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8.救助

 のんびりと帰るつもりだった。実際、朝はのんびりと起きてゆっくりと朝食を取りアクアと遊んでから帰りの途に就いた。ゴブリンやウルフとは動きたがったアクアが戦っていたし、のんびりと帰っていたはずなのに……。

 気が付いたのは四つの反応。一つの反応を三つが囲んで移動していた。


「真ん中が人の反応っぽくて三つがゴブリン、進行方向にはゴブリンの集落……。苗床確保か。気が付いたなら助けるべきだよな」


 進路を変えてその反応の進行方向を塞ぐ位置へまずは移動して正面から突っ込む。とはいえバカ正直に突っ込むわけじゃない。ギリギリまで幻術を使って姿を隠し、近づいてから幻術を解く。

 ゴブリンは急に現れた俺に戸惑ってるうちに前の二匹を魔法で倒した。後方のゴブリンは幻術で最後まで姿を隠してたアクアの一撃で倒した。

 ゴブリンに運ばれてた人はそのまま落ちた。ゴブリンの身長が低いので抱き留めるような事ができず助けようがなかったのだ。そんなに高い位置でもないし大丈夫だろう。


 その女の子は小柄ではあったが、胸は育っていた。巨乳とまではいかないまでも一歩手前くらいだろうか? 金色の髪を腰のあたりまで伸ばし新人冒険者装備セットの魔法使い用である野暮ったいローブを着ていた。

 状態を確認すると後頭部から血が出ていたのでヒールで治した。それ以外には外傷らしい外傷はないので、おそらく後方から不意の一撃を頭にもらってそのまま気絶したって所だろうか? ゴブリンの方が小さいとはいえ上段から棍棒を振るえば小柄な彼女の頭に当たったという事だろう。


 それで助けたのはいいけど、この後どうしよう? 目覚めるのを待つ? それとも抱きかかえて王都に戻る? この子の仲間を探す? 

 ……この位置からは人の反応がない。でも、来た方向は分かるわけで……。ふいを突かれたとはいえゴブリンが人を運ぶ足はそれほど速くないのですぐに追いつけるはず。それが追いかけてすら来ないと言う事は追いかけられない状況か、見捨てられたか……。


 もう一度女の子を見てみる。目をつぶってはいるが美少女と言っていい容姿をしてる。こんな可愛い女の子がこんな野暮ったいローブを着ているなんてなんて勿体ないのだろう。中に来てる服もズボンにシャツと実に実用的で可愛らしさのかけらもない。勿体ない。勿体なさすぎる。アクセサリーの一つくらいはつけるべきだ。

 普段着はもっとオシャレな物を持っているのだろうか? 新人冒険者ならそれは厳しいと言わざるを得ない。ロゲホスの毛皮でだいぶ稼げるはずだし、この子の為の服を縫ってあげるべきではないだろうか? いや、縫って着せるべきだ。

 俺はこの子を助けたのだ。着替えを見せろという訳ではない。俺の作った服を着てもらうだけだ。それくらいの要望は聞いてもらえるだろう。


 …………今考えるべきはそういう事ではないと思い直した。着てもらうのは確定事項として、これだけの美少女を放置するとは考えにくい。女の子同士だったら別かもしれないが……。ここでこうしてても仕方がないし、まだ目を覚ます様子もない。

 とりあえず、この運ばれていた美少女が来た方向に行ってみる事にした。出来ればおんぶがいいが乗せるのも大変だしアクアがいる。背中に感じる役得は諦めてお姫様抱っこで運ぶことにした。




 なるべく気を付けて、出来る限りの速度で美少女が来たであろう方向に進んでいく。だが、ある地点まで来て足を止めた。


「どれが本命だ?」


 今いる位置だと森の浅い所も感知できるため複数のパーティが確認できる。そのどれが本命なのか? それともその中にはこの子のパーティはないのかもしれない。ただ、この子を助けたのは森のそれなりに深い位置だ。正直な所、途中でつまみ食いされてないのが少々気がかりだったが、それは置いておくとしてもここに来るまでこの子の所属してそうなパーティは少なくても俺には感知はできなかった。

 そして感知できたかと思えば浅い所で戦ってるパーティばかり、この子のパーティメンバーは全員死んでいるのか。もしくは消耗からすでに逃げているのか? それともあのゴブリンの移動速度で浅い所から連れて来たのか……。

 これはもう王都に戻ってギルドに報告するべきかなと思っていたら腕の中でもぞもぞっと動きがあった。

 そうすると薄っすらと目が開き、パチパチさせた。


「目が覚めた?」

「え? あれ? え?」

「現状はゴブリンに連れ去られてる所を俺が助けて王都に向けて移動してた所。お姫様抱っこしてる状態だから暴れないでもらえると助かるかな」

「えっと……ありがとう?」

「どういたしまして、それじゃあ降ろすよ」


 そう言って彼女を下ろした。しっかり立てるみたいだ。

 温もりがなくなり少し寂しいがそんなことはおくびにも出さない。目が覚めた時にいきなり叫ばれる可能性も考えていたがそんな事にはならなくて良かった。

 翠眼で声も可愛らしい。お持ち帰りしてはダメだろうか? ダメだろうな。それよりこれからどうしようか?


