交流4
その日の夜、ウチは悶絶探偵山下さんの最新話を読み、衝撃でスマホ画面をスクロールする手に震えがきた。
……て、天才や!この人……!
青龍シンジさんが書いている『悶絶探偵 山下茂』いうのは、大正ロマン漂う京都で起きる難事件を次々に解決する、美貌の中年探偵が主人公のミステリー。(R18)
この主人公の山下さん、事件解決の仕方が普通やあらへん。
この探偵、推理なんかへったくれもないで?!
容疑者全員を、自身の武器を使って色責めで吐かせるっていう寸法や。
老若男女、関係なくやで?!
そう、悶絶、いうのは探偵やなくて犯人のことなんや。
しかも、毎回、犯人が白状する前にいうお約束の台詞があるんやけど。
『ああっ、堪忍して! 山下さんっ!』
これが基本形。
作者の青龍シンジさんがすごいのは、ここ。
毎回、犯人のタイプによってこの台詞を自由自在に操るから!
例えば、
『……ああっ、かん……にんっ、してっ……や……まし……さ……』
とか、
『あ、ああっ……堪忍っ!……っしてえっ、やまし……たさあんっ!』
とか。
分かる?
この三点リーダー間に秘められた無限の空間の広がり!
探偵の技の数々を読者の想像に委ねようと、我々の妄想力にダイレクトに揺さぶりをかける手法!
三点リーダーの匠と呼ばせていただくで……青龍さん……!
いつかウチもこんなふうに読者の心に揺さぶりをかける作品を書くことが出来たらええなあ。
ほう、と感服しながらウチはR18サンシャインサイトからなろうのサイトに戻った。
戻って、お気に入りユーザーさんの活動報告を確認すると。
本日のヒタチ王子さんの活動報告もかなり飛んでいた。
『Hi! 僕は今、タヒチにバカンスに来ているよ! ここは、まるで楽園のように素敵なところさ。青い海、白い砂浜、輝く太陽、そして……トップレスの美女たち!
Oh! なんて目の毒なんだい! A-ha-ha! 全く、日本のシャイなビジネスマンたちには見せられないね!
そういえば、ムタンガって知ってるかい? 今、セレブの間で爆発的流行中の水着さ!
Year、もちろん僕も着けてるよ。自分自身をさらけ出すということは実に気持ちがいいね! 開眼した気分だよ!
拒否感を覚えるブラザーもいるかもしれないけど。恥ずかしいことでもなんでもないのさ。
ありのままの自分で何が悪いんだい? 今の風潮はナンバーワンより、オンリーワンだからね。
東洋人だからってこれを着けないなんてことは、もったいないと思うね。
民族性による体型の違いに引け目を感じてファッションをあきらめるなんてまったくもってナンセンスさ。A-ha-ha!
……ちなみに、僕のは Big サイズさ。
Aーha-ha!……』
ウチは画面の文面を読むなり固まってしまった。
ビ、ビッグって。
じ、自信がおありなんですね、王子。
うーん、相変わらずのテンションのお人やな。
わかった。こういう人なんやな。この人はこのキャラでいきたい人なんやな。
じゃあ、しゃあないな。つきおうたるわ。
『ところで実は相談事があるんだ。もう少ししたら、ジャパンにいる僕の子猫ちゃんに初めて会う予定なんだけど。デートプランについてよければ少し、アドバイス、もらえないかな?
折角のYAMATO NADESHIKO とのデートを台無しにしたくないんだ。よろしくたのむよ!
では、次の3つのデートプランの中で、君ならどれを選ぶかな?
1 神戸の三ツ星フレンチでランチしたあと、夜はアシヤのSUSHIを嗜むのさ!
2 僕は最近、マッサージを先生にカルチャーしてもらったところなんだ。是非とも、レスポンスが欲しいんだよね。ホテルの僕の部屋で彼女に僕の腕前をたっぷりとサービス披露さ!
