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66.アルバザール

 王の意図はまるっと無視して王がやった事と決めつけて俺達は旅だった。

 実際は誰が主犯でもいい。ああやって王に圧力をかけておけば王の方で対処してくれるはずだ。


 だからと言って長い期間屋敷を空けるつもりはない。カヤに早く帰って来てね。なんて少し涙目で言われたら急いで行くしかない。

 スイナの脚力を鍛える為に午前中は一緒に走ったが午後は、アクアをエリナに任せて俺の背中にはスイナを背負っていた。

 カヤの言葉は俺達を突き動かし、エリナとミヤビもかなりがんばって走ってた。そのがんばりもあって馬車で二週間かかる道のりを四日で走破した。




 アルバーザルのダンジョンに潜るにはダンジョン専用のカードをもらう必要があるので、冒険者ギルドに来ていた。


「すみません。ダンジョンに潜りたいので登録をお願いします」

「は~い、冒険者の登録ができてるのであればカードの提示をお願いします」

「リーダーだけでいいですか?」

「ダンジョンに潜る資格は一人一人に発行されるので、お手数ですけど全員分お願いします」


 そう言われた俺達は四人分のカードを提出した。もしかして先に一言言っておいた方が良かっただろうか?


「ありがとうございます。…………少々お待ちください。すぅはぁすぅはぁ……。カードありがとうございました。お返ししますね。それではカードを作って来ますが、四人分ですか?」

「四人分でお願いね」

「わかりました」


 俺には質問の意図がイマイチ掴めなかった。そして答えたのはスイナだ。


「スイナ?」

「昔のダンジョンカードはもう無くしちゃったんだよね」

「あぁそういう事か」

「そっか、スイナさんは前に来てたんだもんね」

「えぇ、でもいつの間にか無くなっちゃったんだよね」

「それなら再発行でもいいんじゃないのか?」

「後でその説明もされると思うけど、ここのダンジョンカードは再発行できない仕組みらしいよ。詳しくは知らないけどね」


 あっちに居た時はカードを無くすというのは仕様上できなかった。その為俺でもその事は知らなかった。とはいえ、どうせ一人だけ到達階層が違うカードを持っていても仕方がないので全員新規でもなんの問題もないと思う。


 そんな話をしながらカードを待ち、その後説明を受けた俺達は宿を取り、食料の補充をしてから休んだ。全ては明日からの攻略の為に……。




 翌日、俺達はダンジョンに潜り始めたのだが、


「違う。こんなのは違う」

「スイナ、どうかしたのか?」

「どうかしたのか? じゃないよ! どう考えてもおかしいよね? 私がおかしいわけじゃないよね?」

「スイナさん、落ち着いて」

「落ち着いてと言われてもね。ユキト君が最初に地図を見てその後は先頭に立ってずっと走り続けてるっておかしいと思わない? もちろん私がついて来れるようにゆっくりではあるけど」


 スイナが言う通り、俺達はダンジョン内を駆け足程度の速さでずっと走り続けてる。浅い層の分は売ってる地図を見るでもないのに、道を間違えず階段にたどり着き、魔物も俺が感知してアクアが魔法で倒す。少し加速して回収してすぐさま先頭としてまた走り出す。

 慎重さの欠片もないダンジョン攻略にスイナはついに疑問を呈したのだ。よく今まで我慢してたとも思う。


「地図は百階まで頭の中にあるし、もし間違っても前にケルピーネに潜った時にやって出来た地形把握の魔法でなんとでもなる。敵の強さは俺達全員があしらえる程度の強さしかない。なら移動速度最優先でいいだろ?」

「そう言われるとそうなんだけど、納得いかないよ。それに罠とかもあるからね!」

「地形把握はその辺も優秀だから」

「絶対間違ってるよ」

「スイナさん。諦めましょう。ユキトさんといるとこんなものです」

「ユキト君と組むと他の人と組めなくなるね……」

「他の人と組ませるつもりもないけどね」


 こうして俺達はひたすら次の階層を目指して走り続ける。途中ですれ違ったパーティに変な目で見られても気にしない。ダンジョンの中だと時間の感覚がおかしくなるがそこは時計を見ながら行動して睡眠もしっかり取り行動した。




