がアユキが奪取したデス・ベガリオンの設計図の奪還のために王国へまで追いかけて来たことを。そして自身もその設計図を見たからこそ確信していた。あの設計図だけは死守しなければならない。でなければ3年以内にこの世界はジェネシス帝国の手に落ちるであろうと。
「そういうわけにもいくまいて。仕方ない、貴様を倒して余は前に進むことにする」
ベガがそう声を発し、素早く杖を再び振り上げる。
ルクは剣を持っていなかった方の手ですぐ後ろで倒れていたナコイールを掴み、一飛びでベガと距離を取った。
「誰か、こいつを後ろへ連れて行ってくれ。それと全員100メートル以上は離れてろ。俺の邪魔だ」
近くにいた団員にナコイールを預け、ルクは散らばっている団員に離れているよう指示を出した。剣聖と呼ばれる自分でもベガが相手では団員を守る余力はない。大きな口を叩いたみたものの、実のところルク自身も死闘になるのは分かっていた。
「剣聖相手だ。余も少しは本気を出そう」
言うがいなや、ベガは身の丈ほどもある火球を1000個ほど空中へと生み出し、躱せないようにとルクとその周囲へと落とした。まるで隕石が無数に落ちるかのような光景が広がり、着弾とともに大地が大きく揺れ、そして表土は抉り取られる。当たりには煙が立ちこめ、また草に燃え移った火が炎熱地獄を生み出している。
「これが、本気?この程度で本気なら拍子抜けだな」
煙の中から姿を見せたルクは、もちろん無傷だった。先に自身に当たる火球を野球選手のように持っていた剣で打ち返し、更に迫りくる火球と衝突させ消滅させる。圧倒的な技量に支えられた神業で攻撃を凌いでいた。
「余の攻撃を防ぐか・・王国に置いておくには勿体ないな。余の元へ来れば厚遇を約束しようぞ」
また新たに氷の矢と火球を空を覆うほど生み出しながら、ルクへ勧誘の言葉をかける。
「興味ないな。仕える相手は自分で決める。そしてそれがお前になることは・・
大剣を腰だめに構えベガに返答しながら、ルクは右足で地面が陥没するほど踏み込み、次の瞬間ベガの目の前に現れた。
・・・永遠にない!」
言い終わるやいなや構えた剣を横薙ぎに振るう。
ベガは持っていた杖で剣をガードしながらも大きく吹き飛ばされ、両足で地面をこすった結果、線路のレールのような足跡ができることとなった。
怒りの表情を浮かべたベガが吠える。
「ならばそこで死ぬがよい!」
持っていた杖を天に掲げた後、ルクに向かって振り下ろすと空を覆っていた魔法の数々がルクに向かって降り注いだ。
「数が多いな、厄介だ」
大剣を背中に背負うと、ルクは懐から懐中電灯のようなものを取り出した。
「王と共にあらんことを」
一瞬目を瞑り、自身を奮い立たせると取り出したもののスイッチを入れる。懐中電灯のようなものから緑色の光がまっすぐに伸び、それは一本の光の剣と化した。王国騎士団総帥に代々受け継がれる魔法具「ヒカリセーバー」である。刀身が光で出来ているレーザー刀であるため、重さがなく、素早く振るうことができるのである。
迫り来る魔法を手に持ったヒカリセーバーで切り裂きながらルクはベガとの距離を詰める。
対するベガもヒカリセーバーの脅威を感じてか、放つ魔法を増やし始め、ベガとルクを中心に半径100メートルには雷が落ち、炎の竜巻が吹き荒れ、氷の槍が断続的に降り注ぐまでになっている。
ヴォンヴォン!鈍い空気を切り裂く音をさせながら今もまた自身に迫っていた火球を切り裂いたルクは思考を加速させる。今のままでは距離を詰められない。ジリ貧になる。ではどうするべきか。クソッ!
