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72.異世界での再会

 十二月十三日、少し涼しくくらいの日々が続いている今日この頃。


 久しぶりに四人で依頼を受けて終え、屋敷へと帰る途中の事だった。いつも俺達をつけている存在がいる事は知っている。それが誰の手の物かもすでに調べがついているし、問題なしと放置してあったのだが、いつもとは勝手の違うのが一人いた。


「ミヤビ、今日は何人いるかわかるか?」

「三人だと思いますけど」

「ミヤビでも捉えきれない四人目か。これはもしかするかな?」

「え? ミヤビがわからないの?」

「それは不味くない?」


 ミヤビが感知できない事でエリナとスイナは警戒を強める。これは先に言ったのは失敗だったかもしれない。かと言って事後承諾だと怒られるのが目に見えてるので先に言うしかない。

 それになんとなく危険な気配もない。ないと思う……。


「大丈夫だと思うぞ。だけどちょっと気になるから先に帰っててくれるか? ちょっと誘って来る」

「変な女に捕まっちゃダメだよ」

「そっちの心配もしなくていいから、それじゃ」


 そう言って俺は三人から離れた。ミヤビに気づかれてる三人はそのままミヤビ達を追っていく。そして四人目はこちらを追って来た。


「目的は俺か。どんな奴が釣れたのかね」


 これだけの動きができるとなると自ずと選択肢は狭まる。むしろ出来る人がいるグループは使徒以外考えられない。それ以外だったらこの世界の評価を変えるのでぜひそうであってほしいと思わなくもない。


 このまま裏路地に入ったとしても追って来るかどうかわからない。むしろ誘われてると思うんじゃないだろうか?

 だから幻術の俺を追わせて通り過ぎる時に捕まえようと思う。そんな訳で幻術を使った。予想通り追跡者は幻術を追いかけているようで俺との距離がドンドン縮まっていく。


 目視で相手を確認した俺はいったいどんな感情を抱いているのだろうか? 色々な思いが渦巻いている。なのでとりあえず通り過ぎる時に足を引っかけた。


「は!」

「猿の字、そんな気合入れなくても立て直せよ」

「な!? どうしてここにいるでござるか!?」

「一般人を装ってるのにござるって違和感バリバリだぞ……」

「とはいえ、これは拙者のアイデンティティでござるよ。というかなぜここに? いや、本当にユキト殿でござるか?」


 俺の事を訝しげに見るこのゴザル語尾の二十代後半の男、猿の字こと、猿蔵。忍者のロールプレイをしていたプレイヤーだ。つまりここでは使徒であるはずだ。


「本物だよ。猿の字なんて呼ぶの俺くらいだっただろ? それにご自慢の鑑定の魔眼で見れば一目瞭然だろ? ……あれ? もしかして鑑定の魔眼だとステータスみれたりする?」

「ステータスはこちらに来た者たちは皆、見れるでござるよ?」

「その特典、転生者である俺にはないんだよなぁ」

「転生でござるか?」

「そう、転生。どこからどうみても三十を過ぎたおっさんには見えないだろ?」


 道の端とはいえこんな往来でする話ではない。だが俺はすでに猿の字に足を引っかけた時に結界を展開している。結界内の音は外に出ないし、結界を無意識に避けるように人々は移動していく。そういう結界だ。


「確かにまだ十代に見えるでござる」

「実際まだ十五歳だしな。それでそっちの用件は? 用件次第では昔の知り合いとはいえ死んでもらわないとならないんだけど」

「ユキト殿はいつの間に悪役になったのでござるか!?」

「愛すべきもの達の為ならば修羅にでもなるさ」

「カッコいいでござるな! ってそうではないでござる。ここで詳しい話をしてもいいのでござるが、アルル殿とコウシロウ殿もおられる。案内するのでそちらで話はできないでござろうか?」

「いいぞ」

「そうでござるよね。警戒してるのに簡単に……いいでござるか!? ならさっきの悪役台詞はなんでござるか!?」

「浮沈艦ユキトを沈める事が本当にできると思ってるのか? 今のところ敵対の意志はないみたいだし昔のよしみで話くらいは聞くさ」


 ありとあらゆる手段を使って生き残る男。って事で浮沈艦とか面白半分で言われていた。悪役台詞は本音でもあるが敵意がないからこその冗談でもあった。


 幼馴染のアルルに弟子のコウシロウがいるのならここで話しても二度手間になると思うのでさっさと猿の字に案内してもらって二人の下へと向かった。

 俺の感覚にはまったく敵意が引っかからないので気楽なものだ。




 そしてとある一軒の宿に入り、客室の扉をノックしてから猿の字は開けた。


「ただいま戻ったでござるよ」

「師匠は!?」

「コウシロウ君は少し落ち着きなさい」


 そこにいたのは十代後半くらいのヤンチャそうな男とシンプルな旅装束ながら、その存在感で服が上質なものと勘違いさせそうな美人がそこにはいた。


「コウシロウにアルル。久しぶりだな? でいいのかな?」

「し、師匠?」

「ユッキー?」


 俺を確認すると二人は師匠ーー! ユッキーー! と叫びながら突っ込んできた。危機察知能力の高い猿の字はすでに退避済みだ。

 だから俺は三歩ほど斜め前に出て飛びかかって来たコウシロウを横から軽い衝撃と共に飛ばしアルルに激突させた。仲良く吹っ飛んで行く先にプロテクションを展開して受け止めた。宿を壊すのはよくない。


