誕生日一ヶ月前 〜女友達〜
久しぶりにウチは、友達のキエコちゃんとユミちゃんに会った。
コーヒー飲み放題の喫茶店で『店潰す気で飲もうや』て、三時間喋り通した。
友達の一人、キエコちゃんはシングルマザーや。
マンションを買って、子供と二人暮らし。
魅力的なコやから、男の人からお声がいつもかかる。
でも、キエコちゃんはそんなんを一切無視して、趣味のサーフィンに今はハマっとった。子供を連れて毎週末は波乗りに海へ行くらしい。キエコちゃんは人生充実しとっていきいきしてて、ウチから見ても素敵やった。
もう一人のユミちゃんの主な話題は。
いつものことやけど、何人目かになる新しい彼氏のハナシやった。
ユミちゃんは本当に男が切れん。毎回、前の彼氏と別れたしりから新しい彼氏と付き合うとる。
「それ、どうやったらそうなれるん?」
ウチが聞くとユミちゃんはこう答えた。
「次の彼氏と付き合うようになるまでに、とりあえず今の彼氏をキープしとく」
ま、まあそりゃそうなんやろうけども。だから、そうなるんやろうけども。
ユミちゃんの答えにウチは感嘆の溜息をついた。
「フットワーク軽いね」
「うん……なんちゅうか……常にギラギラしてるね、ウチ」
ギラギラしてる!
「名言やね」「名言やな」
ウチとキエコちゃんは顔を見合わせて頷きあった。
そうか。ウチもまだ若い頃はギラギラしとくべきやったかも。若いときはギラギラしとってもまだ若いから、若いゆえに許されるっちゅうか。
「マコはどうなん? もう十年目やろ。そろそろ結婚の話でてへんの?」
ユミちゃんが聞き返してきた。
「いや、全然」
「十年か、長いね。よう頑張ってるなあ」
キエコちゃんがそういったけど。
なんかよう知らんうちに年月が経っていただけや。
「でも、最初の人で終わってしもてええん?」
キエコちゃんの言葉にウチはどよん、と心が曇った。
19の時に出会って付き合って、ウチと向こうはホンマにお互いだけしか知らん。
「いや、そんでええって。下手にほかの人知ると比べてまうし。際限なく、他にもっとエエ人おるんちゃうかな、て次々いってまうから」
と、ユミちゃん。
ウチに意見くれる人は2パターン。
若いうちに遊んどかな! 結婚したら遊べへんで! (遊ぶ、という意味があやふやですがな)
と、言う人と。
そのままでいったほうが幸せや。比べようがないから。
という意見の二つ。
こ、心が揺れますがな。
「ほんまに知りたかったら、男友達の一人に一晩、頼んだるで。好みのタイプ言ってくれれば」
うおう! ちょ、直球やな。一晩、て。ユミちゃん。
「い、いやそれはええわ。さすがに」
初対面の相手で、ちょっとそれは。
「そう? 他の人はどんなデートをして、どんな事話して、どんなモノ持ってて、どんな風にシて……て、いうのを自分、知りたいんちゃうん?」
ユミちゃんがふふん、とウチをのぞき込む。
う……そ、そのとおりや。
ユミちゃんはウチと違って、男友達がようけおる。(ウチは一人もおらん)
仕事や遊びが遅うなって、たまに家に帰るのがめんどくさいときとか、その時に一番近い男友達の家によく泊まったりしてる。(……そ、そういうときって、その友達とは交渉アリなんやろうか、ナシなんやろうか? 聞いてみたことないけど。友達とはいえ、女が家に泊まったりしたら男はそんな気にならへんのか? ウチが男やったら絶対シてもいいもんやと思うで?)
「まあ、今のままいって相手とゴールしてしまったとしても、間違えたと思ったらリセットきくから、大丈夫。私みたいに。手続き、面倒くさいけど」
経験者のキエコちゃんの言葉に、そ、そうやな、とウチは答える。
「男と話すだけやったら、ネット友達とかは? 割と楽しいで?」
ユミちゃんが言った。
「ウチ、この間結婚相談所入会してんけど。おもろいで?」
「結婚相談所?! ユミちゃん、そんなん入ったん?!」
ウチはびっくりして、大きい声をあげてもうた。
彼氏、おんのに?
「彼氏がおってもそれとこれとは別や。常にアンテナはっとかなな」
ホンマに、ギラギラやな!
「それ、どんな風なん?」
「まあ、プロフィールとか、好みの相手の希望とかいうたら、向こうが合いそうな相手を紹介してくれんねんけど」
ユミちゃんが説明してくれた。
「その相手とチャットで話し合って、気に入ったら『もっと話したい』ていうボタンがあってやな。それを、ぽち、と押すと向こうに伝わって……」
『もっと話したい』ボタン!
「それで、向こうもOKやったら、もっとおしゃべりできるようになってやな……それでええなあと思ったら、今度は『もっともっと話したい』ボタンがあってやな……」
『もっともっと話したい』ボタン!
「なにそれ、めっちゃ楽しそうやな」
聞くだけでワクワクするようなつくりやな。
「一回、マコも入会してみたら? お金、痛かったら退会すればええし」
と、ユミちゃん。
「そこまでしたくなかったら、趣味のサイトで気楽に友達作るくらいならええんちゃう? 」
と、キエコちゃん。
『あ、出会い系は怖いからやめとけや』
二人の声がそろった。
そうやな、とウチは適当に流した。
それからウチら三人は、コーヒー5杯飲んで、ケーキ食べて。
少し気持ち悪なって解散した。