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Lost Regalia  作者: ☆たか☆
第1部 新たなる希望
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第15話 アルゲネロンの巣⑤

 戦況は圧倒的に不利であった。

 今までの階層と比べて、目の前に存在するアルゲネロンは100体ほどと数こそ少ないが、攻略法が分からない。そして、俺とエヌはともかくとしてギョーウですら攻撃が通らないとなるとお手上げだった。

 必死にアルゲネロンの振るう大剣を躱し、そして防ぐ。

 

 俺は1人土魔法で空中に足場を作り、アルゲネロンの頭上へと避難した。さすがにここまでは追ってこないだろうという見立てから空中へと逃れたが、それは誤りだと直後に気付く。俺を見上げたアルゲネロンたちは持っていた大剣を俺目掛けて投擲し始めた。咄嗟に氷魔法を下に展開し、防壁とするもやつらの大剣はそれを突き破り、俺へと迫る。空中で次々に足場を展開し飛び移って避け続けるしかなかった。的当てゲームやってんじゃねーんだぞ!俺は心で絶叫しつつも、魔術師であるが故に接近戦は苦手だ。逃げ続けるしかなかった。


 エヌは身の丈ほどの十字架を器用に振り回し、アルゲネロンの集団の中で踊る様に戦っていた。2体のアルゲネロンに攻撃をされれば、十字架の交差した部分で受け止めると同時に飛び蹴りを放ちアルゲネロンとの距離を稼ぐ。だが、一向に有効打を与えられる気配がない。闇魔法「ドレイン」を用いて自身の体力を回復させつつ、ひたすら時間稼ぎに徹していた。


「タカ、まずい。ジリ貧だ。一度ボス部屋から出た方がいい!」

 俺も同じことを考えていた。エヌが叫んだことをきっかけに俺も決心がつく。一度撤退しようと入ってきた扉を見れば堅く閉ざされ、その前には20体ほどのアルゲネロンが待ち構えていた。


「だめだ!出られない!閉じ込められた!」

「ふざけんなーーー!」

 俺が上から見た光景を伝えるとエヌの魂の叫びが聞こえた。


 そんな中、ギョーウだけは意外にもそこまで苦戦はしていない。確かに自分の攻撃は敵には通じない。だが、彼女には最強の下僕、ネロちゃんがいた。身に迫る危険にはいち早く対応し、襲いかかるアルゲネロンとは果敢に戦い、複数を相手取ろうが卓越した剣捌きを見せて切り捨て、光へと変える。唯一の有効打を与えられるネロちゃんのプリンスの名は伊達ではなかった。だからギョーウも必死に鞭を振るう。ネロちゃんにご褒美をあげてやる気を出させるために。


 30分ほど戦い続けて、俺は奇妙な感覚を覚えた。何かがおかしい。ネロちゃんが次々とアルゲネロンを撃破しているのに、アルゲネロンの数が減ったように感じられないのだ。大剣の弾幕ゲームを躱しながら注意深く観察するとあることに気付いた。一定間隔で中央から新しいアルゲネロンが生まれているので有る。


「エヌ、アルゲネロンがどんどん生まれてる。多分手がかりにあった永遠っていうのがこれだ」


「だとしたら本体がいるはずだ!それを探すしかない」

 俺が状況を報告すると間髪入れずにエヌが返す。まるで長年パーティを組んで来た冒険者のような息の合い様に場違いにも嬉しくなる。目を凝らして本体を探すも本体らしきアルゲネロンはいない。そもそも虚像というヒントがあったにも関わらず彼らは実体を持って俺達を襲ってきている。俺達の謎解きが間違っていたのかもしれない。やはり、最後の手がかりを手に入れてから挑むのが正解だったか。

 永遠にも続くような戦いに俺達の集中力は欠け始め、攻撃を躱し切れなくなった結果、俺とエヌは少なからず切り傷を負い始めた。それを見たギョーウが叫ぶ。


「ここは私とネロちゃんに任せてください!お2人は私たちの後ろへ」

 若い女の子に庇われることのなんと情けないことか。だが意地を張ってもどうしようもない。素直に俺とエヌは彼女達の後ろへと撤退した。


「ネロちゃんこいつらくらいやれるよね!この戦いが終わったら三角木馬買ってあげる!」

 ギョーウの激励がネロちゃんに聞こえたのか、他勢に無勢で圧されていたネロちゃんの背中から更に2対の黒い翼が生えてくる。6対の翼を左右に広げたネロちゃんはどこか神々しかった。


