7.ロゲホス
「これが今日の成果だね。ゴブリンはすぐに増えるからこっちとしては助かるけど今日はゴブリンが多いね」
「アクアがウルフよりもゴブリンを倒したがるからこんな事になってます」
「その子の成長も異常だよね……。大丈夫だと思うけどちゃんとしてね? はい、これで完了。これで八級に上がったよ。おめでとう」
「ありがとうございます」
一昨日九級の依頼をこなして今日八級に上がった。ありがたみも何もないがここまではゴブリンを倒せれば比較的簡単に上がって来れる。依頼も常時依頼ばかりなので回数をこなせばそれだけでいいのだ。
「七級昇格試験を受ける為には三十回以上依頼をする必要があって、しかも日帰りできるものはほとんどないから、ここからは本当にゆっくりやるんだよ」
「わかりました」
「そうは言いつつ、すぐに三十回分の依頼を終わらせて七級昇格試験を受ける事になりそうな気がするんだよね」
「さすがに三十回分はきついと思いますよ?」
「普通はそうなんだけどね。でも、まずは九級の依頼を続けて装備の更新からね」
まだ買ったばかりなので、ここで買い換えるのは理解はできるけど勿体ないという気持ちが強い。本来ならもっと傷つくんだろうけど、俺の装備は手入れもしてるしキレイなものだ。前衛用の物を買ったのに魔法使いまくってるしなぁ。
「更新しないとダメでしょうか?」
「ダメ、ちゃんと新人セット卒業しないと八級の依頼は受理しないからね。これはユキト君だけにいじわるしてる訳じゃなくて、八級の依頼は依頼人に会うからその時に新人セットじゃ相手も不安になるでしょ? だから受付で全部依頼を受けさせないようにしてるの」
「それなら仕方がないのでお金貯めようと思います」
「どんな装備を買うのか楽しみにしてるね。それじゃ、今日はお疲れ様」
八級には上がったが、手持ちだけで装備を変更するのは心もとない。とりあえず八級の依頼にどんなものがあるかを確かめてみる。
討伐、採取と色々あるけど常時のものは一つしかない。いや、一つあるのだ。記憶の情報だけだと心配なので資料室に行って調べる事にした。
依頼の内容はロゲホスの毛皮を持ってくる事。外見はずんぐりな馬で全身を長い毛で覆われている。木綿よりも冒険者の服の素材としては優れている。
でも、南西の森を迂回して行くので片道二日かかり、大荷物になるので馬車がいる。しかも突進してくるので馬車を壊される心配もある。だから複数のパーティで狩りに行く事が多い。
そんな依頼なので毛皮一枚で依頼一回分になる。しかも買取り金額も高い。ゲームの時を思えば買取り金額が高すぎる気がするが、そこは需要と供給のバランスが崩れているからだと思った。
ロゲホスの生息域を確認した俺は決めた。森を突っ切って行きロゲホスを狩ってこようと。
ゴブリンやウルフなどなら相手にもならないし、人に見つかりにくいので木々があるが全力で移動できる。無限倉庫なので数も持って帰れる。
肉も資料によれば中々うまいらしい。でも王都ではほとんど流通していない。うまくてその場で冒険者が食べてしまうからだって書いてあるけど、いくらで売れるかわからないし、移動で肉の品質がどうなるかわからないから、確実に売れる毛皮だけ持って来てるんだと思う。
ただ、常時依頼とはいえ依頼をこなしたとカウントしてくれるかわからないので大目に狩ってきて、素材と魔石を売りお金を作り装備を整えて、三十枚確保した毛皮で依頼達成にしよう。
……スイナさんの予想通りすぐに八級も終わってしまう気がする。
とりあえず想定外の事にも備えて一週間分の食料を買い込んで来ようと思う。セオリー通りなら二日移動一日狩り二日移動の五日分あればいいんだけど、それに後二日分追加で買っておいて、一週間分ということにした。無限倉庫の状態保持はとっても便利です。
翌日、俺はロゲホス生息域にむけて森の中を走っていた。食料に余裕があるし、テントも買ってきた。欲を言えばアーマードボアの魔石がほしい。加工して魔物除けの魔道具にしたかったけど、そもそも出てきたら大騒ぎになるアーマードボアの魔石など手に入る訳もなく、仮にあったとしても手の届く金額であるはずもない。
ないものはないので、とりあえず気をつけておくことしかできないかな? 他で代用できるかな……。
まっすぐ進んでいたら障害物を発見した。ゴブリンの集落だ。まっすぐ進んで毎度毎度ひっかかるのは面倒だし、時間的余裕は十分にある。そしてなにより、ロゲホスとの戦いではまったく出番がなさそうなアクアの運動の為に潰しておく事にした。
前衛スライム、後衛狐人族という常人には理解しがたいパーティがゴブリンの集落を蹂躙して行く。
アクアはいつの間にかできるようになっていた飛び上がって体を伸ばし叩きつけるという方法がお気に入りらしく、ピョンピョン跳ね回りながら縦に回ったり、横に回ったりしてる。
腕位の太さがあるので鞭のようにとは行かないがゴブリン相手ならそれで一撃で倒していく。体の一部を触手のように伸ばすことはできない。でも、ゲーム中はただひたすら体当たりしかしなかったことを考えると将来的にはできるようになるかもなぁと考えながら、遠距離から弓や魔法で攻撃してくるゴブリンを狙い撃っていく。
