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73.真相

「まぁ、事情はわかった。昔の友人たちの頼みだし助けるのはいい。ただ、住む場所に関してはさすがに王都って訳にはいかないからな?」

「それはいいけどあては?」

「しばらくは里で預かってもらうしかないかな。サークリスはまだまだ準備が終わってないし」

「師匠、準備ってどういうことです?」

「こっちのレベルの低さは身をもって体感したんじゃないか? 最初からなのか潰れたのかはわからないけどサークリスはないんだよ。今は絶賛開拓中だ」

「サークリスはないんですか……。思い出の町なのに……」


 コウシロウは弟子と言っても生産系ではなく戦士系だ。誰かの紹介で来て卒業してからもこうして慕ってきてくれている。それで色々と教えていた場所がサークリスだ。思い出の町という感情はよくわかる。


「ないから作ってるんだけどな。あの町の再現をするよりは俺の都合のいい街づくりになるけど」

「ユッキーらしいねぇ。一面農場にでもするのかい?」

「町は作るぞ。住む場所、加工する場所がないと農業もできないしな」

「違いない」


 それでも農場が広くなることを否定するつもりはない。あっちのような生産ができないのであれば、畑を広くして一度にとれる量を多くするしかない。目指せ町単体での自給自足である。


「それで具体的にはどうするか決めてあるのか?」

「最初はがんばってみんなで歩いて来るつもりだったんだけど、ユッキーは転移魔方陣を敷けるんだよね?」

「敷けるけど」

「それじゃぁ、向こうとこっちを繋いでもらえないかな?」

「帰還マーカーの登録して戻ればいいだけの話じゃないのか?」

「ユッキーは普通に出来るみたいだけど、プレイヤーはなぜか転移系は使えないんだよ」

「は?」


 使えないというのはどういうことだろうか? どういうことというかどこまで使えないのかと聞いた方がいいのかもしれない。でも、アルルがこう言うって事は……。いや、そもそも試せてないのかもしれない


「向こうではできてた事がこちらでは出来ないってのがいくつかあってね。その一つが転移魔方陣や帰還マーカーが設置できないんだよ」

「それなら一度試してみるか? どっちもあるし」

「ユッキーもしかして聖教国行きたくない?」

「行くならやる事を考えても俺一人が同行だろ? そうとなればこっちに嫁さんら残して行く事になるんだ。行きたくないに決まってるだろ」


 それに長期間離れるとなればカヤがまたウルウルと目に涙を溜めながら見上げて来る可能性がある。できれば行きたくない。


「出来れば来てもらいたいんだけど、マーカーが動くならなんとかなるかなぁ」

「そもそも歩いてくるつもりだったんなら、十分すぎるくらいな協力だろ」

「確かにその通りなんだけどねー」




 とりあえず、帰還マーカーが使えるかの確認をする為に四人で宿を出た。ついでに三人は宿を引き払った。我が屋敷は突然の来客でも対応できるようになっている。むしろ元姫がいるのだからそれくらい出来るようになっていてもらわないと困る。

 最初よりも人数は減ったが信頼できるいい人達が残ったと思う。


 そしてこの三人がうちに泊まるのを決めた最大の理由はもちろん料理だ。おにぎり食べさせたら一発だった。さすが日本人のソウルフードだと思った。周りから見ると俺もあんな風に見えるのだろうか?

 そんな感じで家にまで案内してアルルと猿の字に帰還マーカーを登録させる。そしてそのままサークリスに飛んだ。


「なんにもないですね」

「一面整地だけはしてあるでござるな」

「ただいま準備中って感じがヒシヒシと感じるね」

「実際準備中だしな。ここの開拓許可はすでにとってるけど、人が住む時にはある程度そろってて、後々の発展計画をちゃんとするところまでやってからにしたいんだよね」

「ユッキーは昔から最初の準備はしっかりするよね」

「それでもよく抜けてるし、最初にある程度余裕持たせておかないと絶対に後である修正に対応しきれないんだから仕方がないだろ」

「しっかりしてるように見えて結構行き当たりばったりでござるからなぁ」

「し、師匠。俺は何にも考えてないですよ?」


 コウシロウ、それはそれでどうかと思うが、実際には同じような感想を持ってるだろ? だがしかし、実際そんなもんだからそう思われても仕方がない。転移魔方陣を隠したいのにけっきょくシーリアを受け入れてるんだからな。


