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ガールズトーク

「というわけで。会うまでには至らんかったんや」


 ウチはプール横の喫茶店でキエコちゃんとユミちゃんに報告した。

 ウチの背後に見えるガラス張りのプールには、キエコちゃんの五歳の男の子が水泳教室中やった。キエコちゃんが気兼ねなくウチらとおしゃべりを楽しめる数少ない機会や。


「外人なんかな、その人」


 キエコちゃんが話に面白そうにのってきた。


「いや、言うてるだけやと思うけど」

「外人言うたら……ぶっ、キエコちゃんのあの話思い出すわ」


 アッハッハッ、とユミちゃんが笑った。

 ウチもつられて思い出し笑いしてもうた。


「いや、だから、アレはホンマにすごかってんて」


 キエコちゃんがまたあのとき(・・・・)の話を始めた。


 ――キエコちゃんがハタチ位の時や。

 関東の学校に行っとったキエコちゃんは、少し五月病になって、学校サボって日比谷公園でベンチに座ってボーッとしてたことがあったんやて。そしたら、外人の男の人が話しかけてきて、隣に座った。


ミーも日本に来たばかりで、知り合いも少なくて、寂しいんだ、少しブルーなんだ……』


 とかなんたらの話にキエコちゃんが適当に返しているうちに。


 気がついたら、キエコちゃんはその人にチチ揉まれとった。


「何度もいうけど……いや、普通気がつくやろが!」

「それが全然気がつかへんねんて! 滅茶苦茶、自然やねんて! 知らんうちに胸に手があってんて!」


 アッハッハッ、とユミちゃんは笑い続ける。


「嫌っちゅうか、怖いっちゅうか、それ以前にウチ、感心してもうてな。逃げるのも忘れてあっけにとられたわ」

「すごいなあ、さすが外人さんは手慣れとるわ。何人なにじんやったっけ?」

「ネバーランド人」


 ……それ、ピーターパンのいる島ちゃう?


「……いや、ネアンデルタール人やったかな?」

「ちゃうやろ、それ」


 ……うーん、オラン◯人さんやったんかなあ。


「とりあえず、めっちゃ男前さんの外人さんでなあ。顔に見惚れてたんも、気づかんかった理由かも」


 キエコちゃんは笑ってクリームソーダを一気飲みした。

 キエコちゃんは昔ながらの楚々とした大和撫子みたいな外見で、外人受けするんや。

 よく今でも外人さんからナンパされとる。


「そういえば、覚えとる? 中学の時一緒やったミイちゃん。この間結婚してんて。相手は十年間、ずっと今まで男友達でおった人。相手に告白されて三か月で結婚やで」


 キエコちゃんが思い出したように言った。


「男友達から一気にダンナか。そんなにすぐ変わるもんなんかなあ。ウチには分からんわ」


 ユミちゃんは美味しそうにソーダ水を飲み続けとる。

 ウチはずっと心で思っとったことを白状した。


「なあ、男の人相手に、本当に純粋に友達になれるんやろうか?」


 はあ? と二人はウチを見た。


「……あると思うで。男女間に友情はない、とか言われてるけどな。お兄ちゃんとか弟とか、その感覚の、それに近い感じで」


 ユミちゃんが答えた。


「ウチは……もしそんな人が居ったら、絶対にその人としてしまうと思うねんけど」


 と、ウチは続けた。


「ウチ、男友達がおらへんからわからんけど、もしおったら、てずっと考えとってん。ウチの場合……まあ、ユミちゃんとキエコちゃんぐらいウチにとって仲のええ好きな人で。それが男の人やったらやで。恋愛の好きとかでなくてもやで。だって……男の人やねんで? ……ウチやったら、したくなると思うねんけど」


 二人は何も言わんとウチの顔を見つめた。

 お、おかしいこと言うたやろか。


「キ、キエコちゃんとユミちゃんとヘンなことしたいとかそういう意味やないで。二人は女やもん」


 あせって、ウチは言葉を付け足した。

 とたんにキエコちゃんが爆笑した。


「そ、そんなに、男の人すべてをイヤラシイ目でみんでも……」


 くくく、と笑いながらキエコちゃんが苦し気につぶやく。

 ユミちゃんは笑わんかった。怖い顔して、ウチを見つめ続けてた。


「ユミちゃん?」

「マコ……。あんた……」


 ユミちゃんがウチに顔を近づけた。


「あんたは……真の男好きなんやわ」


 なんやて?


「今までウチはあんたのことを男慣れしてない、いけすかん清純派の女やと思ってたけど、違ったんやな。ホンマもんの男好きなんや。ウチのレベルどころちゃう。……あんたが男友達今までおらんでよかったわ。もしあんたの本性が男にばれとったら、無人野菜売り場状態やったで。ああ、良かった、ホンマに良かったわ……あんたは、一生、男友達つくらんでエエ。いや、一生作ったらアカン!」


 ユミちゃんが真剣な顔でウチに言う。


「あんたは男相手を友達にはできへん女なんや。絶対に。奴隷を一人の人間としてみられへん貴族と一緒や。一人の人間として見る前にあんたは男を男としてしかみられへん人種なんじゃ!」


 そ、そうなんか!

 聞き様によっては、偏見で凝り固まった、人間としてアカン人みたいやな。


「ウチが間違うとった。……あんたはもう、ヘンな失敗する前に、ちゃんとした所で決めてもうた方がエエ」


 ユミちゃんはウチの肩に手を力強く置いた。


「結婚相談所に入会せえ!」




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