「私はキング・アルゲネロン、アルゲネロンの高みへと至りし者」

 ギョーウの推理はある意味で正しく、そしてある意味で間違っていた。プリンスの上に進化はあったが、ネロちゃんがキングになったことによってアルゲネロンの巣のボスがキング・アルゲネロンではないということが明らかになった。


 キングとなったネロちゃんは空中を自在に翼で移動し、次々とアルゲネロンたちを屠っていく。だが、広間を覆うような紫色の光が広間の中央から発せられるとアルゲネロンたちに異変が起きた。


「マケナイ、ユルサナイ」

 敵のアルゲネロンたちに2対の黒い翼が広がり、インフィニットアルゲネロンと化す。戦闘力が格段に上昇した敵のアルゲネロンたちに然しものネロちゃんも苦戦するようになり、決して男と熟女からの攻撃を受け付けないはずのネロちゃんの身体に赤い線が滲むようになってきた。


「ネロちゃん!頑張って!」

 後ろから叫ぶギョーウの応援にネロちゃんは前を向いたまま左手の親指を立てることで応えた。なんか格好よくてムカつく。


「ご主人様に傷1つ負わせない!」

 台詞まで格好よくなってネロちゃんはアルゲネロンたちの元へと挑んで行く。






 

 その頃、図書室での謎解きを任せられたディムとシエラは5冊の本を前に頭を捻っていた。タカたちがボス部屋へと向かった後、2人は取りあえず光っていた5冊の本を集めた。

 『愛する妻と・王家の歴代結婚式』『王家の系譜図』『Hな王国裁判記録』『特別指定危険人物一覧』そして『SとM、熱い情熱の1夜』そう表紙に書かれた本を集めてみたが一体なんの関連があるのだろうか。ただ、グリード王国とはなんらかの関係がありそうだ。


 ディムはまずはと比較的すぐに読み終わりそうな系譜図に取りかかることにした。

 『王家の系譜図』を開き、読み始めるが特に変わったところは見受けられない。ただ、少し古い書物だからだろうか。今から4代前の国王の名前までしかなかった。とその更に前の前、6代前の国王の名前「エイミング・グリード」が書かれている場所に違和感を感じる。紙を上から張って上書きしたかのよな盛り上がりがあるのである。丁寧にその紙を剥がすとそこには衝撃的な名前があった。


 『アルゲ・ネロ・グリード』


「これは!、おいシエラ!この名前ひょっとするとアルゲネロンに関係があるんじゃないか!?」

 慌てたようにディムはシエラを呼びつけ、名前を見せると彼女も驚いたようにこう続けた。


「昔王様っていう手がかりはもしかしたら、アルゲネロンが昔グリード王だったことを示していたのかもしれません、他の書物も調べてみましょう」


 次に『愛する妻と・王家の歴代結婚式』を開き、アルゲ・ネロ・グリードの箇所を探す。索引を使って該当箇所を開くとそこには幸せそうな2人の男女の結婚式の様相が丁寧に描かれていた。


『シト・サンドリオン・グリード』


 それがネロ王時代の王妃の名前だったようだ。だが、結婚式の様子がわかってもアルゲネロンの巣の攻略について何かが分かったわけではない。次の『特別指定危険人物一覧』を開く。ディムは大体予想がついていた。ここに必ずあの名前があると。


『アルゲ・ネロ』


 王族の象徴であるグリード性が剥奪されたその名がそこに刻まれていた。注意深く読み進めていくと看過できない1節を発見する。


『その者、王家の品位を貶めたため王族籍を剥奪される。また後に国宝「茨の指輪」に適合したため、災害指定の危険人物として王国北部の収容所へと送られる』


 どうやらアルゲ・ネロは何か重大なことをやらかして王族から蹴り出されてしまったらしい。となると次に読むべきはこれか、とディムは推測を元に『Hな王国裁判記録』を開いた。

 なんと目に毒な裁判記録だろうか。とある薬屋が嗅がせただけで発情してしまう薬を製作、謝って自分で嗅いでしまい王国中で痴漢騒ぎが起きた話や、酒に酔った勢いで数十人もの男女が裸で大通りをパレードした話もある。そういった記録に紛れて、目当ての記録を見つけた。


