70.流れ流され
クルクル回して糸を紡ぐ。カタカタ動かし布を織る。チョキチョキチクチクして服を縫う。そのままエンチャントを施してもいいが、刺繍を施し飾りをつけることでエンチャントを更に強力にしていく。
糸の素材はロゲルフ。これで全員分の布製の防具を更新した。おそらくこちら基準の一級程度の腕がないと傷すらつけることのできない布装備だ。これで布製品とか詐欺かと思う。
それでも使徒と戦闘になった場合は心配が残るのでなるべく使徒との戦闘にはならない事を祈るしかない。
サークリスも少しずつ町を作り始めている。とはいえ未だ整地したり下水道作ったりして下準備の段階だ。上水道は作っていない。水を出す魔道具で対応していくつもりだ。
この世界の人は誰でも魔力自体は持っている。これを魔法という形で使えるかどうかは別問題だ。
だからこの町は最先端というよりもオーバーテクノロジーの塊みたいな町になる予定だ。便利な分別の所に力を割いてほしいのだ。近くには強い魔物も出るのでガッツリ強い冒険者を育成して行きたい。むしろ町に住んでるならヘルキャットくらい三人一組で対処できるくらいになっていただきたい。
土地が広がるにつれ必要になる魔道具も魔石も多くなるが、二つのダンジョンに直通ルートを作ってしまったので今は貯まる一方だ。今日も仲良く三人はダンジョン攻略に出かけている。
最近は俺が一人で色々と作業して回って、女性三人で動くことが多い。少し寂しくも感じるが毎日屋敷には帰るし、夜は交代で相手をしている。
特級になるまではかなりの速度で走って来たのでここで一息入れてるようなものだ。きっとこの先また色々なトラブルが待ってる気がするしな。
だから今のこののんびりした時間を有効活用して片っ端から作れる物は作っていく。
転移魔方陣が設置してある。サークリス第三号小屋の出番がない事を祈りたい。
そして、今日は屋敷にウメさんが珍しくやってきていた。
「ウメさん? どうしたんです?」
「こちらをお届けしようと思いまして」
そうして手渡されたものは八名ほどの名前が書かれた紙だった。上の三人には丸がつけてあり、できればすぐに書かれていた。
その下二人にはいつでも可と書かれていて、その下はできればもう少しお待ちいただけたらと書かれていた。
「えっとこれは?」
「巫女の名前と夜の事に対する一言です」
「できればすぐって……」
「その三人はそろそろ年齢的に婿を探す年頃でして、しかしながら出来ればユキト様の子を成せればという者たちです」
「いつでもってのは」
「文字通りいつでも可能と言う事です。その下の者達はユキト様のご趣味とあらば構いませんが、できれば上記の五人が妊娠してからにしていただけたらと」
種馬上等な感じなのだが、本当にこれはいいのだろうか? この子達の意志は? そう思ったのが顔に出ていたのだろう。ウメさんが補足してくる。
「ここに名前が載っている者達は全てユキト様に全てを捧げる覚悟を持っている者達です。上の三人などは婿よりユキト様のお傍にという思いが強い者たちです」
「それなのに子供作ったら俺が手を差し伸べなくてもいいとか前に言ってなかったっけ?」
「もちろんその覚悟もございます」
なんというか妄信的とでも言うべきだろうか? ここを出入りしている巫女の数より明らかに少ないので希望なのか選りすぐってるのかはわからないが絞っているのは確実だろう。だがしかしこれは……。
「ユキトくん? どうしたの?」
「エリナ?」
タイミングがいいのか悪いのか。夜の取りまとめ役、なんだかんだで嫁さん達の中で一番発言力のあるエリナがやってきた。
「あ、ウメさんこんにちは、今日はどうしたんですか?」
「今日はユキト様に子種をいただきたいもの達をまとめてきましたので、その報告に」
「これがそのまとめて来た紙だ。エリナも見るか?」
「うん」
俺はスッとエリナに紙を渡した。隠れてそんな事やってたんだ。へぇーとか怖い笑顔で言われたら困るのだ。翌日昼過ぎまで起きてこられなくなる。
「ん~……うん、みんなにも話しておくけどこの五人は組み込んでおくね。その前にこの人達を入れるならまずはトウカさんも組み込まなきゃね」
「ちょっと待って、え? 予定に組み込むの?」
「うん、そうだけどダメ? みんな可愛かったりキレイだったりするからユキトくんもがんばれると思うよ?」
「え? みんな顔が分かるの? その紙に書いてある子達は嫁にする訳じゃなくて子供をってだけだよ?」
「子供が生まれたらあっちのお屋敷に住んでもらえばいいんじゃないかな? ユキトくんの子供なら屋敷で暮らす権利はあるし、屋敷もしっかり利用できるよ」
「それは名案です。エリナ様寛大な処置ありがとうございます」
「頼りになる男の人には女の子がいっぱい寄り付くものだし、変な女が来るよりよっぽどいいよ。その代わりそういう女の壁の一枚にはなってね?」
「もちろんでございます」
当人置いてけぼりで話がどんどん進んでいく。実際子供を作るとなるとエリナ、ミヤビ、スイナはしばらく周りの様子を見たいので戦力的な問題として控えてもらっている。
そうなるとシーリアだが、俺の感覚ではすでに妊娠初期な気がする。それになんとなくボーっとしてる事も多いのでお付きのメイド達には気を使うように言ってある。まぁ間違ってる可能性もあるので確定するまで絶対に言わないようにと言っておいてある。
子供が欲しいか? と聞かれればそうでもないがやたらと欲しがられるのはどうしてだろうか?
「子供を作る為にするのはいいのか?」
「何がダメなの?」
「え? いやだってその……独占欲とかないの?」
「あるけど、それよりもみんなで一緒にいたいよ」
「巫女達については?」
「信用できる人たちだし、養える男の人は大勢子供を作るものだって教わったよ」
つまりは洗脳教育。俺みたいなのは余り気味の女性を養い産めや増やせなな感じなのですね。教育で刷り込まれたなら納得の回答ですよ……。
「教育のせいか」
「ですが生まれてくるのは半々だったとしても、成人になると女の方がやや多く、力仕事や危険な仕事には男の方が就く事が多いので三十になる頃には三対七に近い数になっておりますよ」
「そんなに……?」
「そんなにでございます」
納得したわけではない。何を今更と言われるかもしれないが、ハーレムというのにも多少は抵抗は感じている。だからこそみんなとちゃんとしようと決めている訳でもあるが……。
この世界の女性は比較的独占欲よりもいい男は共有するものというイメージが強いようだ。
つまり、共有される男の方はあまり選択肢はないのだ。さすがにこれは勘弁というのは断れるだろうけど、そういうのはエリナが全部はじくし、それ以外の人もふさわしくないと思えばはじいている。
俺はもう流されるだけでいいような気がしてきた。俺の精神安定の為にもだ……。
「ユキトくんの夜の相手の管理は任せて」
「あぁ、もうエリナに任せるよ。無理のない計画をお願いします」
「え? 本当に? それじゃみんなとも相談して色々決めるね!」
エリナがものすごい笑顔で部屋へと戻って行った。もしかして失敗したかしら?
「これで我々も安心できます。きっと子だくさんになりましょう」
笑いながら去って行くウメさんを見ながら俺はトボトボとサークリスへと向かった。家を建てよう。現実逃避には丁度いい。
この現実逃避の間にも俺のまわりはどんどん決められていく事になるのだが、もう俺は流されるままなのだ。どこかに流れ着くその日まで……。




