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71.遊び

 後悔先に立たずとはよく言ったもので、いや、後から悔やむから後悔なのだろう。俺の勘違いから道を外れていく最初の一歩を止める事ができなかった。

 もしかしたら出会った時からこうなる運命だったのかもしれない。何が言いたいのかと言われれば、アクアとカヤの追いかけっこのレベルがなんだかおかしかった。


 事の始まりはカヤが俺にある事を聞いてきた事だった。


「お兄ちゃん、私遊んで来てもいいのかな?」

「もちろんいいぞ」

「んー……アクア連れて行ってもいい?」

「アクアを? どうするアクア?」


 アクアに聞くとピョンと飛び降りカヤの所へと行った。どうやら一緒に行くらしい。


「一緒に行くらしいぞ。仲良く遊んできな。アクアは十分に注意するんだぞ」

「はーい」


 アクアもわかったと了解の意を伝えて来る。進化前は伸びたり縮んだりとわかりやすいリアクションが多かったが、今は頷いたり横に振ったりと動作が人くさい。耳としっぽがついたので判断がつきやすくなったのが原因だろうか? それはアクアには関係ない気がするが……。


 こうしてカヤとアクアの遊びは始まった。俺はこの時、カヤは里に遊びに行くものだとばかり思っていたのだ。

 そしてこの後、ちょくちょくアクアを遊びに誘うカヤが微笑ましかった。アクアはカヤの友達とも馴染んで遊んでるんだろうなぁと思っていた。思ってしまっていた。




 屋敷の中に居る時は感知も一応しているが害がありそうなものにだけ反応して他の反応は感知しないようにしていた。そんな事をすれば屋敷内の監視をずっとし続けてる事になるのであまり気分のいいものではないだろう。だからこそ今まで気が付かなかった。


 部屋で色々と作っていて休憩がてら庭に出た所で見たのがカヤとアクアの追いかけっこだった。


「「待て待てー」」


 カヤが二人でアクア2体を追いかけていた。幻術なのはわかる。わかるんだが、なぜカヤが幻術まで使ってるんだ? そもそもカヤは里に行ったんじゃないのか? 俺の中で疑問が渦巻いていた。


「「あ、お兄ちゃん!」」


 こっちに二人のカヤが突っ込んで来て同時に抱き付いてくるが片方はそのまま消えた。俺はもちろん本体のカヤを優しく抱きとめてやる。


「カヤは遊びに行ったんじゃないのか?」

「ん? ここで遊んでたよ」


 頭をぐりぐり押し付けてくるカヤの言葉でいいようのない不安に襲われた俺はその真偽を確かめるべく問いかける。


「カヤは遊ぶ為に里に戻ってたんじゃないのか?」

「戻ってないよ。いつもアクアと追いかけっことかかくれんぼとかしてたの」


 目まいがしそうだった。子供で楽しく遊んでるんだからと思っていたのがまさかのカヤとアクアだけ、しかも幻術がついて走る速度も中々のものがあった。子供ってあんなに早く走れるんだっけ? と少し現実逃避してみた。


「里に戻って遊んでいいんだぞ?」

「ここならちょっとの間でも遊べるし、里に戻ったらちゃんとお手伝いできないよ」

「お手伝いしない日があっても全然問題ないからね」

「でも私お手伝いしたい!」


 いい子だ。非常にいい子である。いい子過ぎて将来不安になる。このままでは世間知らずになる可能性が大いにある。

 ユキトくんが養ってあげればいいんだよ! というエリナの幻聴が聞こえたが気にしてはいけない。

 最近メキメキと料理の腕を上げて嫁たちよりも遥かにうまい料理を一人でつくれたり、カヤの任された場所は他の場所と遜色ないくらいキレイになって家事スキルも上達してるが、今はまだそこまでできなくていいと思うのに……。


「ところでカヤ、さっきの幻術は?」

「アクアがやってたから、私もえいえい! ってやってたら出来るようになったよ」


 どうやらカヤは感覚派のようだ。見た物をなんとなくでやってしまえるとは……。これはちょっと不味いかもしれない。トウカと色々と相談する必要がある。でもとりあえず今は……。


「カヤ、俺も一緒に遊んでいいかな?」

「お兄ちゃんも遊んでくれるの!?」

「あぁ」

「わーい」


 さすがにアクアとカヤだけで遊ばせておくのはと思っての提案であり、何度か遊んでいた。ただ遊んでいただけだったはずだ。だがしかし、現実とは非常であった。自分の能力を忘れていたとも言える。


「トウカなんか申し訳ない」

「いえいえ、ですけどあの子の将来は冒険者にほぼ決まりですね。ついでですから武器の扱い方も教えてあげてくれますか?」

「それはいいのか? 刃物は危ないぞ?」

「棒がいいそうです。あの子はどこまでもユキトさんを見てますから」

「棒なら危険は少ないか……」


 トウカと見ているのは五人のカヤと五体のアクアの追いかけっこだった。しかも以前のように漠然と後ろから追いかけるのではなく、三対一で追い詰めてみたり拙いながらも移動先を限定させようとしたりと考えられている。