『国王の異常性癖についての記録』


 アルゲ・ネロ王についての裁判記録でいいだろう。どうやら、外国へ公務へと赴いた際に王妃であるシトと与えられた客室でSMを楽しんでいたらしい。グリード王を呼びにきたその国の外務大臣に目撃されて事態が発覚。国際問題となり国王の王族籍を剥奪し、その息子へと国を継がせたようである。

 

 だが、まだ分からない。それがアルゲネロンの巣に何の関係があるのだろうか。残る一冊だが正直開きたくないというのがディムの本心だった。それでもやるしかないと彼はその本を手に取る。意外にもその本はSM関係の本ではなく、王族籍を剥奪されたアルゲ・ネロによるその日のことについて書き記した自叙伝であった。


 その日、なぜかは分からないが2人とも唐突に衝動が抑えられなくなったらしい。気付いたら自分は縛られて、王妃であるシトが嬉々として自分に鞭を振るっていたらしい。同時に発見当時も、そして裁判途中ですら誰にも言わなかったそうだが、自分の股間に指輪と思わし気リングがいつの間にか嵌っていたそうだ。時折チクチクと何かが刺さるが段々と快感に変わって行き、取る機会を逃した結果一体化してしまったようだ。そして段々と自分の性癖の暴露へと繋がって行く。アルゲ・ネロはどうやら愛する女性に唾を垂らされるのがとても好きだったらしい。


 自分の時代の王がこんな変態でなくてよかったと思いながらもディムは考える。おそらくこのリングが茨の指輪で間違いないだろう。そもそも茨の指輪とはなんだろうか。


「シエラ、茨の指輪を調べてみてくれないか?」


 幸いにもこの図書室には沢山の本がある。分からないことは調べてから挑むのがディムの流儀だった。


「これですかね?」

 シエラがそういってディムに見せてきた本は神話集のようなもので、彼女が指差すページには「6つの神器とその力」とタイトルが銘打たれていた。


『茨の指輪、それを付けし者の欲望を増幅し、あらゆる手段を持って実現する力をもたらすと言われる神器である。気をつけよ。指輪はその者の精神力を蝕むものでもある。指輪を外すにはそのものが最も愛する者の涙を必要とする』


「これに間違いないな。おそらくここのボスはアルゲネロンではなく、アルゲ・ネロ、アルゲネロンは指輪によって生み出されたアルゲ・ネロの分体だ。おそらくは理性を失ったアルゲ・ネロのただひたすらに様々な若い女性に虐められたいという欲望が暴走した結果だろう」

 ディムが自身の推理を呟くと、シエラが口を開く。


「でも、最も愛する者の涙って、シトって女性の涙ですよね?もう手に入らないんじゃないですか?」


 たしかにそうだ。このアルゲ・ネロたちが人間として生きていたのはもう200年以上も前の話。通常であれば涙を手に入れることはできない。だがとディムは考える。先ほどの石碑にシエラが唾を垂らしたが、本来であればあれはシトという女性の唾液でなければならなかったはずだ。つまり、何かしらのカラクリがある。


 手がかりとなる5つの本をジッと見つめる。何かがここに隠されている。そんな予感めいた直感の元にディムはあることに気付いた。もしかすると!

「これがここで、順番にこう並べると・・・やっぱり!」

 ディムは直感の元に5冊の本を左から並べ直した


『SとM、熱い情熱の1夜』『Hな王国裁判記録』『愛する妻と・王家の歴代結婚式』『特別指定危険人物一覧』『王家の系譜図』、最初の一文字を取っていくとネロの最愛の女性の名前となるSHITOとなる。