 そして三日後、俺達は五十五階までやってきた。ここ数十年はここからが最前線で六十階のボスを突破できたパーティはいないらしい。

 いつも通りそのまま通り抜けようとしたが二十人ほどが準備をしており、速度を緩めて通るしかなかった。


「おぅ、あんたら見ない顔だがここは初めてかい?」

「経験者が一名、残りは初めてだよ。先を急ぎたいんだけどいいですか?」

「この先は四人じゃあぶねえぜ? 俺達と一緒に行かねぇか? こっちとしても戦力が増えるのはありがてぇんだ」


 大体こうやって誘って来るのは三人を見て引き込もうとするのだが、この人からはそういうものは感じられず、純粋に今言った通りなんだと思う。

 だからと言って俺達が一緒に行動する理由にはならない。


「まずは俺達だけで行って無理そうならお願いしますよ」

「そうか、命あってだからな。無理するなよ? すぐに引き返して来ても笑いやしないからな」

「ありがとう。それじゃ」

「おぅ、気をつけろよ」


 俺達は見送られて先へと進んだ。


「いい人だったね」

「あぁいう人ばっかりだと色々楽なんだけどな」

「それはさすがに無理じゃないかな?」

「そうだな」




 俺達は六十階のボスもあっさり倒して、六十階の石碑の所で今日は休むことにした。


「今日もおつかれさま」

「おつかれさまぁ」

「おつかれさまでした」

「おつかれ、日々慣れていく自分が怖いよ」

「慣れなきゃやってられないよ。それで明日からも同じように進むけど長い間、人が入ってないって事だから進化した奴らがいるかもしれないからそれには注意してね」

「進化した奴ら?」


 ケルピーネでハイデーモンやアークデーモンを相手にしたエリナやミヤビは俺の言ってる意味がわかったがスイナはわからないのでその説明をした。


「あー、なるほど、私達が昔潜った時に同じ種類の上位種がいたのはそういう理由だったんだね」

「到達階層更新したのはスイナがいたパーティだから理由は分からなくても出会ってはいたか」

「そうだね。けっきょくあの時は四人帰って来れなかったんだよね。そのせいでパーティを解散したから一度しかあそこには行った事がないだよ。帰りは帰りで必死だったしそこまで気が回らなかったから」

「そっか」


 昔を思い出して少し寂しそうにしたのでスイナの隣に座り直して肩を貸してやりながら頭を撫でた。


「長い事時間がたったけど弔い合戦といきますか」

「そうだね。あのボスを今度こそボッコボコにしてあげるよ」

「それじゃ、今日はゆっくり休んで備えないとね。とはいえ九十階のボスにたどり着くのは明後日以降になるだろうけどね」

「無理せずゆっくりでいいんだよ?」

「無理だと思ったらゆっくりにするよ」


 こうして休み翌日も朝早くから移動を開始した。多少進化したのか上位種も混じっているがなんの問題もなくアクアに狩られている。

 最近はアクアとの連携が非常に楽だ。俺が感知してあそこかと思うと魔法を飛ばして倒してしまう。非常に楽だがその代わりに道中誰も攻撃が出来ないでいた。

 逆に言えばアクアが簡単に対処できる魔物しかいないというわけだ。それでも今までよりは魔物の数が多いので移動の足は自然と遅くなっていた。


 そうとはいえ歩くよりは早いし、罠も俺が魔法で潰して回っているので普通の攻略をしている人たちよりは明らかに早いだろう。しかも階段まで一直線だし。




 そしてたどり着いた九十階のボス部屋だったのだが、


「なんだか申し訳ありません」

「ミヤビが悪い訳じゃないよ」

「ですが……」


 ミヤビはしょぼくれて何とも言えない雰囲気が漂っていた。それもそのはず、スイナの居たパーティを倒したボスなので気合を入れて戦闘に入り、ミヤビが前衛としてグレイブを突き出した。

 それだけで終わってしまったのだ。四尾に進化したミヤビの相手としては不足だった。

 そもそもの個人の能力の違いに、移動に伴う疲労の違い。色々と条件の違いはあるとはいえあまりにもあっさりと終わってしまった為に最後はスイナにと言っていたのがこの有様。ミヤビのあまりの落ち込み様にスイナがフォローに回る始末だ。


「あの時とは条件が違うし、倒せたんだからね?」

「ですが」

「気にしないで、ほら、私達の目的はここから更に深く潜る事だから時間をかけるのはよくないでしょ? 結果的には良かったんだよ」

「そうでしょうか?」

「そうだよ! ほら元気出して」

「そのすみません。色々フォローしていただいて」

「いいのいいの。次に進みましょう。ね?」

「はい、ありがとうございます」


 そうして俺達は先に進み百階まで到達したのだった。

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