3 ミシュランで星をとった箕面山にGOさ! 山頂では、素晴らしい景色とSARUとモミジのTENPURAが楽しめるそうじゃないか。ぜひ、ご賞味したいね。』
……いやいやいやいや。
2番はないでしょう、王子。
なんすか、いきなり個室で二人っきりでマッサージって!
一体、どんなマッサージされちゃうんですか? て感じじゃないですか。
その後の展開もなんか想像が……。ついちゃうんですけど。
1番もなあ。
すごく魅力的やけど、値がはりそうやなあ。
なんだか悪くて、食事を純粋に楽しめなさそうやし。
3番がええんちゃうかな?
みんなどんなコメントしてるんやろ。
チェックしたら、コメンターはまだ二人しかいなかった。そのうちの一人はフルフルBEY大佐。
『どの道を選ぼうと人は結局、皆同じ道をたどるもの。某、覚悟はとうに出来ております。好きな御仁とご一緒出来るなら、死に場所に差はなし』
……また死に場所の話?
もう一人は「青唐辛子」さん、ていうユーザーさん。
『ム、ム、ムタンガですって!?
……あ、ああっ、堪忍してヒタチさんっ!!』
あはは。
この人も「悶絶探偵 山下茂」のファンなんやな。こんにちは、同志!
ウチは笑いながら早速、文字を打ち出した。
『こんにちは! タヒチ王子!
私は3番のデートがいいと思いますよ。健康的で明るくてかわいい素敵なデートやと思います!』
返事はメールですぐに来た。
『Ha-ha-ha! おっちょこちょいだね、子猫ちゃん! 僕の名前はヒタチだよ!
タヒチにいるなんて言っちゃったものだから、紛らわしかったかな? A-ha-ha!……』
あーっ!
ホンマや。間違えてタヒチ王子、って打ってしもうたわ。
ごめんなさい、ヒタチ王子。
『そうだよね、奥ゆかしいYAMATO NADESHIKOには少々、二番は情熱的すぎたかな?
OK! では〇〇駅前の行基前の9時出発で3番のデートコースに決定さ!
まあ、コースがどうあれ、エモーションが止まらなくなったらその時はどうしようもないんだけどね。
A―ha-ha!』
エモーションて、どういう意味やったっけ……いや、それより。
王子は関西人やったんですか。
行基がおる駅、って言ったらウチの住んでる近辺ですやん。
意外にめっちゃ近いところに住んではるのかな、と考えていたウチはまた別の人からメールが来ているのに気づいた。
『こんばんは。この間の僕の作品に感想いただきましてありがとうございます。僕、あんまり感想なんていただいたことないので嬉しいです。necoさんには本当に元気をもらって、お世話になっております。
といいますか、僕、ここまで交流しているユーザーさん、necoさんだけですからね。(笑)
こんなにメッセージを送らせてもらってるの、necoさんだけです。(笑)
いつも相手をしてくださってありがとうございます。
それでは、今回も本当にありがとうございました。necoさんの次の作品、楽しみに待ってますね。
カーネリア 』
ウチはすぐに返事をかえした。
『今回のカーネリアさんの作品、面白かったですよ。あんな作品も書かれるのだな、と意外でした。
私の方こそお世話になっております。
カーネリアさんからメッセージいただけるととても嬉しいんですよ。
実は私、男友達がいなくて、彼氏や職場の先輩以外の男性とメールでやり取りするの初めてだったんです。新鮮でとても楽しいです』
すぐに返事がきた。
『じゃあ、僕はキツネですね』
キツネ?
……はて。
ウチは首を捻った。
なんのことや?
キツネが話題に出たことなんてあったっけ。
ウチはカーネリアさんとのメールでのやり取りを思い返してみた。
キツネの話題なんてしたことないぞ……と…… あ、あっ!
初めてカーネリアさんから感想をもらった、星の王子さまをテーマにしたエッセイのことをウチは思い出した。
キツネ! 星の王子さまのキツネ……!