誕生日三週間前〜交流〜
実家からマンションに帰って、風呂に入った後、ウチはいつものようにパソコンに向かった。
恥ずかしくて誰にも言ってへんけど、実はウチはポエマー。
昔から、詩を書くのが趣味で大手の小説投稿サイトに思いつくままに投稿しとる。
最近は好きな本についてのエッセイもどきも投稿してみた。
ウチの作品は全然人気ないから、読者さんからは、ほとんど反応は返ってこおへんけど。
それでよかった。自己満足的なものの方が強かった。
ビール片手に投稿サイトにアクセスしてマイページを見たら。
赤文字で、新着メッセージが一件あります、というのが見えて、ウチは目を見開いた。
誰から?
受信ボックスを見ると、感想返信通知、という文字。
ああ、そうや。ちょっと前にかわいいSF短編を読んで感想を送ったっけ。その人からの返事かな。……
開いてみたら。
『Hi! やっと会えたね、仔猫ちゃん!』
ウチはビールを吹いてもうた。
な、な、なんや、このヒト?
『始めまして。君が僕のこの作品に感想をくれたファン第1号だよ。Ha−Ha−Ha!
僕の作品を気に入ってくれたみたいで、とても嬉しいよ! ありがとう!
君に指摘していただいた誤字箇所はすぐに修正させていただくよ。
本当に日本語って難しいよね。
これから是非ともお付き合い願いたいな。
早速、お気に入りユーザー登録をさせていただいたよ!
Ha−Ha−Ha! 』
始めましては、初めまして、やで。
……や、なくて。
何このヒト?! 辻仁成? オザケン?
ウチはあわててマイページに戻り、逆お気に入りユーザーを確認した。(自分のことを気に入ってお気に入り登録をしてくれるユーザー数のことや)
ユーザー数が0やったのに、1になっとった。
あわててユーザー名を確認すると。
ユーザー名は『HITACHI王子』!
ウチはすぐさま、その名前をクリックしてその人のページに飛んだ。
プロフィールに目を走らせると。
〜某国の王子。
非嫡出子のため、王位継承権はなし。
現在、ドバイにて遊学中。
日本には短期留学の経験あり。
趣味はラクダレース。
主にサンシャインの方で同名で活動中。
オトナな仔猫ちゃんたち、待ってるよ!〜
……ネタ?
そういうネタなん?
ウチはしばらくの間固まって、ヒタチ王子さんのページを見つめた。
このサイトでのヒタチ王子さんの投稿小説は、ウチが感想を送った短編SF一作しかなかった。
サンシャインでの活動が主か……。
サンシャインとは、18歳未満お断りのオトナの投稿小説界。
……実はウチは何回もあちらの世界に行ったことがある。
だ、だってもう30歳やで? エエやろ? たまに読みたくなるときってあるやろ?
躊躇したけど、ウチは好奇心が抑えきれずに、えいっ、とサンシャインのサイトに飛んだ。
「あなたは18歳以上ですか」
と出てきた文にドキドキして、はい、をクリックする。
ちょっとピンクが入った背景にやっぱりドキドキしながら、ウチは検索に「HITACH王子」と入力した。
画面が変わった。
『ハードS専門』
目に入った文字にウチは一瞬、ブラウザバックしようかと迷った。
こ、怖い人なんか?
いや、もとい、怖い作品を書く作者さんなんか?
投稿小説はいくつかあったけど、題名は全て英語で、意味がよう分からんかった。
ウチはウロウロと画面上をポインターで行き来したあげく。
思い切って活動報告をクリックした。
……えええええ!?
驚いたんは報告の内容やなくて、コメント欄やった。
すごい……大物作家さんからのコメントばっかりや……!
あっ、カジキストレート先生。
(サイケな名前の先生やけど、悲恋を書かせたら右に出るものはない官能系文学小説の第一人者や。代表作『マスの水煮は飲み干さなければならない』は缶詰工場で働く青年と工場主の娘との身分差の恋を、ストライキやアカ狩りで荒れる激動の時代を背景に描いた壮大な物語でな。工場での背徳シーンは鼻血噴出ものやった。『今夜は月が……』という手紙はアカ同士の暗号でもありながら、主人公が別れたヒロインへ送ったメッセージでもあって……アカン、思い出すだけで涙が)
えっ、青龍シンジ先生も……!
(『悶絶探偵 山下 茂』っていう、相手の額にYESかNOという文字が見える美中年探偵が主人公の耽美な話を書いてはる。相手の額がNOでもバンコランみたいに押し倒して、寝技で犯人に自供させる、っていう推理もへったくれもない官能系探偵小説。犯人が毎回自供する前にいう台詞、『ああっ、堪忍してっ、山下さん!』はファンの中では合言葉や)
ウチはあまりのメンツに興奮してしもうた。
……ところで、肝心のコメントもコメント返し内容も。
ウチにはよう分からんかった。
きっと皆さん、ものすんごくエロい内容を語ってはるんやと思うけど。
専門用語? すぎるのと、英語やフランス語? も交えて語ってはるさかい、ウチにはちんぷんかんぷんやった。
こ、これが、大人気作家さんの世界か……。
ウチは圧倒されてもうた。
ごくり、と唾を飲んでウチはマイページに帰った。
いやらしい考えやけど、もしかしたらHITACH王子さんつながりで、大物作家さんとお近づきになれるかもしれへん、と思ってしまったんや。(人間だもの)
HITACH王子さんの名前をクリックして。
ウチはお気に入りユーザー登録をした。