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65.約束(強制)

 俺はシーリアについてシーリアの部屋へと行った。


「それで、依頼の内容はどんなものだったんだ?」


 控えていたメイドにお茶の用意をさせながらシーリアは俺に問いかけて来た。自分の親が事情はあれど夫となった人に出した依頼だ。気にならないって事はないだろう。依頼によっては話せないけどこれは特に気にする話じゃない。


「知名度を上げるのが目的だと思うけどアルバーザルに潜って到達階層の更新をしてこいってさ」

「ダンジョンに潜るのか……。大丈夫なのか?」

「さすがに絶対大丈夫とは言わないけど死ぬようなへまは踏まないさ。みんなにケガさせないように気を付けるくらいだよ」

「試験を見てはいたがイマイチ強さがわからないからな。最初はアレと近い実力なのかと思ったら総団長は気がつけば壁に張り付いていたからな」

「試験だからある程度戦わないとと思ってたんだけどあの程度だったし、なんかもう時間は無駄にしたしめんどくさいしでさっさと終わらせたんだよな。ちなみにあれでも強化なしで手抜きだぞ」

「……全力だと何ができるんだ?」

「やった事ないからわからないよ。殺傷力の高い魔法でフレスベルグ倒した事ならあるけど」

「滅ぼす者フレスベルグか。冗談だとしてもそれくらいの自信はあるのか」

「実際倒したんだけどねぇ」


 どうやら信じてもらえなかったようだ。まぁ普通に考えて倒せるとは思わないか。


「総団長をあっという間に倒した実力はあるだろうが、油断しないでくれよ? 今、君に死なれたらあいつの所に行かされる可能性もあるからな」

「未亡人にするつもりはこれっぽっちもないよ」

「そうしてくれると助かる」




 そして沈黙が降りた。ここからが今朝の話の続きになるのだろうか? こっちから話すべきか待つべきか……。そんな事を考えてたら先にシーリアが話しはじめた。


「まずはお礼を言っておくべきかな? 妙な魔道具を取り外してくれた事感謝する」

「さすがにこっちも四六時中盗撮、盗聴されるのはたまったもんじゃないし、勝手に魔力を吸い上げられたり、内部制圧用の魔道具なんて気分がよくないしな」

「……そんなものまであったのか?」

「あったよ。だからこそシーリアにこの家は誰の物かって聞いたんだよ。巫女達が来るためってのももちろんあったけど、私物以外で屋敷内に設置してあるものを俺がどうしようと勝手だろ?」

「それは私物だからと言われたらどうするんだ?」

「そうしたらただの犯罪者だろ? 内部制圧用なんてものがあるんだし」

「違いない」

「盗撮盗聴はだけなら娘の心配をしてと思うけど、内部制圧用のものがあるとさすがにひくよ」

「ちなみに君たちには効くのかい?」

「俺とエリナ、ミヤビにスイナは平気だろうけどトウカには十分効く。効果から察するとカヤはまずい事になるかもしれないくらいの威力はあったと思う。だからこそさっさと外したんだけどな」


 拘束するタイプではなく、麻痺とかで無力化するタイプの物だった。大人なら平気かもしれないが子供のカヤでは変な影響がでかねないと思ったのだ。

 それにこれから先、シーリアとの間に子供ができればさらに弱い存在がこの屋敷の中にいることになりそんな所で使われたらと思うとゾッとする。


「子供に被害が及ぶのは良くないな……。父は何を考えているのか……」

「やっぱり国王絡みか」

「君にだってわかっていたはずだ」

「想像がつくのと実際にそうだと言われるのはだいぶ違うぞ?」

「……確かにそうだな」

「まぁ監視しといて何かあれば制圧しようと思ってたのかもしれないけど、ばれる事考えなかったのかな? シーリアだって気が付いてたんだろ?」

「私といよりも私付のメイドだ。彼女らは優秀だからな」

「そうか。それであの執事はどうするんだ?」

「どうにもできないだろう。注意するだけはしたが彼の上は国王だからな」


 つまり国王とお話する必要があるのだろうか? めんどくさいことこの上ない。もしかして俺達をこの家から引き離すのが目的じゃないだろうな?


「今回の依頼、俺達をこの屋敷から離してなにかするという可能性は?」

「さすがに私も父をそこまでは疑いたくないぞ」

「そうなると……面倒だけど国王に直接聞くしかないかな」

「どうやって聞くつもりだ? 普通に行っても会えないと思うぞ。私ですら降嫁したのだからと容易く会えなくなっているんだ」

「正面から歩いて乗り込んで来るよ。気が付かれなければいいんだし」

「正面から気が付かれないでってどうやって行くつもりだ?」

「俺ならいける」

「方法は秘密か。ばれないようにしてくれよ。私にもどんな被害が来るかわかったものじゃない」

「家族は守るさ。シーリアも含めてな」

「……勝手にしろ」


 ちょっと赤くなってぶっきらぼうにそう言った。これは好感度が上昇した気がする。体だけの関係じゃなくて嫁として来たのだからちゃんと愛し合いたい訳です。


 この後は二人で話をして、食事をとった。そして夜俺は王城へと忍び込むのだった。




 俺は今、城の中を歩いていた。夜の警備をしている兵士やまだ仕事をしている様子のメイドなどの横を普通に歩いて行く。

 所々魔道具で監視があったりもするが俺にはまったく効果が無く移動できた。つまらないという感想は不謹慎だろうかと思いながら目的の部屋までやってきた。

 入り口には騎士が居て扉を守っているが、ちょっと騎士に幻術をかけて俺は中に入って行った。入った直後にしっかり魔法を使って外部とのあらゆる接触ができないようにしておくことは忘れない。


「こんばんは」

「お前は……どうやってここに来た?」

「もちろん歩いてですよ? 魔法って便利ですよね」

「ここがどこかわかっているのか?」

「この国の王様の寝室ですね。それよりそっちこそ誰に手を出したのか覚えてもらう必要があるかと思いましてこうして来たわけです」

「何のことだ?」

「屋敷に魔道具仕掛けさせたのはあんただろ?」


 威圧込みで俺は言葉を発した。しかし、さすがは国王と言うべきか顔色を変えないでいた。もちろん変わってないのは顔色だけで体の緊張具合は高まっている。


「……証拠があって言っているのか?」

「証拠なんてどうでもいいんだよ。うちの家族に手を出したのがあんたの派遣した執事だ。それだけで十分だ」

「何が望みだ」

「あんたの依頼は一ヵ月以内に成果を出してやる。結婚発表もしていい。その後はシーリアも含めてこちらに手を出すな。それが望みだよ」

「私から手を出さない事は約束しよう」

「こちらに手を出すなと言ったんだ。バカの手綱くらい握っておいてくれ」

「……わかった」

「俺達は明日から依頼に出る。約束をたがえる事がない事を祈っているよ」


 正直もう少し世界は俺に優しくてもいいんじゃないかと思う事がある。何が悲しくて国王にケンカ売りに来なきゃならないのだろうかと思いながらこの場を後にした。

 見た目が強そうに見えないのがいけないのか。キレイどころを揃えてるのがいけないのか……。


 とりあえず明日までに出来る事をやっておこうと思う。経緯はどうあれシーリアは家族枠に入ってるしな。

 一応人を見る目はあるつもりですよ?

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