 俺がそのやり方を教えたり、俺が逃げずにひたすら避けるだけとか大人げなくやってしまったせいで体の動かし方も変わって来てる。


「エリナが特級に上がるまでに四ヵ月しかかからなかった。それは後衛って事で尖った部分がそこに触れたからだけど、逆に言えば俺の無茶に付き合えるなら四ヵ月で特級になれてしまうって事だ。それを無理せずにやるとはいえ、この歳から俺が教えたらどうなる事やら」

「世界最強の嫁をご自身で育てるんですね。家事も十分に出来るようになっていますし」


 嫁の部分はあえてスルーする。カヤはすでにあの歳の割にというよりも普通に家事をこなせる。出来ないのは高い所の掃除くらいなものだ。


「明るい子だけどもう少し同い歳の子達の中で育てた方がいいと思うんだけどなぁ」

「……もう無理ではないでしょうか? 子供離れした能力をすでに身に着けていますし、メイド達もカヤに礼儀作法教えたりしてますし」

「え? 何してるの……」


 カヤの可愛らしさはメイド達をも虜にしたようだ。礼儀作法だけじゃなくて、メイドの嗜みですのでとか言って格闘技や短剣術をカヤに教えていないだろうか? ちなみにシーリアのお付きのメイドがそれらの技術もメイドの嗜みと言っていた。メイド怖い。


「皆、カヤが可愛いようで、親としてとても嬉しいですよ」

「兄として妹の将来が心配のような安心のような……」

「ユキトさんの良き妻になると思いますよ」

「決定した訳じゃないですからね」

「そうなってもいいように、私は体だけの関係ですから」

「ウメさん辺りはまだ若いしトウカもって言うんですけどね……」

「カヤも妹か弟がほしいって言いますよ? どうしますか?」

「……エリナの指示を仰ぎます」


 エリナに聞いてもきっといいと思うよ。としか言わないと確信しているがそれでも聞いておいた方がいい。夜も含めて家族計画はエリナに任せる事にしている。

 俺が勝手にやってもいいのだが、そうすると間違いなく手を出さない。縮小方向に向かうのでエリナの手直しが確実に入る。つまり俺の抵抗は無意味なのだ。

 夜、部屋で今日は誰かなと思って待っていると巫女が一人入って来て、本日はよ、よろしくお願いします。と顔を真っ赤にして入って来る。すべてはエリナが組んだ予定だった。


「エリナさんにはユキトさんも頭が上がらないのね」

「家族計画は俺がやると小規模になるもんで、エリナに規模は任せてるんだよ。孤児院育ちだし、大勢を自分が養うって感覚がどうもなくてね。現状稼いできてるのは三人だけど」


 孤児院育ちの感覚とあっちの世界での感覚でハーレムには多少の抵抗があるのは前にも言った通りだ。

 そして今俺は生産活動に勤しんでいるが、それはすべて身内のものだ。なので俺はたまに受けるギルドの仕事くらいしか稼いでいない。

 一方、エリナ、ミヤビ、スイナの三人は自分たちの能力強化の為によくダンジョンに潜ってはそこの魔物素材を売りさばいて来るためガンガン稼いできている。


 以前であれば三人で持ち運べる量に限りがあった。しかし、ザッシュホールにはアイテムを数多く入れる事の出来るアイテム袋製作用の素材が手に入る。しかも、上位種に進化してたので入れた状態を維持できるアイテム袋も作れた。

 この袋はある程度容量を増やせるが無限に入る訳ではないので複数作る事で対応している。


 あっちに居た時はアイテム袋が最初の支給品に入っていた。そして王都などの首都ではそれの上位アイテムが売っていた。空間収納すら覚える必要はなかった。それを育てたのはただの趣味だ。後々便利だと気が付いたが、それでもそこまで育てようとするものはあまりいなかった。


 それはともかく、持ち帰れる量が増えると言う事はそれだけ稼げる。とはいえ一部の魔物は魔石しか買い取ってくれない。珍しい魔物を狩ってくるのだが、素材の利用方法がわからないのだ。アイテム袋を作る為の素材もそんな素材の一つだった。

 それでも、そんなの関係ねぇとばかりに稼ぎまくって来る。すべては自分たちを成長させる為である。


「なんか道楽亭主と真面目な妻みたいな状態になってるな……」

「ユキトさんが今しているのは色々な物の下準備ですから仕方がありませんよ」

「カヤと遊んでるのは嫁として下準備させてる訳じゃないぞ?」

「それは私達でやりますのでご安心を」


 まったく安心できないが、自分の娘を悪く育てる事はないだろうしそのままでいいかと思う事にした。

 ミヤビもがんばっているのは分かるが、次の神狐はカヤかもしれないなぁと思う俺だった。

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