ナイトゴブリンも出てきたがアクアにまかせた。ゴブリンよりも数段強いがオートプロテクションがあれば何の問題もなく戦える。
的が小さいのでナイトゴブリンは横薙ぎは使いにくいらしく縦斬りを多用してくる。そうするとアクアにとっては避けやすい攻撃ばかりになるので回避してカウンターで体当たりを繰り返してる。
はっきり言えばここまで戦えるとは思ってなかった。たまに横薙ぎも入れて来るがそれにも問題なく対処している。
ゴブリンの方は今蹴り上げれば攻撃が当たっただろと思う事はあったが、剣を持ってしまっているからかそういう攻撃はまったく頭にないらしい。
けっきょく、オートプロテクションを一度も発動させることなく格上のはずのナイトゴブリンを倒してしまった。当たらなければどうということはない。という言葉を体現した形だ。
アクアはこれで満足したらしく、この後は魔石集めに行ってしまい残りは俺が相手をする羽目になった。それでも魔石を集めてくれるから助かるけどね。
その後すべてのゴブリンを倒し、範囲指定したダウンバーストで集落を押しつぶして新しい住民が住み着かないようにしておいた。とはいえ開けた場所ではあるから時間が立てばまたできるかもしれないけど時間は稼げるだろう。
そんな事をしながら森を突き進んでいった。途中でまたゴブリンの集落を見つけたけどルート上ではなかったしアクアも乗り気じゃなかったので放置した。
そして森を抜けた。 時間は大体……1時過ぎくらいだろうか? 森を突っ切ったとはいえ二日かかる場所に五時間程度で到着したわけだ。まっすぐ帰るだけなら三時間とはいかないまでも四時間はかからずに帰れるだろうか?
一応日帰りできるけど狩りの時間は少なくなっちゃうかな……。うん、今日はテントも使ってみたいし野宿をしよう。無駄に一週間分の食料があるから問題はない。
今日と明日の昼前くらいまで狩りをして帰ればいいだろう。そう決めてさっそく狩りを開始した。
探すまでもなくロゲホスはそこらじゅうにいた。やけに多い気がする。
ロゲホスを倒す基本的な方法は遠くから矢じりをつけていない矢を当てて一匹だけおびき寄せて倒す事になる。これだけ多くてもできるのか不安があるけど……。
なぜこんな方法を用いるかといえば、ロゲホスがある程度ダメージをくらうと仲間に助けを求める為に鳴くのだ。そうすると周りの敵が寄って来る。それを防ぐ為におびき寄せてタコ殴りである。
まずはその基本に倣って矢はないので石を投げておびき寄せる。石があたったロゲホスがこちらに近づいてくる。ある程度近づいた所でいつもと同じ感覚で頭にサンダーニードルを撃ったのだが、
「ヒィン」
と、当たってよろけはしたけど刺さらなかったらしい。刺さってからの放電が重要な魔法なので刺さらないと意味がない。今はまだ色々と情報を集めたいので確実に倒せる威力で撃つ。
「サンダーニードル!」
気合を入れて撃ったのでおそらく先ほどのよりも五倍くらいの魔力を込めて撃ちだした。鳴く前に無事倒すことは出来たけど、なにやら香ばしい匂いがする。
確かめてみるとどうやら出力が強すぎて内部の肉までも焼いてしまったらしい。
まずは威力調整からしないとなと言う事で最適な魔力量を探すためにチマチマとロゲホスを狩る事にした。
検証結果、ゴブリンなどを相手にしてた時の三倍ほどの威力が必要な事がわかった。七級相当の魔物と戦う事になったらニードルからアローにするべきかもしれない。それはそうと力加減がわかればやることはただ一つ。鳴かせて呼び寄せるだ。
魔法が届くギリギリ……大体二百mくらい先にいるロゲホスに二倍の調整したサンダーニードルを足に撃ちこむ。さっきはこれを撃ちこんで立ち直る前に倒したから鳴くか少し自信がなかったが、頭ではなく足なので身動きできなくなり、鳴いてくれるだろうと思った。
予想通り鳴いたロゲホスのまわりにいたロゲホス達がまずその鳴いたロゲホスに近づく。そこを今度は三倍の魔力のサンダーニードルで頭を次々に撃っていく。
こちらに気が付いたロゲホスもいるがどんどん撃っていく。ほとんどシューティングゲーム感覚だ。そんな中でも最初の一頭は鳴き続け哀れな犠牲者を次々と呼び寄せる。
結果四十七頭のロゲホスが狩れてしまった。受け取ってもらえればこれでもう七級昇格試験になる。そして、もう少し無理して日帰りしようかと再び悩むことになった。しかし今回はため込むことにした。まとめて売らなければいいだけなのだ。
こうして狩りをして百三十頭ほど狩ったところで日が暮れ始めたので森の方に戻っていった。十分すぎる数を狩ったので明日は朝から帰ってお金を作り、装備を更新するのだ。ついでにキューム古着屋でロゲホスの毛で出来た糸と布を売っていないか聞いてみようと思う。装備の更新なら服もしっかりしたものに変えないとね。
そして夜は更けて行った。俺が寝る前に濃厚な殺気をあたりに振りまいたため魔物は一切近づくことはなかった。