69.シーリア
シーリアともすでに何度かの夜を過ごしたある日の事。
「シーリア、出かける気はないか?」
「私か? ……そう言えば今までここに来る移動以外で外に出た事はないから特に考えた事もないな」
「どんだけ箱入りだよ……」
「その方が都合がいいだろ? 外に出たいとだだをこねられるよりはこうして大人しく家にいた方が管理も楽だろうしな」
「そうですか……。それでどうだ?」
「んー……。いや、私が外に出ると周りが忙しくなるからな。大人しくしてるさ」
お付のメイドはもちろんの事、交代で外に居る王様からの見張り要員も慌ただしく動くことになるだろうから大人しくしていた方が周りが楽なのはわかるがそれでも外に出たくないのだろうか? ただの引きこもりだろうか? まぁ今回出かける場所はそういうのを気にする様な場所じゃない。
「気にしなくていいぞ。お付きのメイドさんもつれて巫女達が来てる場所に案内するから、外には迷惑掛からないし」
「……いいのか?」
「いいぞ。シーリアはもう完全に身内だし、不穏とまでは言わないまでも不確定要素は排除し終わったし」
「何人かが辞めていったのは君が絡んでいたのか」
「挨拶したら勝手に辞めていっただけだよ。やぁおはよう。昨日はどこそこの貴族と仲の良い人とお楽しみだったみたいだね。って言っただけだよ」
「十分だろ……。むしろそういう人がまだ屋敷内にいたのか……」
「まぁ王が選んだと言っても王が命令した先で色々あったら仕方がないさ。っとここから先は機密だったっけ」
「……君も大概だな」
意外と密偵ゴッコも楽しかったとだけ言っておこう。それはそれとして本題である。
「それでだ。けっきょくどうする? 向こう側知りたくないか?」
「メリアどう思う?」
「問題ないかと。ですがせっかくのお出かけですのでお二人で行ってこられてはいかがでしょうか?」
「メリア、どうした? こういう時は積極的に着いてくるものとばかり思っていたが?」
「愛しの旦那様とのデートを邪魔するほど無粋ではありません。ユキト様の実力はそこらの騎士などが束になっても余裕ですしなんの問題もありません」
「愛しのって……。こほん、メリアが男を認めるとは珍しい事もあるな」
「それだけの人物ですから」
メリアには色々情報が入って来てるはずだから、その上での判断と言う事なのだと思う。王様との連絡要員の一人だし……。
それにしても愛しのでぶわっと顔が赤くなったシーリアは中々可愛いと思う。クーデレというやつだろうか。
「それでけっきょくシーリアはどうするんだ?」
「それは……わかった行こう。ただ、着替えるから待っててほしい」
「わかった。部屋に居るから準備が整ったら教えてくれ」
「わかった」
そうして俺は部屋に戻ってアクアと遊んでいた。最近は家の中では幻術を解いている。
話せないので影の薄いアクアではあるが、ダンジョンに潜ってはヘッドショットで魔物を倒しまくり、家では巫女、メイド問わずけっこう可愛がられたてたりする。
それでもちょくちょく戻って来るのだが戻って来る理由が大抵、魔力頂戴なので都合のいい充電器みたいなものだ。
だが、最近はレベルも上がったのと俺の魔力をたくさん食べてる事。そして何より魔法を使いまくってる事で魔力量もかなり増えて戦闘中に戻って来る事は少なくなった。それでもあるにはあるが、大抵がダンジョンの魔物大集結って場面での事なので普通に戦ってる分には問題なさそうだ。
アクアの弱点は足が遅い事くらいだろうか? 耐久力に関しては怖いから試してないし、装備もできないからそこも弱点と言えば弱点ではある。
足が遅いと言っても、そんじょそこらの馬の脚よりは早い。でも俺達の基準ではまだ足が遅いスイナよりも移動速度は遅いのだ。だからフード移動が基本になってしまっている。それが速度を鍛えられない理由でもあるのだがまぁしょうがない。
前にスライムがここまで強くなるなら他の魔物ならどうなるのか? むしろスライムをテイムしまくって育てるだけでとんでもない軍ができるんじゃと言われたけどそこまでするつもりはない。
アクアはあくまでもペット枠であって戦力ではないのだ。それにスライムくらいの手軽さで飼えるならまだしも、食事を用意して排泄はどうこうとかは俺には無理だ。
あっちに居た頃は母親が好きで飼っていたのだが、時間の都合で俺が半分以上面倒を見ていた。
その時思ったのだ。ペットはやめようと……。スライムなら魔力と水だけでいいし、吠えないからな!
どれくらい待っただろうか? 朝、声をかけたはずなのにすでに日は高い位置まで昇って来ていた。……外行き用の服がなかったのだろうか?