「ユッキー……私達が壊れそうだよ」

「二人ともこの程度でダメージ負うほど柔じゃないだろ? それに男に抱き付かれる趣味はない」

「ユッキー私私」

「黙れ女装男。幼馴染の俺が一番よくその事を知ってるに決まってるだろ。まぁ転生したから幼馴染と言えるかどうか微妙だけど」

「でも、こうしてまた出会えて嬉しいよ。ユッキー」

「俺も再会を喜びたいが、こっちにはこっちの事情もある。それにその絡み合った状態で言われてもいい台詞が台無しだぞ」

「師匠……とりあえず……回復を……」

「あれ? だいぶ手を抜いたけど……ほれ」

「あ、ありがとうございます」


 やけにコウシロウが静かだと思ったら予想以上にダメージが入っていたようだ。そしてアルルは男だ。誰がどうみても女性にしか見えないのに男だ。本当に色々とあっちでは服を作らされたものだ……。


「それで用件は?」

「向こうの事とか聞きたい事はないの?」

「それは状況次第だな。猿の字はすでに見てると思うけど俺には守るべきものがある。敵対するならって事だな」

「表向きには王国で新しく生まれた特級冒険者ユキトがユッキーの可能性があるからその真偽を確かめて、もしそうであれば使徒の一人として迎え入れるように言われてきてる」

「裏は?」

「ユッキーがいたら保護してもらいたいなって思って」

「保護?」


 何を保護するのだろうか? 知らない人が見たらあっという間に落とされそうな笑顔を浮かべているが、誰をどう保護しろと……。


「誰を?」

「私達を含めた七人ほどかな?」

「使徒を保護するってものすごいめんどくさい事になりそうなんだけど……」

「そう言わずに頼むよユッキー。私は聖女とか言われてすっごいめんどくさいし、刀鍛冶のおじいちゃんは渋々色々作らされてるし、ゴッツさんは防具関係、エっちゃんは消耗品で仕事押し付けられてる。猿ちゃんだっていろんなところに情報盗みに行かされてるし、アルちゃんは私が指導など……って大変そうなの。助けてもらえないかな?」

「何気にコウシロウが入ってないぞ」

「俺はダンジョン攻略とかなんでそれほど大変じゃないです。でもじいちゃんとゴッツさんとエリオットさんは本当に大変そうで……」


 刀鍛冶、ゴッツ、エリオット、猿の字、アルテミア、アルル、コウシロウ。みんな俺と交流のあった人達だ。サークリスか里に放り込めばいいだろうか? でもこのタイミングでいなくなったら俺が関わってるっていうようなものか? それはそれで俺が大変な目に遭いそうだが……。


「大変なのかもしれないけどその人数だけなのか? 実情がわからないからなんとも言えないけど……」

「私達は使徒は使徒でもユッキーの加護持ちなんだよね」

「は? どういうことだ?」

「そのままの意味だよ。多くのプレイヤーは母神の加護か父神の加護だったんだけど私達七人はユキトの加護なんだよ」


 俺は加護など与えた覚えはない。だけどその七人はなんだかんだでフレンドリストにも入っていたし交流もあって仲良くしてた。つまり向こうで仲の良かった人に自動的に加護を渡したのか?


「カルボーナは?」

「彼は母神の加護だったでござるよ」

「みんなでステータス画面の見比べでもしたのか?」

「いや、拙者が勝手に見たでござる。千人少々いたけどユキト殿の加護持ちは七人だけでござった」

「使徒が総勢で千人いるってのがびっくりだよ」

「しかも師匠聞いてくださいよ! みんな母神様、父神様の為にって一生懸命働くんですよ。気持ち悪いです」

「私たち以外にも例外はいるけど、概ねみんなそんな感じなのよ」


 千人いるってだけでもびっくりなのに母神、父神の為にがんばって働く。その行動は明らかにおかしい。どう考えたって異世界ヒャッホーってやつが出てくるはずなのにそれがないとなると


「加護の中に隷属が組み込まれてるのか? 異世界まで来て奴隷落ちとかたまったもんじゃないな」


 それが俺の正直な感想だった。

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