また、膠着状態となった戦況に自身の魔力切れの可能性を危惧したベガもルクへと声をかける。
「盗ったものを返すのであれば、今回は引いてやってもよい、お前なら知っているだろう。お前たちが盗ったものがどれだけ帝国にとって大事なものかが」
「そういうわけにもいかない。あんなものを見てしまえば見逃すことなんてできない。世界を支配することができるものだ。その気が無いと言われたとしてもジェネシス帝国にその独占を許すわけにはいかない!」
天より降り注いで来た雷をヒカリセーバーで切り裂きながらルクは声を張り上げる。設計図を返し、今を乗り切れたとしても、近い将来必ずそれ以上の不幸が訪れる。それだけは阻止しなければならない。
「否定はせぬ。我らはあの力を持ってこの世界を統一する。そしてその覚悟、力が我らにはある。余はそれを統べる王、設計図を他国へと渡すわけにはいかぬ」
攻撃の手を休めず、淡々とベガは言う。
「どうしてそんなことを!お前たちは十分強いじゃないか!周辺国で最強はジェネシス帝国だ!あんな兵器はなんの意味もない!」
「他者より強く!他者より先へ!他者より上へ!今がそうでなくとも人のエゴは必ずあの兵器の発明へとたどり着く。そうなってからでは遅いのだ。我々が作り、そして余が世界を統一する。泥沼の殲滅戦争へと移行する前に手を打たねばならん」
冷酷な態度を頑に崩さなかったベガが真剣な目をしてルクへと思いを打ち明ける。自分は世界のために行動しているのだと。
「それはお前の理屈!人間はそんなものじゃない」
ルクはベガの言葉を否定しながらもヒカリセーバーを振るい続ける。高速で振るい続ける腕にはかなりの負荷がかかってきており、段々と腕が動かなくなってきているのを感じていた。
「何が違う?なぜ違う!お前たちの国にもいるはずだ。ジェネシス帝国が憎くて仕方がないやつが!5年前の我が帝国と小競り合いになった貴様らの国の民にあの設計図が渡ればどうなる?復讐に動くだろう!」
ベガの魔法はより大規模に、より数を増やし、その総数は10000に届こうかというところまで広がっていた。
「そういうものは俺が食い止めるさ。お前らとは違うんだ!王国は」
重い腕を必死に動かし、粘り強く防御に徹し、決定打を避け、そして時折放つ反撃を避けられながら地形を変える程の激戦を繰り広げていると好機はやってきた。
「総帥! 第2騎士団長クレア以下10名、加勢します!」
「同じく 第3騎士団長タカ以下10名、加勢します!」
部隊編成を終えた、騎士団長2名とその配下20名、計22名の援軍が到着した。
「いいタイミングだ、正直助かった」
ルクが戦いながらそう俺達に声をかけ
「俺がやつの攻撃の注意を引きつける。お前たちは全員ベガを狙ってくれ!」
と指示を出した。
「総帥、俺の部隊はどうなりました!?」
部下の安否が気になっていた俺は思わずルクに質問をした。
「お前の副隊長と何人かはあっちで寝ている。他は知らん。こいつを追い払ったあとにそいつらに聞け、だから早く指示通りに動け!」
「了解です!第3騎士団はベガの右側に配置しろ!クレアの合図で一斉攻撃だ!」
連れてきた部隊に指示を出しながらも俺の頭は、ダンジョン近くにいるはずの仲間でいっぱいだった。
「第2騎士団準備完了だ!タカ!そっちもいいな?・・・攻撃開始!」
やや距離を取って開始された一斉攻撃はルクに注意向いていたベガには通用こそしないものの注意を逸らすことには成功した。
攻撃に気付いたベガは右側への攻撃を氷の防壁によって防ぎ、左側への攻撃を杖を片手で回転させることで防いだ。
そこへ正面ががら空きとなったベガにルクがヒカリセーバーを投擲し、ベガの腹部に深々と突き刺さった!
「ぐっ、この下等生物が、よくも余に傷を・・・ぐっ」
憎悪の目でルクを睨むも、傷が深いのか膝をつくベガ。
「今だ!ベガの首を取れ!」
好機と見たルクが全軍に指示を出すと同時に空からベガの隣に1人の強者の風格を漂わせた戦士が降り立った。
「ベガ様、一時撤退をしましょう。こうなっては不利です」
「ガンリュウ、すまぬ。不覚を取ったようだ。運んでくれ」
「おおせのままに」
ベガにガンリュウと呼ばれた男はベガの肩に手を置くと帰還魔法の詠唱を始めた。
「覚悟しておくことだ。ジェネシス帝国はグリード王国へと宣戦布告をする。今回設計図を渡さなかったことを後悔するがいい」
帰還魔法の光に包まれながらベガは最後に宣戦布告と捨て台詞を吐き捨てた。
なんとかベガの撃退には成功したのだった。