そんな事を考えているとノックの音が聞こえた。ようやく準備ができたようでシーリアの部屋へと向かった。
「どうだろうか?」
「似合ってるよ。ただやけに時間がかかったけど」
「……服がなかったからな」
「今度縫うよ」
「君は縫い物もできるのか?」
「エリナ達が着てる服は俺が縫ってるぞ? そういえばローブを縫うの忘れてたな。時間取れるかな」
「確か料理もできたよな?」
「むしろ戦闘よりも生産活動する方が好きなんだけどな。できる物の性能がその辺のものとは段違いだから、特級まであげておきたかったんだよ」
「前代未聞の理由だな……」
「気にするな。それじゃ行こうか」
「あぁ、案内頼む」
俺はシーリアの手を取り左側の奥の部屋へと向かった。そしてその部屋に入る。部屋に入ってようやくシーリアもおかしなことに気が付いたようだ。
「こんな部屋があったのか?」
「あったんだよ。魔道具使って誤魔化してるけどね。それじゃそこで靴を脱いでこっちのスリッパに履き替えてくれ。靴は向こうで外に出る時に履くから手で持っててくれ」
「どうして脱ぐ必要があるんだ?」
「向こうの生活様式で室内で靴は履かないんだよ。だから部屋専用のこのスリッパに履き替えるんだよ」
「なるほど、しかしこれは一体なんだ?」
「転移魔方陣、遠く離れた場所に一瞬で行ける便利なものだな」
「……こんなものがこの家の中になんであるんだ?」
「俺が設置した」
「……君の前に常識は無意味なんだね」
こうしてシーリアも俺の事を非常識だとか常識ブレイカーとかいう認識を持つことになった訳だが仕方がない事と言える。
そう言えば向こうにいた時は俺以外にも転移魔方陣を敷ける人は多くいた。その技術を大々的に発表すれば聖教国の威信も上がるように思うのだが……秘匿して他国に出入りしやすい状況を作っているのだろうか?
それとも俺以外にできる人がいないのかもしれない……。さすがにそう考えるのは甘い見積もりだろうなと自分を戒める事にした。なにか感知できるような道具が作れないかな?
「どうかしたのか?」
「あぁ、ごめん。ちょっと考え事してた。それじゃ行こうか」
そうして俺達は里へと向かうのだった。
あっという間に変わった部屋の様子にシーリアは目を丸くしていた。
「ここが?」
「そう、ここが連合国にある狐人族の神狐信仰をしてる者達が住む里だよ」
「連合国? ここが? これが転移……。君はこの技術どうするつもりだ?」
「自分の使いたいように使うさ。他の誰かの利益の為に使うつもりはないよ。俺の利益が他の誰かの利益になる事は多々あるだろうけどね」
「下手に広げないでくれよ……。国がどう動くかわからない」
「使徒の中には転移魔方陣敷ける人がいるかもしれないけどね」
「そんな重要な情報を……いや、情報の真偽が確認できないからなんともならないのか? いや、それは確認をすればいいだけか?」
「やめとけやめとけ、使徒相手じゃ気が付かれて終わりだ。下手に刺激しない方がいいと思うぞ」
「……そうか」
忍者プレイしてる知り合いもいたし、他のプレイヤーもそこそこ危機感知能力は持っていた。こっちの人の監視ではおそらく見つかって終わりだと思う。
それでも情報を集めておくべきなのだろうか? その辺の判断はつかないが、使徒の動向を知る為にすでに送り込んでいるなら送り込んでるはずなので気にしなくてもいいだろうと思う。
「それじゃ、こっちの案内するよ」
「よろしく頼むよ」
こうして俺はシーリアに里の案内をしていった。途中でこっちでしか売っていないアクセサリーなどを買って行った。
「ここでは君はユキト様なんだね」
「信仰の対象である神狐という種族。その種族である俺。つまりはそういう事だよ」
「気安い神様もいたものだ」
「まぁそうだな。ところでシーリア」
「なんだ?」
「そろそろ俺の事を名前で呼んでもいいんじゃないかな?」
「それは……」
そう言うと悩みだした。いや、名前を呼ぶってそれだけの事でそんなに悩む必要があるのだろうか?
「もしかして名前で呼ぶのは嫌なのか?」
「そうじゃない。その……今更名前で呼ぶというのは、は、恥ずかしいじゃないか」
「そんな目を反らしながら言わなくても……。こうしてこっちの秘密も暴露したんだから、名前くらいは呼んでもらいたいな」
「そうだろうか? ……ユ、ユキ、ユ、ユキ……ト」
「はいよ」
「ユキト」
「あぁ」
「……なんだこれ? なんだか異常に恥ずかしいぞ」
「慣れてないだけだよ。慣れればどうってことないって。そもそも恥ずかしいと思ってるから恥ずかしく感じるだけだし」
「そういうものだろうか?」
「そういうものだよ」
最後の締めはシーリアに名前を呼んでもらえることになった事になった。
……そう言えば、普通のデートっぽいデートは初めてだったかもしれない。前回はカヤが案内でスイナとだったが、あれはデートというにはちょっと違う感じだったし。
他の方々は訓練中毒なので誘っても乗ってくれないから、デートしたくなったらシーリアを誘おうと決めた。夜は激しいのにねぇ。