 次の瞬間本が光り出し、ディムとシエラの前に1人の女性が現れて2人に話しかけて来た。


「また、挑戦者?今度は大丈夫でしょうか」

 見た目は20代くらいの癖っけのある茶髪が快活なイメージを与える、王妃時代はさぞ優雅に過ごしていたのだろうという印象を受ける。この人がおそらくシト。


「今までにも挑戦者たちがいたはずです。彼らははあなたとは接触しなかったんですか?」

 ボス部屋へと挑んだ冒険者は多くはないがいることにはいる。そう問いかけると彼女は悲しそうに目を伏せた。


「そう、彼らは失敗してしまったのですね」

「どういうことでしょう?」

 ディムが問いかけると、シトは寂しそうに呟いた。


「我が夫は指輪の魔力から抜け出せずにいます。彼らにはそれから解放してほしかった」

「どうすれば解放してやることができるのでしょう?」

 ずばり攻略法という確信に迫る問いにシエラは痛みを堪えるかのような顔で答える。


「物理的に身体から引き離すしかありません。夫のアレと一体化してしまっている以上・・アレを切り落とすしか」

 思わず内股になりながらディムは質問を続ける。

「本には解放するには愛する者の涙が必要だと書いてありました。あれはどういう意味でしょう?」


「指輪の支配は指輪を身体から離しただけでは終わりません。離した後に涙を飲ませることによってその支配から解き放たれるのです」


「アルゲ・ネロを指輪の支配から解き放つにはあなたの涙が必要です。私たちにいただけるのでしょうか?」

 ディムが懐から回復薬用の瓶を取り出して催促すると、シトはもちろんですと答えてそこに涙を垂らした。そしてシトは続ける。


「長らくここに留まり、夫の成仏を願って参りましたがそろそろこのダンジョンへと込めた魔力が切れ、もうすぐ消えてしまいます。もしよろしければ私も同行させてはいただけないでしょうか?」

 特にシトの同行にデメリットは思い浮かばなかったディムは快諾すると、シトを連れてシエラと共に先に戦っているタカ達の元へと向かった。






「ネロちゃん、頑張って!」

 ギョーウの叫ぶ様な応援は変わらないが、戦い続けているネロちゃんの身体は血に染まり、今にも倒れそうだ。それでも主人を失望させまいと必死に命の炎を燃やし、終わりの見えないアルゲネロンとの戦いを続ける。


「ギョーウ、ネロちゃんももう保たない。いよいよ覚悟を決めるときかもしれない」

 俺がそう話しかけると、ギョーウは小さく頷いた。


 とボス部屋の扉がガタンと音を立てて開き、見慣れた2人と見慣れない女性1人が中へと入って来る。


「謎は全部解いた!攻略するぞ!」

 頼もしいディムの声が聞こえ、俺達の反撃の狼煙があがる。


「・・・だから俺達は本体の股間にある指輪をそれごと切り落とし、涙を本体に飲ませなければならない」

 合流したディムから捲し立てるように解説を聞くが、本体の見つけ方が分からないため次の手が思い浮かばない。それを見かねた見慣れない女性・・ディムの話が確かならばシトさんが提案をする。


「私に考えがあります。残り少ないこの身体、なんとしてもお役に立ててみせます」

 そう話したシトさんはどういう原理か分からないが、空中にふわりと浮き上がると広場を埋め尽くすアルゲネロンたちに向かって話かけた。


「ネロ君!大好きだよ!」

 声に反応したアルゲネロンの群れが殺到する中、一体だけなぜか涙を浮かべて微動だにしないアルゲネロンがいた。


「あいつだ!」

 ふとシトさんを見ると実体がないのかアルゲネロンたちが投げる大剣にダメージを負う様子もなく、ただじっと動かないアルゲネロンを見つめていた。

 ネロちゃんに道を切り開いてもらいながら俺達はそのアルゲネロンの本体、アルゲ・ネロに向かう。


「アルゲ・ネロ、お前を救いにきた」

 俺が言葉をかけると、アルゲ・ネロはじっとこちらを見つめて口を開いた。


「もうどれだけの時が流れたか分からない。私は人間でなくなってしまった、今更救われてもなにも私の元には残っていない!」

 そういうが否や、大剣を構えてこちらに突っ込んで来る。とっさにネロちゃんが応戦するが、どうやらアルゲ・ネロの力は相当強く、あのネロちゃんが1対1にも関わらず劣勢を強いられている。

 援護しようとダメ元で俺がアルゲ・ネロの顔に向けて氷魔法を放つと、それを首を横に倒して避けたアルゲ・ネロの頬に赤い線が滲んだ。


「本体には俺達の攻撃が通じるぞ!」

 盾役をネロちゃんに任せて、エヌ、ディム、ギョーウ、シエラ、俺で着実にダメージを与えて行く。身体にいくつもの傷が浮かび、動きが鈍ってきたアルゲ・ネロが突然後方へと飛び退ったかと思うと口を開いて叫んだ。


「嘗めるな!私はあと2回変身を残している!」

 そう叫ぶが否や、アルゲ・ネロは尾てい骨の当たりから尻尾が生え、手からは爪が伸び、髪の毛は金髪に染まった。長らく茨の指輪と一体化したせいか、性質まで人間から遠のいてしまったらしい。


 本当の戦いが始まった。


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