「はいはい、それじゃ猿の字。そこのバカ弟子連れて先に転移してくれ」

「わかり申した。いくでござるよ」

「いきなり人連れって危険じゃ」

「かの地へと飛ぶでござる!」


 引いたコウシロウの手をがっちりと掴んで猿の字は飛んだ。どうやら飛べたみたいだ。無事かどうかは知らないけど。


「それでアルル。話したい事があるんだろ? コウシロウは別にしても猿の字は気を使ってみただし話したらどうだ?」

「やっぱりわかる?」

「わかるに決まってるだろ。いったい何年葵の幼馴染やってたと思ってるんだ」

「っ!? そこで名前呼びは反則だから」

「はいはい、泣くな泣くな」


 向こうじゃ俺は死んでた訳だし、今までは多少無理をしていつも通りに見せたかったんだろう。俺には通用しなかった訳だけど。……こういうやりとりしてるから夫婦だとか言われるんだよな。男同士なのに……。


「だって、だって……。あの日私が何を見たと思ってるのさ。泣くくらいで済ませてる事を感謝してほしいよ」

「その話は聞いた方がいいのか? それとも聞かない方がいいのか?」

「私一人で抱えてるのは無理だから聞いて」

「はいよ」


 幼馴染のアルルの事だ。俺の死因も知ってるだろうし何かを見たというのだから下手したら第一発見者かもしれない。あの日母親と弟は出かけてて家にいなかったし、父親は飲んだくれてたからな。

 涙が流れ終って落ち着いてからアルルは話しはじめた。


「ユッキーはどこまで覚えてる?」

「あの日はバイトから帰って来て、ログインしたらいきなりフレンドチャットが来て、ラスボス倒して騒いでるからあの料理ギルドの本店を貸切にしてるから来いって言われたけど緊急アラートが鳴って強制ログアウトしたって所までかな」

「そのログアウトで何かあったと思って急いでユッキーの家にまで行って、いくらピンポン押しても誰も出ないからおばさんから預かった鍵で中に入って部屋に行ったら……」

「行ったら?」

「……おじさんがユッキーの首絞めてた」

「は?」


 うちの父親は俺が病気を理由に正社員にならない事が不満だったのは知ってる。それでものすごく怒られたこともある。ただ最近は不満に思ってもそれを外に出すことはなかった。

 近所の飲み友達に俺の事を愚痴っても大抵が俺の擁護をしてくれる発言ばかりだったので愚痴ってもかえってストレスがたまるのを知ったかららしかった。

 だからと言って首絞められるとかまったく思ってなかったぞ。


「えっと、その、それで俺は死んだのか?」

「わかんないよ。おじさんを止めようとしたらおじさんは吹っ飛ぶし、ユッキーは光って消えちゃうし訳がわからなかったよ」

「吹っ飛んで消えるってどこのファンタジーだよ……」

「でもそうなの。それでおじさんはなんか気絶してたけどどうしても何かしようとは思えなかったから家に帰ってまたゲームにログインしたんだよ」

「アルルがうちのおやじ殿嫌いなのは知ってるけど人命にかかわるかもしれないのに放っておいたのか?」

「気が動転してたのは確かだけど目の前でユッキーの首を絞めてた人を助けようなんて思えないよ」


 アルルも自覚してるが俺に依存してる部分がある。女の子が好きではあるのだが見た目のせいで男ばっかり寄って来るし、女の子は女の子で厄介だったりする。常に味方でいたのは俺とおばさんくらいだ。おじさんはけっきょく受け入れられずに別々に暮らしてる。徒歩三分しか離れてないが……。

 うちのおやじ殿も男は男らしく、男は稼いでなんぼ。って人だったからアルルへの当りはきつかった。

 それにしてもふっとばされて気絶してるのを放っておかれるくらい嫌われてるとは思わなかったが……。


「それで、戻ったらなんか変に盛り上がってるから何事かと思ったら母神からのアナウンスでラスボスの後方の部屋から異世界に渡れるって話をされたって聞いたの。ユッキーはもう消えちゃったし、なんとなく扉の向こうにユッキーがいるんじゃないかって思ったら居てもたってもいられなくてこっちに来ちゃった」

「見た目美女なのが残念だよな」

「そんな感想なの!? 私のこの想いをそんな感想!?」

「親友だとは思ってるけどそんなに強く想われても困る。こっちでならいい子に出会えるよ」

「ぅぅ……慰めてくれるかわいこちゃん捕まえるよ……」

「その前に救出だろ? その前に俺の嫁自慢からだな」

「ユッキーの裏切者ーー!」


 茶化して誤魔化したがアルルのちょっと表情がやばかった。何かの画像で見たヤンデレってこんな表情だったっけ? って表情だった。

 ここでしっかり戻しておかないと屋敷に連れて帰れない。一通りの話も終わったので転移して家へと戻った。

 そこで待たせていた二人とも合流して、歩いて屋敷へと向かうのだった。

 屋敷に帰る時は基本入り口からとしてるのだ。

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