「とりあえず自己紹介、俺はユキト。よろしく」

「わ、私はエリナです。よろしくお願いします」

「エリナだね。それでこれからどうする? 最初は君のパーティを探そうかと思ってたんだけど森の中に進んだ所には誰もいないし、後は浅い所にいるパーティばっかりだからどうしようか悩んでたんだけど」

「えっと……私、そもそもどうしてこうなったのか……」

「どこまでなら思い出せる?」

「えっと……みんなで戦ってて私は後ろから回復魔法使って、気がついたら……今?」


 どうやら本当に一撃がキレイに決まって気を失ったみたいだ。後衛の回復職じゃ自分の居た位置まではわからないかな?


「森のどのあたりにいたかわかる?」

「……ごめんなさい。私そういうの全然わからなくて……それなりに森の中を進んだとは思うんだけど、奥に行ってたのかそれともただ浅い所を歩いてたのかまでは……」


 しゃべればしゃべるほど下を向いていくので、この話はここまでにする事にした。これ以上聞いた所でおそらく彼女のパーティとの合流に役立つ情報はないだろう。それにこんな美少女が下を向いているのはよくない。非常によくない。


「どっちみちこのままここにいても仕方がないからギルドに戻ろうか? 俺は君が連れてこられたと思われる方向に向かってまっすぐ進んできたからエリナを探していれば感知できたはずだ。それができないって事は君がいなくなって継続戦闘ができなくなって王都に戻ったんじゃないかって思う。一度戻ってみない?」

「そう……だよね。私がいるから回復薬あんまり用意してなかったから戻ったのかも……」

「なら行こうか」


 ここからならまっすぐ歩けば一時間弱で森を抜けられるはずだ。

 俺は森を抜けるまでの間にアクアの紹介をしたり、今まで町中で受けた依頼の話などを彼女に話して聞かせた。ある程度誇張も踏まえて面白おかしくしたつもりだ。

 そのおかげで彼女の顔にも笑顔が戻ったし、少しあった固さもとれた気がする。

 彼女が目を覚ますまで戦闘の跡らしきものがなかったのはいいことなのか悪い事なのかこの時点では判断がつかなかった。



 王都に着き、ギルドに入ろうとした時に丁度人が出てきたので少し横にずれた。相手はこっちを気にする様子もなくパーティの女の子達と楽しそうに話してる。

 エリナがピクっと反応して動こうとしたが、


「結果はあれだけどようやくエリナのお守りからから解放されたぜ」

「あの子がいたからみんなで楽しめなかったしねー」

「でも今夜からは一部屋でいい」

「だね~エリナの荷物は宿の人に処分するように言っておけばいいよね」


 そんな会話を聞いてしまった。彼らはこちらを見ていなかったし見たとしてもエリナは俺の影になって見えなかったと思う。解放されたと聞こえてからは完全に姿を隠すように俺に捕まってた。


「エリナ」

「私、やっぱり邪魔だったんだね……。あの、私大丈夫だから、その……お礼! お礼はどうすればいいかな?」


 俺はエリナの手を掴んでギルドの中へと入った。こんな時に無理して笑う事なんてないんだ。あっていい訳がない。


「あ、あの」

「お礼してくれるんだろ? だったら付き合って」

「うん……」


 お礼と言われたので都合よくそれを使わせてもらう。エリナが戸惑ってるのはよくわかるが今はそんな事を気にしてる場合じゃない。スイナさんは丁度よく空いていた。都合がいい。


「スイナさん」

「いらっしゃい。ん? その子どうしたの?」

「突然ですみませんけど個室貸してもらえませんか?」

「個室ね……。ちょっと待ってね」

「あの、ユキトくん?」


 戸惑っているだろうけど、今はこのままにしておく。正直、俺もどう声をかけていいのかわからない。なら行動で示すしかないけどできれば人目のない所の方がいいと思う。


「ユキト君、二階の個室借りて来たよ。行きましょう。」

「わかりました」


 俺はスイナさんについて二階の個室へと向かった。そしてスイナさんの目がちゃんと説明するよね? と言ってる気がした。本来なら部屋の場所を教えてくれて鍵を渡されるだけのはずなのにスイナさんもついて来てるからきっと俺が感じたメッセージは確かな物なんだと思う。

 スイナさんに続いて俺とエリナも部屋に入った。そこで鍵を閉めてからエリナを抱きしめた。抱きしめられたエリナはびっくりしている。当然だと思うが抵抗はしない。お礼うんぬんを気にしてるのかもしれない。


「我慢して笑う事なんてないんだ。泣いていいから」

「でも、迷惑が……」


 何か色々言ってるけど俺は抱きしめたまま、頭を撫で続けた。そうすると我慢できなくなったのかきつく俺の服を握り声を抑えて泣き始めた。声を出してもいいのにと思いながらそのまま俺は彼女の頭を撫で続けた。

 鎧が無い方が良かったかなぁとか考えてたのは内緒だ。


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